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帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part2】

「お前、明日早いのか」
マサハルが何となくを装って聞いてきた。
「俺は全然早くねぇよ」
明日は始発で大阪に戻るつもりだった。
「寄ってくか?お前がきたら母さんが喜ぶぜ」
マサハルは昔から照れくさい本心を言うときは語尾にぜをつけて茶化す癖があった。マサハルのお母さんに会うのは何年ぶりなのだろうか。懐かしい気持ちになった。けれど、俺はマサハルとはもう少し話したかったが、それ以上の外野には会いたくなかった。今は野球の事をとやかく言われたくない。監督にも会いたくなかった。
「やめとくよ。また今度監督に線香上げさせてくれ」
「じゃあ俺がお前ん家に行こう、明日早くないんだろ?俺も明日は早くないから」
マサハルが予想外のことを言うので面食らった。ここで解散になると思っていた。
「そのままでか?」
これは、スーツのままでくるのか?という質問だったが、実際にはうちに泊まる気なのか聞きたかった。
「こいつは置いて、このまま行くよ、泊めてもらうつもりはない」
マサハルは引き出物を目で指して言った。安心した。万が一マサハルがうちに泊まると言った場合、始発で大阪に戻る計画との兼ね合いが面倒になってしまう。マサハルはさっと荷物を置いて、手ぶらで歩き始めた。僕の家に向かっているのに、僕より先に歩いているのが少しおかしかった。


「お前ん家は本当に来るたびにでかくなってるなあ」
「来るたびにはでかくなってねえよ」
玄関は暗かった。僕がプロになって4年目で建てなおした実家は、自分で建てたくせに数える程しか入ったことがなかった。畑だったところをすべて建物にしたので、もともと建っていたところに変わりはなかったが、3年半経ってもまだ見慣れた感じがせず、帰っても実家という感じがしなかった。キッチンとリビングのある部屋に灯りが付いているのを見てマサハルが母さんに挨拶したがったので、母さんに声をかけた。2人が話し始めたところで、僕だけが先に自分の部屋に入った。もともと建っていた実家から運んだ荷物が、箱のまま収納に仕舞われていて、ベッドとテレビはあるが、がらんとしていて、普段使っていない部屋の匂いがする。

今日は1年ぶりの帰省だったが、まだ父さんとも母さんともほとんど会話していなかった。サラリーマンだったら、仕事がうまくいっていなかろうが、親や知り合いにそれが知られることはないのだろうか。何をしても筒抜けで、僕のすべてが野球でなくてはいけないなんてことは、ないのだろうか。外を歩いても地元に戻っても、野球をやったこともない、僕のことを知りもしない奴らに文句やアドバイスをされることもないのだろう。こんなに立派な家を建てているのに文句なんか言われたらたまったものではない。けれど、僕は家族と、地元の友達と、近所の居酒屋のおじさんと、笑って話すために、早く成績を取り戻さなければいけない。とにかくベンチ入りする事だ。第一線に戻れば、みんな僕のことを認めてくれる。

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Part2は以上です!

小学生の頃住んでいた家の近くに今も住んでいるのですが、当時のクラスメイトの家あたりを通る時、まだ住んでいるのかな?などと考えたりします。
最寄り駅も当時と同じ駅を使っているのですが、意外と会わないものですね。みんな外に出てしまったのかもしれません。


なんていう思い出に浸りながら笑、
次回Part3もお楽しみに!


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