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帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part3】

「やったー鬼まんじゅうもらったぜ」
母さんとの会話が相当盛り上がったのか、部屋に入ってくるなりにこにこして僕に鬼まんじゅうを見せてきた。それがリビングに置かれていたのを僕は知っていたから、そんなテンションでは鬼まんじゅうの話を聞けなかった。
「お前は今なにしてるんだ?」
父親みたいな口をきいてしまった。そういえば俺がプロになってから、マサハルともほとんど連絡を取っていなかった。だから、マサハルが今どんな職業についているのか全く知らなかったし、そもそもプロ野球選手以外にどんな職業があるのかという知識も薄かった。
「別に、なんもしてねえよ」
昔からマサハルはそういう口を聞く節があった。野球も学校の勉強も、何でも僕より良くできて、思ってもみないような事をやってのけたり、馬鹿みたいな事を言ってみんなを驚かせたり笑わせたりするのが得意だった。マサハルが考えた遊びは学年中の男子が運動場でやるようになったし、マサハルが将来パイロットになると言えばみんな真似してその欄にパイロットと書いた。一体どうしたらそんな事ができるんだと同級生の男子なら誰もが思っていた。はずだ。少なくとも僕はそうだった。しかしマサハルはそれが当たり前みたいにいつも飄々としていた。
だから、どちらがプロ野球選手になるか幾らかかけるとすれば、当時なら誰もがマサハルの方に金を投じただろう。マサハルのおじいちゃんは少年野球チームの監督をしていたし、僕もそのチームで一緒に野球をしていたけど、その頃はどうしたってマサハルの方がうまかった。
でも僕がプロ野球選手になって、マサハルはならなかった。
「今、東京だろ?」
「東京ってなあ遠いよなあ」
「仕事、忙しいのか。」
サラリーマンという言葉はマサハルにあっていないように感じた。毎日毎日同じことの繰り返しをこなしていくことは、もしかしたら僕の方が得意なのではないだろうか。
「まあ、忙しいっちゃあ忙しいな、今は勉強中だ、楽しいよ」
楽しい、か。マサハルは何気なく発した言葉のようだったが、なんとなく喧嘩を売られた気分になった。
「俺はもう、どんづまりなんだ、もう野球をやめた方がいいのかもしれない」
こんな事を言ってしまうなんて、どうしたんだろう。そんなことない、と言ってほしいのかもしれなかった。僕にとっては昔も今も、マサハルの言葉には力があった。マサハルにそんなことはない、と言ってもらえれば、僕は本当にその言葉をまるっきし信じることができるし、安心できるような気がした。

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Part3は以上です!

作中に鬼まんじゅうが出てきました!愛知県出身の小出は好きでたまに食べるのですが、さつまいもの角切りの寄せ集めを蒸したようなものです。素朴な味ですがとっても美味しいので気になる方は是非調べてみてください!

それでは!次回Part4もお楽しみに!


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