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ナナフシ・ナイトクラブ【短編集4】

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【短編】月曜日は私の両手に

【短編】月曜日は私の両手に

月曜日を私の胸の中に入れて暖めたい。

私が月曜日を愛する理由を説明しなければならない。そう思って語り始めたら脳の中を重いずっしりしたものが歩き回って邪魔して、結論、私は月曜日が大好きなのだと説明したら隣の白髪のおっちゃんは歯抜けの口を見せて、「なんだそれ」と言った。

月曜日は私にとって全てが始まり、金曜日の19時以降は私にとって全てが終わる時間なのだ。ずっしりとした体に、つんつんした髪の毛を備

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【短編】停滞した週末

【短編】停滞した週末

超くだらない話をして、私の明日は超くだらないと確信した。道すがら、転がっているペットボトルには汚れが目立ついろはすのラベルが絡みつき、少々視線をあげれば、おそらくセブンイレブンから出てきた男の生脚が見えた。すね毛がぼーぼーだった。見たこともないのに、どこにでもあるような視界で、私は私で明日もくだらないのだなと思った。

帰ってみたら部屋は意外に整っていた。そうだ、私は今日1日を素敵な特別な日にしよ

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【短編】ロンリネス・ケバブ

【短編】ロンリネス・ケバブ

ビルの入り口にはケバブ屋のキッチンカーがあった。
そこには既に数人が並んでいて、僕と先輩は辟易した顔でその列に加わる。
先輩は腕時計を見ながら、次のミーティング開始時間を気にしているようだ。
僕は彼女を見ながら人差し指の先っちょをさすっていた。今朝から妙に痛む。
ケバブ屋のラインナップには普通のケバブ以外に、ケバブ丼とケバブ弁当があり、ソースを選ぶことができた。
先輩は甘口のソースにして、僕はそれ

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【短編】バーボンはもう甘い

【短編】バーボンはもう甘い

おじさんしか生息していないのではないかという中野区の飲み屋街を歩いて、結局チェーンの寿司屋に入って、私は4杯、彼は6杯の酒を飲んだ。

信じている人生の形がもっと美しいものだったら、と思ったのは彼と出会う数年前のことで、彼に出会ってからは人生の全てをこの人にささげてもいいとすら思った。

私たちの横を車が何台も通り過ぎ、私たちが立ち止まった踏切の前で2回電車が轟音を響かせた。私は視界を遮ってくれる

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【短編】倒れそうな私をPOPにしてよ

【短編】倒れそうな私をPOPにしてよ

油断したら飛び跳ねるのをやめてしまいそうだった。だけど周りは腕をあげ、体を揺らし、頭を振っているから、私はしっかりバカなまま2ブロック目のセットリスト終了まで楽しみ続けることができた。

技巧派なフロウと独特な言葉選びが特徴的な、白髪の男性ラッパーは深くお辞儀をした後に、「まだまだ楽しんでいけ」という旨のメッセージを残して、ペットボトル片手に中央のステージから去っていく。

それを見届ける私は茫然

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【短編】カラカラ乾き、しっとり濡らす夜中の3時

【短編】カラカラ乾き、しっとり濡らす夜中の3時

新人類が天上から下りてくる妄想をしながら、私が歩いているアスファルトの道路がひたすら続いていくことに諦念が湧く。世の中をいい方向に変えてくれるものはいつも上から降ってきて、私を蔑み嘲笑い壊すものは、大抵下からやってくる。
今日だって私がエレベーターで下に降りようとして、乗り込むタイミングで下から上がってきた他者の社員と正面衝突しそうになり、舌打ちをされた。私を不幸にするものは大抵下からくるのだ。

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【短編】ガガンボ・ナイトクラブ

【短編】ガガンボ・ナイトクラブ

病室で愛する親友が死んだ経験なんてない。だからそれを経験したアーティストのような価値や強さが私にはない。隣で退屈そうにスマートフォンをいじる依子が死ぬ妄想をした。そうなったらいいとかは思わない。だけどそうならないことが、私が今の私にしかなれない要因ではないかとも思うのだ。

依子はよく分からない子だ。酒を飲むけど騒ぎはせず、オタクではないけどアニメに詳しくて、煙草をバカみたいに吸うくせにランニング

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