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ベッドタウン・グリズリー【短編集2】

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【短編】遠くへ行くと腹は寒くなる

【短編】遠くへ行くと腹は寒くなる

私が就職してから、もう2年が経とうとしている。あと3ヶ月で、2年。
大学生の頃の自分と比べたら、随分元気になったと思う。

就職したら、重力に負けて顔の肉が垂れ下がって、家に帰っても、ボディケアもせず寝てしまうと思っていた。それくらい過酷なんだろうと。

しかし、なんでだろう。体がついていく、この社会の流れに。
仕事はバリバリやった。回ってきた仕事だけじゃなくて、外にいって仕事もとってきた。自分で

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【短編】父さん、プレゼント

【短編】父さん、プレゼント

12月が香る。冷気にも、灯りにも、冬服にも、12月から1月にかけての、あの香り。本当に素敵よ、父さん。

12月は血の臭いがする。大した傷もついていない死体から、サスペンスドラマの演出程度の血飛沫。気持ち悪い、俺の「父」とされた男。

謙介をぶたないで、そんなこと言うの、2か月で飽きた。蹴るのも、殴るのも酷いことだ。しかしそれは、実感を伴っていなかった。そういうルールらしいから。だから2か月、試し

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【短編】人がいない街の依子

【短編】人がいない街の依子

依子の口角は裂けた。

不健康な食生活、入眠・起床のリズムについては自覚している。

しかし皮膚科の女医からは、ストレスも確実にありますよと注意を受けた。ストレスをため込みやすい所があると思います。できるだけ抱えないように、周りに相談したり気分転換をしてください。

依子自身は、ストレスというもの自体、よく分からなくなっていた。ストレスというものが何によって生まれるのか。いつか、屋上で先生に聞いた

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【短編】紅くて白ける海の底まで

【短編】紅くて白ける海の底まで

美樹はさ、もっと、なんかこう、言っていかなきゃじゃない?
なにそれ、と返すのも面倒だ。以前から言われていることと大して変わらない。貞操観念や奥ゆかしさみたいなフレームワークが融解して、女性が自我を出しても問題ない世の中だし、男性だって益荒男チックな型にはまらなくても問題ないとされ始めている。男女関わらず、自我は出していっていい。社会変革、というトレンド。目の前のこいつが言っていることは、そんな社会

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【短編】清瀬共花は帰りたがっている

【短編】清瀬共花は帰りたがっている

ひたすら平らな道の上に、同じような戸建て住宅が続く。
外から人を招くために置かれた施設など見られず、この土地に住む人間が「ホームだ」と思えるようにしか設計されていない。
誰しもがこの場所に来る可能性がある。そういう想定はここにはないのだ。
清瀬は自分の小さな身長が、この町の圧迫感でさらに縮められるのではないかと思った。
なんで、よりにもよって、こんなところなのだ。

おかしい、絶対におかしい。

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【短編】クマがあったかく殺してくれる

【短編】クマがあったかく殺してくれる

私はこの人が何をしたのか知っている。厳密には彼が何かしたわけではない。彼の目の前で、彼の「大親友」が死んだということ。

よく分からないんだよね、しつこかったし、だる絡み多くて、最後までわけわかんねぇこと言ってたし。でも、飲みに行く回数だけ多かったんだよな。もう誘われないって思うとな。寂しいとは思わないけど、なんか違和感があって。今から思ったら、ああいう奴も含めて友達って呼ぶんじゃないかって思うん

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