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魚の骨が刺さった、二の腕に。殺される、と思った。【煮付かれ 完結】

「ごちそうさま」
さあ、さあ来い。全ての準備は整っている。荷物だって初めから広げずにまとめているんだから。リュックで来なかったのは間違いだったな。しかし今日はトートバッグにさほど荷物を入れ込んでいないから十分に走れるだろう。しかし何よりもこの二の腕に骨を刺すきっかけを与えないことが最も優先されるべきことだ。
「美味しかったありがとう片付けるよ」
全ての危険回避のため、アスカの皿に手を伸ばした。
「いいよ、そこに置いといて」
私の作戦は一瞬で制されてしまった。アスカの顔を見るが、まだ笑顔だ。ここで頑なに皿を片付けたがるのも変か?アスカの思惑が全く読めない。大して仲良くもないくせに、私を家に上げるなんて、一体アスカは私に何を求めているのだろう。
「あ!家族写真いっぱいだね。友達とかとの写真は飾らないの?」
焦った質問になってしまった。不自然だ。いつ刺されてもおかしくない状況だということをちゃんと理解しろ私、、、!
「転勤族だったから幼なじみっていなくて。高知にも少しだけ住んだ事あるんだよ!」
自然な嘘だ。もはや狂気さえ感じた。もしかしてアスカの家に行った人間は消されているのだろうか。しかしそんな噂は聞いたことがないし、そんな恨みを買った覚えもない。でもアスカは八方美人の人間不信だ。私にその行動が理解できるはずがない。そもそもどうでもいい友達を家に上げる事自体正直私には到底理解できないのだから。何のために敢えて私と?いつ仕掛けてくる?まだ骨は皿の中で、その皿は私たち2人とものの手の届く範疇にある。刺される前に刺すか?いやいや、落ち着け。
「テレビとか見る?」
テレビ?!なんて悠長な。それにアスカとテレビの趣味が合うとは思えなかった。東大出身の芸能人が出てる早押しクイズとか、ミミズのミンミンショーとかを見るに違いない。
「あー適当でいいよ」
その前にその骨を安全な場所へ捨ててくれ。視野の中に常に骨が入っていないと不安だ。テレビの方を向くと身体がどうしても骨に背を向ける形になってしまう。
「あ、今日からアマプラで千鳥の新番組やってるんだよね」
ファッ?!アスカが千鳥?なんというジーエーピー!いやいや、高知県出身というのも調べ上げられていた。私のプロフィールが何処からか流出しているとしか考えられない。にしても、飛鳥って、よく考えたら、いい名前だなあ。
とか考えている間にテレビのリモコンで激しく殴りつけられたりするに違いない。全く油断できない女だ。しかし私とてそう簡単には騙されるような女ではないのだ。どうせ勝ち組にいるアスカは、心のどこかで私たちのような人間のことをさげすんでいるに違いない。

しかし、アスカは想像以上の策士で、私をその後も騙そうとし続けた。そしてどうやら、私が思っているよりずっと長いスパンで私の信用を得てから襲うつもりらしかった。私でさえ、アスカが私を騙し続けていることを忘れる瞬間があるほどだった。
時々、ドライフラワーなんか置くことある?!だとか、ダイニングテーブルを置こうとした意図がわからない!とか軽いジャブを打ってみても、そうかな?とへらへらして暖簾に腕押し状態だった。そのくらい隙のない女だった。沸点がどこにあるのか全くわからない。その日からアスカと私は牽制を続け、傍目からみるとどんどん仲良くなっていっているように見えた。 


「殺される、と思いました。」
と言うと、会場が一気に沸いた。特に私たちをよく知る大学の友人たちは腹を抱えて笑っていた。結局人間不信だったのは私の方で、何もかも私の妄想だったのだけれど、今にしてみれば、彼女の無防備な性格と、彼女とは正反対の性格の私との関係を表した良いエピソードとなった。同じところがほとんどない私たちが仲良くなったのは、本当に、今でも不思議に思うほどだ。私が泣きながらスピーチを終え、高砂に座る飛鳥の方を見ると、彼女も同じように泣いていた。

おわり

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これにて【煮付かれ】は完結です!

初めましての方は下記初回記事から!https://note.com/genkinamaigo/n/n9922fad22a02

前回の【ちえちゃん】と同じ書き出しでしたが、全く違う文章になりました!2人で前後半を分けて書くのも面白かったです!

次回は第2回書き出し文の発表です!
お楽しみに!


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