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キリングミーソフトリー[ 3 ].死ぬまで騙して欲しい

「俺、秘密守れる子好きだよ。」
そう言われるままに従い、本気で愛されると信じ込んだ。考えてみれば中学生の頃は無意識のうちに彼を目で追っていた私が、今や恋人のような存在となる。名を呼ぶ声が甘く、こちらにもたれ掛かり眠る姿を永遠に眺めたかった。
制作に興味を持ち、映像系の専門学校へ進む南は卒業前に早くも実家を出て1人暮らしを始める。すっかりピアスだらけで耳のみならず顔にも穴が開き、あまりに遊び呆けた結果、親から厄介払いされた。


「え、一昨日スーツ着た男の人とご飯食べてませんでした?」
「あれね、くん。つまり、ちーのお父さん。俺が彷徨いてんの見て、話し掛けてくれた。息子の友達にまで気を遣って、メール送ったり泊める、お人好しっつーか。あんなん羨ましいわ。ホントのことまだ、ちーには黙っててさ。知成にはいつの間にか知られてたんだ。」
「嫌われないと思いますよ。」
私の願いをも込めて抱き締める。必要以上の生活費だけを渡され、努めて明るく振る舞う、実は孤独な彼が弱みを見せ、密かに喜びを感じた。


会いに行く度、南がどうにか連れて来た雑種の〈まふゆちゃん〉に尻尾を振って迎えられる。足りない部分を埋める、この幸せは続く筈だった。
「ごめんなさい、バイトで遅くなっちゃって。先輩、お腹空いてますよね?寒いから鍋にしましょう。」
スーパーマーケットの袋をぶら下げ、ついに入り浸り当然のように世話を焼く私に対し、先程までは漫画を読んでいた彼が、真剣な面持ちで止める。
ただならぬ雰囲気があり、別れ話を切り出されるとすぐさま察した。


「嫌です。私、絶対離れません。」
和音なんか勘違いしてる。彼女気取りってか俺らは付き合ってないでしょ。家族待ってるし、もう不健全に遊ぶのはお終い。そろそろ受験勉強しなよ。」
「はあ!?」
全身全霊を南に捧げても後悔しない、何故なら相思相愛だと言われなくても分かる。
ところが、それは幻?今更気付かされて、受け入れるなどこちらには無理だろう。何としても振り向かせたい、出過ぎた、泣き叫んで必死に縋り付いて突き放された。
物陰に隠れて息を潜め、怯えたまふゆが小刻みに震える。ふと〈勝手に脳内で〉音楽が流れた。


絶望を味わい、自宅に帰れば心配させた母にきつく叱られ、打ちひしがれて、初の失恋を機に彼との関係を10年来の親友に打ち明ける。
すみれは知成に長らく片想いをしており、追い掛けて同じ高校に入った。彼女にとって憧れの先輩と仲良しな南はとんだプレイボーイで私も弄ばれた、と勇気を振り絞り語る。すみれは瞬く間に涙を溜めて俯き、言葉を吐き出した。
「……馬鹿じゃないの……?」
惚れてはならない、しかし、どうも放っておけなかったあの人を愛して、未練が残る。


連絡先をはじめSNSのブロックは勿論、酷くフラれたが、アカウントを追加作成して相変わらず彼の生活を毎日覗き見た。
恐らく私以外の誰かを部屋に誘き寄せるだろう、専門に通って新しい女が出来るかも知れない、本命なんて、ダメ。

執念深く大学受験そっちのけで夏が訪れ、『ようやく俺、ちーとバンド組みます!』というつぶやきを目にする。添えられた写真では三度の飯より好きなドラムセットの前で満面に笑みを湛える南が映り、いつぞやの記憶が甦って、不思議と吹っ切れた。


★これは番外編です。完結済み本編はこちら↓