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ちょうど400円、ポケットに入っていた【ビジネスマン part3(完結)】
「get a phone call from Akemi」
イヤホンの音楽が途切れアナウンスが流れた。アケミから電話だ。
「俺だ、どうした?」
「急にごめんね、今大丈夫?」
声色は明るく落ち着いていた。アケミから昼間に電話をかけてくるのは珍しいから、何かあったのかと思ったじゃないか。
「大丈夫だよ、急ぎ?」
俺は改札からすぐのスペースによけた。少年が一旦駅員のいる窓口から離れてうじうじとリュックや
ちょうど400円、ポケットに入っていた【ビジネスマン part2】
アケミとは取引先の50周年の記念パーティーで出会った。ひと目で俺はこの人に恋をするとわかった。彼女は聡明で、美しく、その程度と言ったら、普通の男の持つ尺では到底図りきれないものだった。付き合ってその感覚は更に増していった。この人を正しく評価できるのは俺しかいないとどんどんわからされた。だからもう、プロポーズするしか他なかった。
プロポーズを受けた時の彼女の笑顔は、今で見たどんな光景よりも美しかった
ちょうど400円、ポケットに入っていた【ビジネスマンpart1】
作: 小出
ちょうど400円、ポケットに入っていた。
困った。これが390円なら俺には彼を助けることはできないと思えたし、反対に1000円あれば躊躇なく彼を助ける事ができただろう。しかし俺が今求められているのは400円で、その400円分の400円が今、ちょうどポケットに入っていた。
どうなんだ?どうすればいい?この400円は何のためにある?
「僕、お金なくて、、」
訴える少年を駅員はもはや哀れ
ちょうど400円、ポケットに入っていた。【社員食堂 一話完結】
作:谷口
ちょうど400円、ポケットに入っていた。
社員食堂の鳥からマヨ定食はジャスト400円。今一番食べたいのは間違いなくこいつだ。だが食後、必ず、間違いなく、絶対に甘いものが食べたくなる。お目当てのチョコレートは130円。欲を言えばコーヒーも飲みたい。プラス100円。昼休憩の後の5時間勤務を成し遂げるには、糖は必須だ。定食は諦めてコンビニの菓子パン、あるいはおにぎりにするべきか。しかし仮
帰るたびに実家が縮んでいく【旧友Part5(完結)】
家を出て、朝の空気がつんとする季節になったのだなと思った。実際には始発に乗る必要はなかったが、誰も外に出歩いていない時間を選びたかった。この時間、日曜の駅にはほとんど人がいなかった。少し早めに駅に着くと、変わっていく僕たちを何度も送り出した何も変わっていない駅を、何度もそうしたようにまた見回した。
そこで僕は、反対のホームに僕と同じ引き出物の袋を持っている男が立っているのに気づいた。明日は早くない
帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part4】
「お前が本当にそう思うなら、そうなんだろ」
僕が思っている事とは裏腹なことを言われて、何故か勝手に腹が立った。まだやれると、言ってくれると思った。僕は黙っていた。
「お前が楽しいと思う事をどんどんやれよ。お前が思うようにしろ」
マサハルは僕が野球をやろうがやらまいが、どっちでもいいという口ぶりだった。そういうところが嫌いだった。僕はずっとマサハルに勝ちたいと思っていたからだ。野球だって、マサハルの
帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part2】
「お前、明日早いのか」
マサハルが何となくを装って聞いてきた。
「俺は全然早くねぇよ」
明日は始発で大阪に戻るつもりだった。
「寄ってくか?お前がきたら母さんが喜ぶぜ」
マサハルは昔から照れくさい本心を言うときは語尾にぜをつけて茶化す癖があった。マサハルのお母さんに会うのは何年ぶりなのだろうか。懐かしい気持ちになった。けれど、俺はマサハルとはもう少し話したかったが、それ以上の外野には会いたくなかっ
帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part1】
作:小出
「帰るたび実家が縮んでいくなあ」
しみじみと自らの家を傍観し、マサハルは言った。僕は何と言っていいか分からず黙っていた。
マサハルの家は、僕たちが中学生の頃には、家とは別に、敷地内に大きい庭とはなれがあった。しかし今は、はなれと家のあった土地は売られて別の家が建っていて、マサハルの家と呼べる区画と言えば、あの頃の庭の一画くらいの広さの、こぢんまりとした小綺麗な一軒家だけになった。コンク
帰るたびに実家が縮んでいく【かな part2(完結)】
スーツケースを置きに8ヶ月ぶりぐらいに自分の部屋へ行くと、またひとまわり、部屋が縮んでいた。あの壁、昔はよくジャンプして届く届かないとしょうもない遊びをしていたっけ。柱には薄くなった身長の跡。埃のかぶった姿見。前に来た時からこの部屋の時間は進んでいないのにサイズは縮んでいた。なんとなく親戚たちとはワンクッション置いてから会話がしたくて、ベッドへ上半身をあずけた。小学生の頃怖くてたまらなかった天井
もっとみる帰るたびに実家が縮んでいく【かな Part1】
作:谷口
帰るたび実家が縮んでいく。私は何一つ大きくなっていないのに。
今年に入って実家を訪れるのは2回目だった。1回目は従姉妹のあけみ姉ちゃんの結婚式に、そして今日が2回目。12時過ぎの便で神戸を出て実家に着いたのは21時。毎回移動だけでくたくたになる。もう少し駅増やしてもらえませんかね、JR北海道さん。実家に帰ると親戚一同が集まっていて、私はこんな時にでも人見知りを発揮してしまった。「か
魚の骨が刺さった、二の腕に。殺される、と思った。【煮付かれ 完結】
「ごちそうさま」
さあ、さあ来い。全ての準備は整っている。荷物だって初めから広げずにまとめているんだから。リュックで来なかったのは間違いだったな。しかし今日はトートバッグにさほど荷物を入れ込んでいないから十分に走れるだろう。しかし何よりもこの二の腕に骨を刺すきっかけを与えないことが最も優先されるべきことだ。
「美味しかったありがとう片付けるよ」
全ての危険回避のため、アスカの皿に手を伸ばした。
「