見出し画像

【短編】遠くへ行くと腹は寒くなる

私が就職してから、もう2年が経とうとしている。あと3ヶ月で、2年。
大学生の頃の自分と比べたら、随分元気になったと思う。

就職したら、重力に負けて顔の肉が垂れ下がって、家に帰っても、ボディケアもせず寝てしまうと思っていた。それくらい過酷なんだろうと。

しかし、なんでだろう。体がついていく、この社会の流れに。
仕事はバリバリやった。回ってきた仕事だけじゃなくて、外にいって仕事もとってきた。自分で可能性を広げていった。
社員の人とも積極的に飲みに行った。元々アルコールの味は好きじゃないけど、頷きながら仕事論で語り合って、渦中で勢いで流し込むと、酒はガソリンのように作用した。私の動きは加速した。
女子会も多かった。誕生日会も、友達のもの、漏れなくやった。
仕事の愚痴だけではなく、キャリアアップや事業の可能性について語り合った。私たちがこの業界を、社会全体を動かしているのだと、ラムしゃぶをつまみながら、確信していた。

静子、もう少し休んだ方がいいよ。え、なに肌荒れてる?クマとか?いや、ないけど、でも休んだ方がいいよ。そうだよ、ずっと飲んでるし、ずっと仕事してるじゃん。そのどっちかだけで、体壊すよ。
サークルの飲み会に殆ど顔を出さなかった私が、豹変したことに戸惑っているのだろう。大学の同期は私を心配しつつ、引いていた。顔がひきつっていた。そして離れていった。違う。彼女らと別れた後、私は再びフワフワと浮き、飛び立ち、社会の夢の中に巻き込まれていったのだ。

藤原さん、頼んでもいいかな。あらゆる社員からそう言われた。私はそれをひたすら受け、取捨選択も適度に行った。これから私が大きくなっていくのだと、誰よりも私が信じていた。信じずにはいられなかった。私の背中を押す風が、私を締め付け、閉じ込める、このオフィスの空間が、私に夢と希望に溢れる未来を持たせようと迫ってきていた。

私は就職してから、もう2年経ようとしている。
この文章だって、2年目お疲れ様と、少し気の早い同期懇親会の帰りに書いている。
誰もが可愛くって、誰もがかっこよくて、当然その中にいる私も可愛くて綺麗とされている社会の中、今日もしこたま酒を飲んだ。
どれだけ赤ワインを腹にためても、どれだけハイボールを流し込もうとも、
また、どれだけ家で水を飲み、吐こうとも、
腹は冷え、寒気がする。今も、夜中の新宿は寒かった。

頭がフワフワする。
私は今日も社会の中を、夢と希望をもって飛んでいる。
こんなに飲んでも、明日はどうせ仕事に行きたくて仕方なくなるのだ。
羽が生えたように、軽い足取りで。

#画像生成AIチャレンジ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?