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私、清瀬共花、22歳の日記。繰り返しの始まりはこの都心から。

私が死ぬほどに生き抜いた1週間の先にシュウジが何も考えずに立っているのに気づいた。それは喫煙所の前で彼を見た時かもしれないし、一緒にクレーンゲームをした時かもしれないし、一緒にアイフォンのケースを買った時かもしれない。とにかく私がその日の為に何度死のうと思ったか分からないのに、シュウジはぼんやり渋谷に立っていただけだった。

渋谷のスクランブル交差点を渡り切った先で、本屋を指さして「入る?共花、本好きだよね」と言ってきたシュウジ。私は頷いてそこに入り、棚を見回した後、やっとの思いで2冊選び取ってシュウジに見せた。シュウジは2冊の本を見つめた後、「よくわからん」と言って、スマホの画面を数秒間見つめた後、「今日ここね」と画面を見せてきた。ラブホテルだった。

私はシュウジとシャワーを浴びながら、一緒に牧場で乳しぼり体験をする妄想をした。シャワーから出た後、後ろから抱きしめられて、一緒にヨーロッパ旅行をして大きな教会で2人並ぶ妄想をした。散々好き勝手された後に、シュウジが蛇神で、私はそこへ生贄としてささげられた娘であるという妄想をした。

地方都市から数駅離れた地元から東京へ上ってきて、最初に出会った「男性」がシュウジで、シュウジは私にとって全てだった。

私は偶に彼に対して「どうしてシュウジはいつも余裕があるの」と聞いた。シュウジがどんな仕事をしているか知らないし、シュウジがどんな人生を送ってきたかも知らない。シュウジはクラブで出会って、居酒屋で飲んで、ホテルに行った後、食べたこともないくらい皿の多いモーニングを共にした相手でしかなかった。余裕があると感じる根拠なんて、確かなものはどこにもなかった。しかし、私にはシュウジが余裕のある男性に見えた。

シュウジは言った。「何もうまくいかないから、そうなった」と言った。


シュウジの友人とは数回しか飲まなかった。だからシュウジが突然私の前から姿を消したことも、理由が分からず困惑した。

嫌われたのか、見限られたのか、そもそもシュウジにとって私は何でもなかったのか。誰もいない路地裏で右往左往するみたいに、私は困惑した様子でシュウジの友人を訪ね歩いた。

ひとりの男は「シュウジは海外へ行った。海外の女と結婚した」と言った。
もうひとりの女は言った。「シュウジはヤクザに殺された」。
2丁目のママは言った。「シュウジはね、ずっと一生懸命だった」。

私は2丁目でフラフラ歩いて、水炊き料理店の前で倒れ込み、おんおんと泣いた。シュウジが自分からずっと遠くに行ってしまった気がしたからだ。

おんおん泣いていたら、正面に人の気配を感じて、見上げたら男が2人いた。優しい顔をしていた。シュウジとよく似ていた。

「可愛くね」

小さな声で、私とは距離が相対的に離れている男性が言った。もうひとりの男性は口に人差し指を当て、しーっと言った。そして私の頭を撫でた。

「どうしたの?」

私には、頭を撫でた彼の顔が、シュウジによく似て見えた。私は彼に対して「共花」と名乗った。

#今日の晩酌

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