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【短編】月曜日は私の両手に

月曜日を私の胸の中に入れて暖めたい。

私が月曜日を愛する理由を説明しなければならない。そう思って語り始めたら脳の中を重いずっしりしたものが歩き回って邪魔して、結論、私は月曜日が大好きなのだと説明したら隣の白髪のおっちゃんは歯抜けの口を見せて、「なんだそれ」と言った。

月曜日は私にとって全てが始まり、金曜日の19時以降は私にとって全てが終わる時間なのだ。ずっしりとした体に、つんつんした髪の毛を備えた男性が私にのしかかってきて、ひととおり億劫そうな作業を続けた後に、自慢げな顔で浜崎あゆみのライブ映像を見せてくる。この瞬間を毎度私は地獄と表現しているのに、ジンジンした下腹部をさすりながら「かわいいー」と連呼して見せる。利口だ。

自由を右手に、愛なら左に。
私はその歌詞から、「右手」というマジョリティに圧迫されている左利きに気を配ったことがあるかと太ったおじさんに問いかけそうになった。
そう言う代わりに私はマルボロの箱を開けて「かわいいー」と再びつぶやいた。火を点けるライターがターボ。私はBicライターをつけられないのだ。
視線を右にうつすと肌色と汚い黒色が混ざった果てしない地平線が見えた。
私の将来のようだった。

私は私の体を使ってこの社会の中での一部として活用された。
それが私にとっての月曜日であり、火曜日であり、金曜日であり、土曜日であった。水曜日からは憂鬱さが勝ち、日曜日はほくほくと満足感に浸って眠る。我ながら忙しい人生だと思った。

月曜日は両手で握りしめたい。
どこにも行かないように、私が私であることの証明として、月曜日は必要不可欠だった。ミーティングで話しかけてきた、男性のひとつ上。
「追加で話し合いたいことがあるんだけど、いいかな」
そう言って連れていかれたミーティングでは、擦り合わせという名で先ほどのミーティング内容が復唱され、飲める日の予定合わせが行われた。
せっかくの月曜日であり、明日にはまだ火曜日がある。
火曜日がこの男に潰され、体調も悪く、精神的にも支柱を保てないままで、平日の残数が減っていく。

愛も自由もいらない。
私は、月曜日を両手に。


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#シロクマ文芸部


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