ほたかえりな

本や映画の中の言葉。日常で感じたり考えたこと。とりとめもないあれこれについて。

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  • 12ヶ月の詩のつめあわせ

    一年を通し、それぞれの月にちなんだ詩や文章を集めた、季節の言葉のコレクションです。

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7月の詩

夏の幸せな時間 世界はまるで花のよう ほほえみの時節が来た 6人のきょうだいが活躍する"ケティ・シリーズ"で知られる、アメリカの国民的作家スーザン・クーリッジ。 文学作品のみならず数多の詩も残した彼女は、その名も『7月』という自由詩にこう綴りました。 この短い詩には、待ち焦がれた眩く明るい季節への、浮き立つような期待がいっぱいにあふれています。 ◇◇◇ 夏のそんな気分を愛した人は数えきれず、たとえば日本では宮沢賢治が『夏の日の思い出』に書いています。 夏の日のことを

    • 困るくらい便利な言葉

      史跡公園の近くに暮らしているせいか、近ごろ自宅の側でも外国の方とよく行き合います。 それもただすれ違うだけでなく、道や公園について尋ねられたり、犬連れで散歩に出ると、片言ながら話が弾んだりということもままあります。 けれどついこの間、路上で一人の外国人女性からこんな声をかけられたことは驚きでした。 「Beh……Chi sei tu?」 これまでに何度か、私はロマンス諸語の独学をしています、ということを書いていますが、聞こえた言葉も確かにそのひとつだとわかりました。

      • にせものの笑み

        仮装するのは愛らしい。 仮装させられるのは悲しいことだ。 ── ガブリエル・シャネル 〈 精神科医にはよく知られたことだが、境界性パーソナリティ障害の患者には、きわめて魅力的な美男美女が多い 〉 最近ふとしたところで見つけ、印象に残った文章です。 "境界性パーソナリティ障害"は、対人関係における不安定性や過敏性、自己像の不安定性、極度の気分変動、衝動性の広汎なパターンが特徴的な疾患です。 もっとわかりやすい言葉で言うと、孤独に対する耐えがたさ、人から見捨てられたり、

        • 「愛がなければ無に等しい」

          今では懐かしくさえ感じられる冷たい冬の空気の中、私たちはカトリック霊園の入り口に立っていました。 もう何年間か病に臥せっていた友人のお母様が急逝され、慌ただしいような日々の後、ついに納骨の運びとなった為です。 訪れたのは年の暮れで、風の強い午後でした。 幸いにも太陽が照っていたため、私たちはどうにか凍えずにすみました。 その霊園はさる教会の管理下にあり、非常に行き届いた手入れがなされているのは、あたりの様子からすぐに見て取れました。 季節柄どこにも花はなくとも、常緑樹が

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        • 12ヶ月の詩のつめあわせ
          13本

        記事

          遊びの才能・2

          前回、私が"遊びや楽しみとは"というテーマで思い当たった人は有名なクリエイターで、20代半ばの男性です。 文筆家で、イラストレーターで、造形作家で、デザイナーで、プロデューサーでと、様々な役割をこなしながら国内外を忙しく飛び回る、才能のかたまりのような人物です。 それでもご本人はとても謙虚で淡々とした人柄であり、他に幾人かの人を交えた場でお会いした際も、控え目で気取らない人という印象でした。 その人は海外のクライアントとの交渉も自分でこなす他、マネージャーもつけず膨大な仕

          遊びの才能・2

          遊びの才能

          生後3ヶ月で家にやって来た子犬も月齢6ヶ月を迎え、そろそろ落ち着いてきたところです……と言いたいところながら、未だその兆しはありません。 相変わらずよく食べ、眠り、何より遊びます。 この世界が好奇に満ちた場所であるのは依然として変わらぬようで、子犬は目に映るもの、出会うもの全てに関心を誘われるようなのです。 特に目を見張らされるのがその遊び方で、既存のおもちゃはもちろんのこと、周囲の何でも遊び道具にしてしまいます。 ひもは全般に好きですし、紙があればどこからともなく持っ

          レジャー的眠りの世界

          活字中毒者の常として、私はいついかなる場でも何らかの文章を探してしまうのですが、つい先日、停車中のワゴンの車体にこんな文言を見つけました。 「睡眠はレジャーなのです」 なかなかに斬新な言い回しであり、こういった未知の表現に出会うととたんに嬉しくなります。一体どういう意図があるのか、考えがいがあるからです。 車体にはロゴマークらしき模様も入っていたため、きっとどこかの営業車でしょう。 あいにく車内は無人で質問は叶わないため、とりあえずの空想を繰り広げてみます。 最もあり

          レジャー的眠りの世界

          伸びた背筋が語るもの

          相手は自分の真向かいにいて、こちらに話しているに決まっているのに、なお耳を疑うような言葉があります。 それがたとえば愛の告白、昇給のような内容ならば嬉しく、お別れ、減給のごとき内容ならば衝撃ですが、つい先日、私が友人から告げられたのは、そのどちらでもない一言でした。 「あなたには威圧感があるよね」 威圧感。これまでの人生で、誰かからこんな単語を聞かされたことは皆無です。 顔立ち、髪色、身長、服装どれをとっても、私には威圧感とは正反対の要素が揃っています。 それでは、も

          伸びた背筋が語るもの

          Let's play a game

          品詞のひとつ。活用のない自立語。 前後の言葉や文章などをつなぐ。 ───【接続詞】 eスポーツにゲーム実況、TRPG。 私の周囲にもこれらに夢中の人は多くいます。 よく出来たゲームはもはや現実を超越するような世界観を持っており、ずっとそちら側に入り浸っていたい、という意見もいくらかは納得できます。 こういった新ジャンルのゲームが勢いを増すかと思えば、クラシックなアーケードゲームが復刻されたり、シンプルなボードゲームが売れていたりと、皆それぞれに好みのゲームをお持ちのようで

          Let's play a game

          全ては元の姿に戻るだけ

          近頃の私はひたすら諸行無常を噛みしめています、などと大仰な発言ですが、残念ながらこれは真実です。 何せ、家の中で毎日のように色々なものが壊れます。 その原因は5ヶ月の子犬で、直近の被害を羅列すると、数冊の本に雑誌、カットソー、ワンピース、ハンカチ、フェイスタオル、カフェオレボウル、マグカッブ、卓上ポット、ベランダの苗木、リビングのラグに座椅子、とあっという間にバラエティ豊かなリストが作成できます。 それでも私などまだましで、中には80万円のソファーを破られたり、オーディオ

          全ては元の姿に戻るだけ

          プラジュニャーパーラミターフリダヤ

          「超スゲェ楽になれる方法を知りたいか」 ええ。いいですね。 「誰でも幸せに生きる方法のヒントだ」 そんなものがあるのなら、ぜひ。 「もっと力を抜いて楽になるんだ。苦しみも辛さも全てはいい加減な幻さ、安心しろよ」 そうなんでしょうか。 「この世は空しいモンだ、痛みも悲しみも最初から空っぽなのさ。この世は変わり行くモンだ。苦を楽に変える事だって出来る」 すごい。どこかの哲学者みたい。 「苦しみとか病とか、そんなモンにこだわるなよ。 見えてるものにこだわるな。聞こえるものに

          プラジュニャーパーラミターフリダヤ

          朝活で前世を生きる

          たとえあなたがどんな夜を過ごしたとしても私に話さないで。 苦しみに満ちた話で私の朝を汚さないで。 ───エミリー・ディキンソン 前話からのゆるい続きのようになりますが、子犬がやって来てから変わったことのひとつが、日常生活のリズムです。 夜はどうしてこんなに早く時間が過ぎるんだろう、まだ眠らずにあれこれしていたい。こんな風に考えていた日々はもう彼方で、今の私は日が落ちると眠くなり、頑張っても午後10時まで起きているのが精々です。 その原因は起床時間にあり、最近は日の出が

          朝活で前世を生きる

          やや大きくなった鳥獣戯画のごとき犬

          最良の友は常に四つ脚以上である。 ──シドニー=ガブリエル・コレット 「わあ、やっと会えたね!」 「この子か……可愛い」 「子犬ちゃん。噂は聞いてたんですよ」 4月からこちら、こういった言葉をどれほどかけられてきたでしょうか。 『鳥獣戯画のごとき犬』という話にも書いたように、4月初頭に大型犬の子犬を家族に迎え、早くも2ヶ月が経過しました。 ありがたいことに犬友達や近所の人たちも笑顔で歓迎してくれ、子犬が新しい暮らしに慣れるための”社会化”は順調に進んでいます。 毎日

          やや大きくなった鳥獣戯画のごとき犬

          6月の詩

          時には6月にも雪が降り 時には太陽が月の周りを巡る あなたが探しているものは 時にはその目に映らない 1990年代を代表する曲のひとつ『Save The Best For Last』には、こんな印象的な歌詞があります。 人の心と運命の不思議さを描くこの曲では、有り得そうもないものの例えとして”6月の雪”が上げられます。 確かにこの月に空から降るものは、氷の結晶たる白雪よりも、潤いある水の雫の方がしっくりきます。 ◇◇◇ 19世紀末のヨーロッパにて、放埒な人生を送った

          裁判傍聴のすゝめ

          「休日は何を?」 「ところでご趣味は?」 私はお見合いをした経験がなく、その席で本当にこんな質問が口にされるものかを知りません。 けれど、もしもいざその機会があったとしたら、一体何と答えましょうか。 「街や自然の中を歩くのが好きです」 「犬との遊びです」 「パールを使ったアクセサリー作りです」 あたりが無難でしょうか。 〈紅茶〉に〈アロマ〉〈写真〉〈お寺巡り〉〈外国語〉なども良いかもしれません。 逆に相手の困惑を誘いそうなものといえば〈オカルト〉〈スピリチュアル〉〈陰

          裁判傍聴のすゝめ

          人生の全てはタイミング

          「人生はタイミングが全てだと思う」 私の友人がよく口にする言葉です。 けれど初めて聞いた時は、到底うなずけませんでした。それではあまりにつまらない気がしたからです。 人生がタイミングで決まるなら、自由意志は無意味なのか、努力は無駄であるのかとも感じました。 心理学では、意識は無意識をコントロールするものであると定義されます。 けれども現実はそうではなく、全ての人が意識的になど生きてはいない、人を真に動かしたり人生を左右するものは無意識とタイミングである。 精神科医である友

          人生の全てはタイミング