見出し画像

どこまでいってもお前は何にも追いつけないんだよ。

諦めないという言葉が君は好きだった。諦めないでひたすら走ってれば何かいいことがあるよ、結果が出るよと言い続けた。

諦めるという言葉を適度に使っている友達は起業したり、独立したり、死んだりしていた。
君はいいことがあると言い続けながら、死にもしないくせに、死にそうな顔をしながら、中の下くらいの給料で毎日前向きな言葉を口にしていた。

君は結婚した。私は君の結婚相手を見て、素敵そう、献身的でひたむきそうと評した。君には言わなかったけど、そこまで綺麗な人ではないなと思った。君の結婚相手は大学生と不倫した。君が落ち込んでいるうちに、結婚相手と大学生は逃げていった。

君はそこで酒に乱れたり、女を買ったり、覚醒剤に手を出したりすればよかったのに、変わらず仕事をし続けた。係長で役職はビタ止まりして、数人の部下が怠慢なばかりに過剰な量の仕事をこなす羽目になって、いつも死んだような目でこの街に現れるのだった。

君はまだ諦めていない。
私はそんな君がおかしくって、神社デートに誘った。君は電車の中で、私の彼氏を気遣うような発言をした。
私は君が、今日の今日まで君でしかなかった理由を、そこで悟る。

そこに祀られているわけではなかったが、荒脛巾信仰についての話を君にした。リアリスティックな話しか好まない君がつまらないのだと伝える意図もあった。

荒脛巾。アラハバキは東北から関東にかけて信仰されてきた神であり、その出自は明らかになっていない。純然たる土着信仰から生まれたのか、異国から来た神と融合して生まれたのかは分からない。ただ信仰だけが各地の神社に残り、訳のわからないまま信じられている神。

私はアラハバキがそんな状態でありがたがやーと崇められている状況を語り、君と似ているんだよと告げて、ふふふと笑って神社の横の公園内を駆け回る。

意味がわかんないよ、僕が追いかけていることが意味不明ってこと?中途半端ってこと?

そう叫びながら私を追い回す君はいつの間にか泣いていた。

ねぇ、どういうこと、どういうこと。

そうやって答えを求め続けて何かを追いかけ回していたんだね。足が遅いくせに、足が遅い人間が座学だけで一丁前の社会人になろうとするから歪むんだよと、また笑って言ってやった。

どういうこと、どういうこと。

泣いてる。おかしい。
荒脛巾は、脛巾(ハバキ)という下半身の服装を示す言葉から連想して、男根の神とも言われた。私は私の中で上下する古今東西鮮やかな折々の男根を思い出した。
私は身長が小さく、金髪で、小悪魔的コケティッシュキャラとして人気だった。

後ろを見る。何かを追いかけ続ける君。
結局、追いかけているのは私という女性のケツだ。たまらなく、おかしかった。
私のケツに追いついて、その後に何かが足りないってまた言い出すのかもしれない。

ばっかやろー、どこまでいってもお前は何にも追いつけないんだよー!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?