ほたかえりな

本や映画の中の言葉。日々感じたり考えたこと。とりとめもないあれこれについて。

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マガジン

  • 12ヶ月の詩のつめあわせ

    一年を通し、それぞれの月にちなんだ詩や文章を集めた、季節の言葉のコレクションです。

記事一覧

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

「見て、あの窓」 犬との夜の散歩中、すぐ後ろから、ご夫婦らしき二人の会話が聞こえてきました。 「あそこって、職員室だよね?」 「そうだっけ」 「役員の時に行ってる…

93

ありきたりの尊さ脆さ

あれ、なんだか蒸し暑いなと感じたのが午前4時半過ぎ。エアコンをつけたまま眠っていたはずなのに、作動音が聞こえません。 起き上がって周囲を見回してみると、そこはか…

79

1945年8月に私も犬を飼うだろう

日本が諸外国との長い戦いを終え、ようやく"戦後"が始まったのは、79年前の今日、8月15日です。 私はその日を語る多くの手記や映像に触れてきましたが、中にとりわけ印象…

91

最高の話し方指南

「オリンピアンもきついな。たったいま試合が終わったばかりで、もう次のオリンピックの話をさせられるんだから。 自分なんか、満腹の時に次の食事のことを聞かれただけで…

102

誕生日でなくても幸せ

「株価下落がブラックマンデーを超えた!」 数日前の午後、友人からそんな短いメッセージが送られてきました。 友人は多くの株を所有しているため、日々関連ニュースのチ…

ほたかえりな
2週間前
104

まずは、よくできました

確か先々月の始めだったか『朝活で前世を生きる』という話を書きました。 そこでの内容通り、私の午前4時台起き生活は今も続いています。 日の出前に起き出して、犬と近所…

ほたかえりな
2週間前
83

8月の詩

「海、遠い海よ!と私は紙にしたためる。 ── 海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」 1930年に出版…

ほたかえりな
3週間前
174

甘える甘えない以前の話

犬と猫の違いは何か、あげれば長いリストが出来るでしょうが、"人との距離感"もおそらくそこに加わるでしょう。 私は犬としか暮らした経験がなく、猫といえば地域猫に友人…

ほたかえりな
3週間前
86

思い出すこと。振り返ること。背中を見ること。そして、後悔しないこと。

私が個人的に知る外国の人たちのうち、ことさらの日本好き、あるいは熱心に日本語を学ぶ人たちにそのきっかけや動機を尋ねてみると、かなりの高確率で返ってくる言葉があり…

ほたかえりな
1か月前
125

困るくらい便利な言葉

史跡公園の近くに暮らしているせいか、近ごろ自宅の側でも外国の方とよく行き合います。 それもただすれ違うだけでなく、道や公園について尋ねられたり、犬連れで散歩に出…

ほたかえりな
1か月前
122

にせものの笑み

仮装するのは愛らしい。 仮装させられるのは悲しいことだ。 ── ガブリエル・シャネル 〈 精神科医にはよく知られたことだが、境界性パーソナリティ障害の患者には、き…

ほたかえりな
1か月前
104

「愛がなければ無に等しい」

今では懐かしくさえ感じられる冷たい冬の空気の中、私たちはカトリック霊園の入り口に立っていました。 もう何年間か病に臥せっていた友人のお母様が急逝され、慌ただしい…

ほたかえりな
1か月前
106

遊びの才能・2

前回、私が"遊びや楽しみとは"というテーマで思い当たった人は有名なクリエイターで、20代半ばの男性です。 文筆家で、イラストレーターで、造形作家で、デザイナーで、プ…

ほたかえりな
1か月前
80

遊びの才能

生後3ヶ月で家にやって来た子犬も月齢6ヶ月を迎え、そろそろ落ち着いてきたところです……と言いたいところながら、未だその兆しはありません。 相変わらずよく食べ、眠り…

ほたかえりな
1か月前
85

7月の詩

夏の幸せな時間 世界はまるで花のよう ほほえみの時節が来た 6人のきょうだいが活躍する"ケティ・シリーズ"で知られる、アメリカの国民的作家スーザン・クーリッジ。 文学…

ほたかえりな
1か月前
166

レジャー的眠りの世界

活字中毒者の常として、私はいついかなる場でも何らかの文章を探してしまうのですが、つい先日、停車中のワゴンの車体にこんな文言を見つけました。 「睡眠はレジャーなの…

ほたかえりな
1か月前
100
想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

「見て、あの窓」
犬との夜の散歩中、すぐ後ろから、ご夫婦らしき二人の会話が聞こえてきました。

「あそこって、職員室だよね?」
「そうだっけ」
「役員の時に行ってるし、間違いない。まだ電気ついてるよ」
「誰か先生がいるんだね。こんな時間なのに」

ちょうど小学校の前を歩いているところで、時刻はすでに8時半を回っていました。
つられるように校舎の方に目をやると、2階の大きな部屋に煌々と明かりが灯って

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ありきたりの尊さ脆さ

ありきたりの尊さ脆さ

あれ、なんだか蒸し暑いなと感じたのが午前4時半過ぎ。エアコンをつけたまま眠っていたはずなのに、作動音が聞こえません。

起き上がって周囲を見回してみると、そこはかとない違和感が。
台所へ行って冷蔵庫を開け、その原因がわかりました。

電気が止まっているのです。
ガス漏れセンサーも、Wi-Fiルーターも、ビデオデッキの時刻表示も、換気扇も。全てのライトが消え、家中が停電しているようでした。

それだ

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1945年8月に私も犬を飼うだろう

1945年8月に私も犬を飼うだろう

日本が諸外国との長い戦いを終え、ようやく"戦後"が始まったのは、79年前の今日、8月15日です。

私はその日を語る多くの手記や映像に触れてきましたが、中にとりわけ印象的で、変わったものがありました。

語り手の女性は犬好きで、実家でも代々、警察犬として有名な大型犬のシェパードを飼っていたそうです。
それも、戦争中を除き一度も犬を"切らした"ことがないほどで、ある時その理由を尋ねてみると、母親は初

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最高の話し方指南

最高の話し方指南

「オリンピアンもきついな。たったいま試合が終わったばかりで、もう次のオリンピックの話をさせられるんだから。
自分なんか、満腹の時に次の食事のことを聞かれただけで腹が立つのに」

ある人がこんな意見を書いていましたが、確かに連日のオリンピックの報道では、そんな場面をよく見かけます。

見事に勝ちを収めた選手も、惜しくも叶わなかった選手も、インタビュアーから矢継ぎ早に質問をされ、中には「次こそは違う色

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誕生日でなくても幸せ

誕生日でなくても幸せ

「株価下落がブラックマンデーを超えた!」
数日前の午後、友人からそんな短いメッセージが送られてきました。

友人は多くの株を所有しているため、日々関連ニュースのチェックに余念がありません。
それで今回の"1984年以来の日経平均株価の大暴落"というニュースも、いち早く私に報せてくれたというわけです。

とはいえ私はそういった世界には不案内で、株や証券売買には一切関わった経験がありません。

「今す

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まずは、よくできました

まずは、よくできました

確か先々月の始めだったか『朝活で前世を生きる』という話を書きました。
そこでの内容通り、私の午前4時台起き生活は今も続いています。

日の出前に起き出して、犬と近所の公園を周回。自宅に戻って朝食の用意。
夜の間に届いたメッセージに返信し、気になっていた本のページを開き……などとお決まりの流れを辿るうち、朝の静かな時間が過ぎていきます。

その静寂が破られるのは、決まって午前7時です。
それというの

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8月の詩

8月の詩

「海、遠い海よ!と私は紙にしたためる。
── 海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」

1930年に出版された、三好達治の詩集『測量船』
その収録詩「郷愁」の中の、とりわけ有名な断章です。

いみじくも三好が書いたように、"海"という漢字の中には"母"があり、フランス語の “mère / 母”の中には"mer / 海"が存在します。

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甘える甘えない以前の話

甘える甘えない以前の話

犬と猫の違いは何か、あげれば長いリストが出来るでしょうが、"人との距離感"もおそらくそこに加わるでしょう。

私は犬としか暮らした経験がなく、猫といえば地域猫に友人の猫、猫カフェの店員さんしか知りませんが、やはり犬に比べて気ままでクール、自我がはっきりしているように感じられます。

犬ももちろん気まぐれですが、猫に比べて子どもっぽく、甘えたところが多々あります。

家にいる6ヶ月の子犬がそうで、た

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思い出すこと。振り返ること。背中を見ること。そして、後悔しないこと。

思い出すこと。振り返ること。背中を見ること。そして、後悔しないこと。

私が個人的に知る外国の人たちのうち、ことさらの日本好き、あるいは熱心に日本語を学ぶ人たちにそのきっかけや動機を尋ねてみると、かなりの高確率で返ってくる言葉があります。

マンガ、あるいは、アニメ。

ゲームや音楽、ファッション、禅などもあがるのですが、圧倒的に多いのはこのふたつです。
皆、私など及ばぬくらい多くの作品を鑑賞し、それらがいかに素晴らしく、自分に強い影響を与えているかを、熱を込めて語っ

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困るくらい便利な言葉

困るくらい便利な言葉

史跡公園の近くに暮らしているせいか、近ごろ自宅の側でも外国の方とよく行き合います。

それもただすれ違うだけでなく、道や公園について尋ねられたり、犬連れで散歩に出ると、片言ながら話が弾んだりということもままあります。

けれどついこの間、路上で一人の外国人女性からこんな声をかけられたことは驚きでした。

「Beh……Chi sei tu?」

これまでに何度か、私はロマンス諸語の独学をしています、

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にせものの笑み

にせものの笑み

仮装するのは愛らしい。
仮装させられるのは悲しいことだ。

── ガブリエル・シャネル

〈 精神科医にはよく知られたことだが、境界性パーソナリティ障害の患者には、きわめて魅力的な美男美女が多い 〉

最近ふとしたところで見つけ、印象に残った文章です。

"境界性パーソナリティ障害"は、対人関係における不安定性や過敏性、自己像の不安定性、極度の気分変動、衝動性の広汎なパターンが特徴的な疾患です。

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「愛がなければ無に等しい」

「愛がなければ無に等しい」

今では懐かしくさえ感じられる冷たい冬の空気の中、私たちはカトリック霊園の入り口に立っていました。

もう何年間か病に臥せっていた友人のお母様が急逝され、慌ただしいような日々の後、ついに納骨の運びとなった為です。

訪れたのは年の暮れで、風の強い午後でした。
幸いにも太陽が照っていたため、私たちはどうにか凍えずにすみました。

その霊園はさる教会の管理下にあり、非常に行き届いた手入れがなされているの

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遊びの才能・2

遊びの才能・2

前回、私が"遊びや楽しみとは"というテーマで思い当たった人は有名なクリエイターで、20代半ばの男性です。
文筆家で、イラストレーターで、造形作家で、デザイナーで、プロデューサーでと、様々な役割をこなしながら国内外を忙しく飛び回る、才能のかたまりのような人物です。

それでもご本人はとても謙虚で淡々とした人柄であり、他に幾人かの人を交えた場でお会いした際も、控え目で気取らない人という印象でした。

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遊びの才能

遊びの才能

生後3ヶ月で家にやって来た子犬も月齢6ヶ月を迎え、そろそろ落ち着いてきたところです……と言いたいところながら、未だその兆しはありません。

相変わらずよく食べ、眠り、何より遊びます。
この世界が好奇に満ちた場所であるのは依然として変わらぬようで、子犬は目に映るもの、出会うもの全てに関心を誘われるようなのです。

特に目を見張らされるのがその遊び方で、既存のおもちゃはもちろんのこと、周囲の何でも遊び

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7月の詩

7月の詩

夏の幸せな時間
世界はまるで花のよう
ほほえみの時節が来た

6人のきょうだいが活躍する"ケティ・シリーズ"で知られる、アメリカの国民的作家スーザン・クーリッジ。
文学作品のみならず数多の詩も残した彼女は、その名も『7月』という自由詩にこう綴りました。

この短い詩には、待ち焦がれた眩く明るい季節への、浮き立つような期待がいっぱいにあふれています。

◇◇◇

夏のそんな気分を愛した人は数えきれず

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レジャー的眠りの世界

レジャー的眠りの世界

活字中毒者の常として、私はいついかなる場でも何らかの文章を探してしまうのですが、つい先日、停車中のワゴンの車体にこんな文言を見つけました。

「睡眠はレジャーなのです」

なかなかに斬新な言い回しであり、こういった未知の表現に出会うととたんに嬉しくなります。一体どういう意図があるのか、考えがいがあるからです。

車体にはロゴマークらしき模様も入っていたため、きっとどこかの営業車でしょう。
あいにく

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