KEY ACTION IMMORALITY

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ひとりぼっちのおつきさま

今朝の月、綺麗だったねという話から始まった。 朝に空を見上げて月があるか確認したのか。私は話の始め方がおかしくなって、彼の顔を見て笑った。 何かついているかと聞…

自由と希望と絶望と私と灯り

ちよだ鮨、があまりにオートマティックになっていて、これはとってもいい事だとあなたは言った。私とあなたで鉄火巻を食べて、チューハイを飲んだ。 あなたは会計を私の分…

私、清瀬共花、22歳の日記。繰り返しの始まりはこの都心から。

私が死ぬほどに生き抜いた1週間の先にシュウジが何も考えずに立っているのに気づいた。それは喫煙所の前で彼を見た時かもしれないし、一緒にクレーンゲームをした時かもし…

無駄でだらしないコーラの中で、水に溺れそうな俺が息をする。

出勤時に炭酸飲料を持って行ってはいけない。 極めて厳格な公職でもなく、むしろSDGsとかソーシャルビジネスとかの流行に片足を突っ込んだような企業で働いている俺。 そ…

私しか知らない宗教

何も言わないままベンチに座って飛んでくる言葉にうんうんうんうんうんうんうん。 首が取れるほどに、うんうんうんうん。 この相槌の果てに幸せがあると信じて。 私しか…

朝日はいつの間にか夜になっている。

高く飛んだシャトルを薄目でとらえ、体を傾けながら右足にぐっと体重をかける。カクンと音をたてて曲がる私の膝が、何かのトリガーになった。ゴウゴウと音をたてながら白い…

【中編】かえってくる(Ⅰ)

「こんばんはー」 何の変哲もない女性の声だった。魅惑的でも、野暮ったくもない、一般的な透明度を備えた女性の声だった。 とん、とん、とん、とん、とん。 一定の間隔で…

7

何にも意味を求めない生き物になりたい。

人を見てたくさんの言葉が溢れた時代は終わり、その個人の機能にしか目がいかない時代がやってきた。 これは僕の中に流れる歴史の話だ。 何も起こっていないようで、絶え…

5

どこまでいってもお前は何にも追いつけないんだよ。

諦めないという言葉が君は好きだった。諦めないでひたすら走ってれば何かいいことがあるよ、結果が出るよと言い続けた。 諦めるという言葉を適度に使っている友達は起業し…

3

【短編】ガガンボ・ナイトクラブ

病室で愛する親友が死んだ経験なんてない。だからそれを経験したアーティストのような価値や強さが私にはない。隣で退屈そうにスマートフォンをいじる依子が死ぬ妄想をした…

7

【短編】月曜日は私の両手に

月曜日を私の胸の中に入れて暖めたい。 私が月曜日を愛する理由を説明しなければならない。そう思って語り始めたら脳の中を重いずっしりしたものが歩き回って邪魔して、結…

8

2024.06.18

私がミッドナイトガールだと知っているあの男はサンドイッチになって死んだ。 サンドイッチというのは物理的な意味ではなくて、彼女と浮気相手の間に挟まって、浮気相手に…

3

【短編】停滞した週末

超くだらない話をして、私の明日は超くだらないと確信した。道すがら、転がっているペットボトルには汚れが目立ついろはすのラベルが絡みつき、少々視線をあげれば、おそら…

10

【短編】ロンリネス・ケバブ

ビルの入り口にはケバブ屋のキッチンカーがあった。 そこには既に数人が並んでいて、僕と先輩は辟易した顔でその列に加わる。 先輩は腕時計を見ながら、次のミーティング開…

6

【短編】バーボンはもう甘い

おじさんしか生息していないのではないかという中野区の飲み屋街を歩いて、結局チェーンの寿司屋に入って、私は4杯、彼は6杯の酒を飲んだ。 信じている人生の形がもっと美…

7

おすすめのセルフケア「小説執筆」

Y公民館の17時、僕が図書館から出ると椅子と机の並ぶフリースペースが広がり、そこにはテキストを広げて勉強に勤しむ少年たちの姿が見られる。 同じくらいの人数で、新聞…

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ひとりぼっちのおつきさま

ひとりぼっちのおつきさま

今朝の月、綺麗だったねという話から始まった。

朝に空を見上げて月があるか確認したのか。私は話の始め方がおかしくなって、彼の顔を見て笑った。

何かついているかと聞かれて、鼻の下をトントンと叩いて見せた。実際は何もついていなかったが、彼は鼻の下をおしぼりで何度か擦った。それを見て私はまた笑った。

今朝の月がどうだったか、私は興味がなかったし、彼も大して関心がないに違いない。

私は謙介に渡す予定

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自由と希望と絶望と私と灯り

自由と希望と絶望と私と灯り

ちよだ鮨、があまりにオートマティックになっていて、これはとってもいい事だとあなたは言った。私とあなたで鉄火巻を食べて、チューハイを飲んだ。

あなたは会計を私の分まで出してくれた後に、カードで払った方が店を出た後に精算できるから、店側の効率的にも良いのだと言った。私は店側に迷惑をかけることは、お客として来ている自分たちにとって、そんなに気を遣うことだろうかと思った。彼は結局、私の分のお金を払わせて

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私、清瀬共花、22歳の日記。繰り返しの始まりはこの都心から。

私、清瀬共花、22歳の日記。繰り返しの始まりはこの都心から。

私が死ぬほどに生き抜いた1週間の先にシュウジが何も考えずに立っているのに気づいた。それは喫煙所の前で彼を見た時かもしれないし、一緒にクレーンゲームをした時かもしれないし、一緒にアイフォンのケースを買った時かもしれない。とにかく私がその日の為に何度死のうと思ったか分からないのに、シュウジはぼんやり渋谷に立っていただけだった。

渋谷のスクランブル交差点を渡り切った先で、本屋を指さして「入る?共花、本

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無駄でだらしないコーラの中で、水に溺れそうな俺が息をする。

無駄でだらしないコーラの中で、水に溺れそうな俺が息をする。

出勤時に炭酸飲料を持って行ってはいけない。

極めて厳格な公職でもなく、むしろSDGsとかソーシャルビジネスとかの流行に片足を突っ込んだような企業で働いている俺。

それでも薄まってぼんやりとした暗黙の規律には気を遣っていて、それのひとつが炭酸飲料だ。炭酸飲料を出勤時に持って行ってはいけない。

規律。人は等しく水分を欲しており、水分をとるのには水が一番であり、むしろ糖分による味付けは余計なものだ

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私しか知らない宗教

私しか知らない宗教

何も言わないままベンチに座って飛んでくる言葉にうんうんうんうんうんうんうん。

首が取れるほどに、うんうんうんうん。

この相槌の果てに幸せがあると信じて。

私しか知らない宗教。

えーん。

朝日はいつの間にか夜になっている。

朝日はいつの間にか夜になっている。

高く飛んだシャトルを薄目でとらえ、体を傾けながら右足にぐっと体重をかける。カクンと音をたてて曲がる私の膝が、何かのトリガーになった。ゴウゴウと音をたてながら白い点がみるみるうちに大きくなる。

このトリガーによって膝に乗ったエネルギーが全て手首に移り、思い切った捻りと共にラケットは凶器と化す。鋭い音を立てて、ガットの網目にたたきつけられたシャトルは、正面にいるひ弱な少年に向かって急降下していった。

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【中編】かえってくる(Ⅰ)

【中編】かえってくる(Ⅰ)

「こんばんはー」
何の変哲もない女性の声だった。魅惑的でも、野暮ったくもない、一般的な透明度を備えた女性の声だった。
とん、とん、とん、とん、とん。
一定の間隔でノックは繰り返される。過剰に乱暴なノックではない。だけど音は確実に寝床にいる俺の耳まで届いている。
「こんばんはー」
平坦な女性の声。4回ノックするごとに規則正しく1回挟まる挨拶。
反応はせず、何も聞こえていないという態度でい続ける。

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何にも意味を求めない生き物になりたい。

何にも意味を求めない生き物になりたい。

人を見てたくさんの言葉が溢れた時代は終わり、その個人の機能にしか目がいかない時代がやってきた。
これは僕の中に流れる歴史の話だ。

何も起こっていないようで、絶えず何かが起こっている人の内面に、面白いと思える何かを見出す。それが得意だった時代。

もう人の内面を見ることはなくなり、
人の行動を見るようになった。

物語は表現ではなく筋を見るようになり、
かといって筋を分析できるわけでもない。
筋が

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どこまでいってもお前は何にも追いつけないんだよ。

どこまでいってもお前は何にも追いつけないんだよ。

諦めないという言葉が君は好きだった。諦めないでひたすら走ってれば何かいいことがあるよ、結果が出るよと言い続けた。

諦めるという言葉を適度に使っている友達は起業したり、独立したり、死んだりしていた。
君はいいことがあると言い続けながら、死にもしないくせに、死にそうな顔をしながら、中の下くらいの給料で毎日前向きな言葉を口にしていた。

君は結婚した。私は君の結婚相手を見て、素敵そう、献身的でひたむき

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【短編】ガガンボ・ナイトクラブ

【短編】ガガンボ・ナイトクラブ

病室で愛する親友が死んだ経験なんてない。だからそれを経験したアーティストのような価値や強さが私にはない。隣で退屈そうにスマートフォンをいじる依子が死ぬ妄想をした。そうなったらいいとかは思わない。だけどそうならないことが、私が今の私にしかなれない要因ではないかとも思うのだ。

依子はよく分からない子だ。酒を飲むけど騒ぎはせず、オタクではないけどアニメに詳しくて、煙草をバカみたいに吸うくせにランニング

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【短編】月曜日は私の両手に

【短編】月曜日は私の両手に

月曜日を私の胸の中に入れて暖めたい。

私が月曜日を愛する理由を説明しなければならない。そう思って語り始めたら脳の中を重いずっしりしたものが歩き回って邪魔して、結論、私は月曜日が大好きなのだと説明したら隣の白髪のおっちゃんは歯抜けの口を見せて、「なんだそれ」と言った。

月曜日は私にとって全てが始まり、金曜日の19時以降は私にとって全てが終わる時間なのだ。ずっしりとした体に、つんつんした髪の毛を備

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2024.06.18

2024.06.18

私がミッドナイトガールだと知っているあの男はサンドイッチになって死んだ。
サンドイッチというのは物理的な意味ではなくて、彼女と浮気相手の間に挟まって、浮気相手に刺されて死んだという話なのだ。
彼は私に対して、浮気相手はロングヘアーでめっちゃエロくて自分と会う時ちょいエロの下着を決まって身につけてきてくれてワイン好きなのだと話した。
彼女についての話は一切しなかった。
彼は私に対して、ハイボールを飲

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【短編】停滞した週末

【短編】停滞した週末

超くだらない話をして、私の明日は超くだらないと確信した。道すがら、転がっているペットボトルには汚れが目立ついろはすのラベルが絡みつき、少々視線をあげれば、おそらくセブンイレブンから出てきた男の生脚が見えた。すね毛がぼーぼーだった。見たこともないのに、どこにでもあるような視界で、私は私で明日もくだらないのだなと思った。

帰ってみたら部屋は意外に整っていた。そうだ、私は今日1日を素敵な特別な日にしよ

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【短編】ロンリネス・ケバブ

【短編】ロンリネス・ケバブ

ビルの入り口にはケバブ屋のキッチンカーがあった。
そこには既に数人が並んでいて、僕と先輩は辟易した顔でその列に加わる。
先輩は腕時計を見ながら、次のミーティング開始時間を気にしているようだ。
僕は彼女を見ながら人差し指の先っちょをさすっていた。今朝から妙に痛む。
ケバブ屋のラインナップには普通のケバブ以外に、ケバブ丼とケバブ弁当があり、ソースを選ぶことができた。
先輩は甘口のソースにして、僕はそれ

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【短編】バーボンはもう甘い

【短編】バーボンはもう甘い

おじさんしか生息していないのではないかという中野区の飲み屋街を歩いて、結局チェーンの寿司屋に入って、私は4杯、彼は6杯の酒を飲んだ。

信じている人生の形がもっと美しいものだったら、と思ったのは彼と出会う数年前のことで、彼に出会ってからは人生の全てをこの人にささげてもいいとすら思った。

私たちの横を車が何台も通り過ぎ、私たちが立ち止まった踏切の前で2回電車が轟音を響かせた。私は視界を遮ってくれる

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おすすめのセルフケア「小説執筆」

おすすめのセルフケア「小説執筆」

Y公民館の17時、僕が図書館から出ると椅子と机の並ぶフリースペースが広がり、そこにはテキストを広げて勉強に勤しむ少年たちの姿が見られる。

同じくらいの人数で、新聞を広げて老眼鏡を片手で調整しながら、記事を読んでいるシニアの人々もいる。

僕は勝手に彼らの境遇を想像し、僕は彼らにとってどう見えているのかも考えた。だが後者を考え始めた時、彼らが僕のことを全く見ようともせず、目の前の「現実」に集中して

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