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帰るたびに実家が縮んでいく【旧友 Part4】

「お前が本当にそう思うなら、そうなんだろ」
僕が思っている事とは裏腹なことを言われて、何故か勝手に腹が立った。まだやれると、言ってくれると思った。僕は黙っていた。
「お前が楽しいと思う事をどんどんやれよ。お前が思うようにしろ」
マサハルは僕が野球をやろうがやらまいが、どっちでもいいという口ぶりだった。そういうところが嫌いだった。僕はずっとマサハルに勝ちたいと思っていたからだ。野球だって、マサハルのほうがうまかったが、最終的には僕がプロになった。だから、僕が勝ったのだと思っていた。けれど、マサハルはプロ野球選手になる事を選ばなかっただけなのだと、言葉の節々がそう言いたげに聞こえた。
「苦しいか。悔しかったら、楽しくなるまでやれ」
マサハルが急に遠くに叫ぶように唱えた。監督の言葉だ。僕たちはその言葉に何度も煽られた。今思えば、時代錯誤もいいところかもしれないな、と思った。けれど何故か、今の僕にはハッとするものがあった。僕はまだ悔しかった。まだまだ悔しかった。諦めてなどいない。悔しかったら、やるしかない。楽しくなるまでやるしかない。そうだ、多分、自分でもわかっていた。
「懐かしいな、やっぱり今日線香だけでもあげればよかったな」
本心だった。
「あ!これが見たかったんだ、この写真、なくしてさあ!」
僕と、マサハルと、ユリとが3人で写っている写真を見つけてマサハルは嬉しそうに手に取った。写真の中の3人は、私服にお揃いの野球帽という妙な格好をしている。小学生の頃はユリも野球チームにいた。当時ユリは女子とは思えないほど力強いボールを投げた。だから僕は、このままいけば、ユリだって女ではあるけれど、プロ野球選手になるのではないかと思っていた。それどころか、あの時僕は、野球チームのメンバーみんなで将来パイロットをしながらプロ野球選手になると本気で思っていた。ポジションだって大体どいつがどこをやるか決めていた。けれど、ユリは中学に入ると野球をやめたし、実際にそのメンバーのなかでプロ野球選手になったのは僕ひとりだった。競争に勝ち抜いた嬉しみもあったが、寂しさもあった。
「なくしたのか、コピーでも取るか?」
そこまでしなくてもと思う事だけれど、マサハルにはこの写真を持っていてほしい気持ちだった。
「見たくなったら、また来るよ」
そこまでしねえよ、と笑われるとも思ったが、マサハルの声は優しかった。
「そうだな」
マサハルは目に焼き付けるようにその写真をじっと眺め、かと思えばあっさりと、じゃ、帰るわ!とだけ言って明日も顔を合わせるかのように一度も振り返ったり立ち止まったりせず本当に帰った。

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Part4は以上です!

小学生の頃、大人になったら当時仲の良かった友達と本気でシェアハウスをして暮らすと思っていました!そんな事を笑いながらお酒を飲めるようになってしまいましたが、その2人と集まると小学生に戻ったような感覚になります。
地元の友達っていいですね笑

というわけで!次回Part5もお楽しみに!


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