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キリングミーソフトリー[ 2 ].恋をする自分が好きなだけ

目標を掲げ、一丸となって練習に明け暮れる。
だが、音楽に評価を付けることは果たして正しいのだろうか。葛藤しながらも準備室へ足が向き、楽器に触れるとやはり楽しく部活動を辞められないような、その繰り返しだった。

良き理解者の南が卒業してしまい、仲間から目立ちたがり屋だと陰口を叩かれた私はとても傷付いて頻繁にメッセージアプリで相談する。
『毎日ツラいです』『でも、和音ちゃんはまだ踏ん張りたいんだよね?』『はい。逃げるのはラクだけど、何かをやり切ったとか、誇れる時が来るんじゃないかなって』


SNSを見れば金色に髪を染め、ピアスを開け、念願叶って高校の軽音楽部でバンドを組んだ先輩に支えられ、季節が巡り、最後のコンクールや受験を経て真新しい制服に身を包み、初めてのアルバイトと目まぐるしく、徐々に彼から遠ざかった。
代わりにライブを心の拠り所にして、通い詰める。
中高どちらも友人とは趣味が合わなかった。
元より好みに親の影響を受け気に入るものは悉く男性ファンが中心で、カラオケに行っても流行りの曲が分からず、それでも我を貫くうちに〈和音は変わってる〉と周囲が口を揃え、悪くはないなどと考える。


さておき、大抵の終演時間は決まっており、補導されぬよう家路を急ぐ。ある日ライブハウスを飛び出すと、年上らしき女と南が戯れ合いつつ歩くところを見掛け、更に毎回相手が異なり、かつて兄の如く慕っていた先輩が変わり果てたショックのあまりしばらく塞ぎ込んだ。

月日が過ぎ、高校2年生の秋。
当時、絶大な人気を誇った彼らのツアーが行われ、電車に揺られて県内の会場を訪れる。まず物販の行列に圧倒され、諦めて背を向けた次の瞬間、聞き慣れたほんの少し高い声に呼び止められた。
「和音ちゃん!欲しいのどれか教えてくれたら俺、纏めて買うよ。」


これが南との再会であり偶々、互いに同行者がおらず、誘われて共にライブを楽しむ。
言わずもがなモッシュに巻き込まれるばかりか〈ダイバー〉から蹴られ、体のバランスを崩せば、咄嗟に彼が肩を抱き寄せる。
ほら、この人はこうやってすぐ触る、下心丸出し、特別なんかじゃないの、だけど守られて嬉しかった。
帰り道には妙に不安げな表情を浮かべて私に寄り掛かり、耳元で
また会える?
と尋ねる。
心臓は早鐘を打つが、恋に落ちて堪るものか、〈そこら辺のお手軽なあれ〉と一緒にされたくない、ただ、友達なら。


以降、何となく顔を合わせる。
「俺さ、実家に居辛いんだ。家庭崩壊っての?ずっと仲悪くて。親は不倫がバレたり、一日中寝るかネットにハマってる、みたいな。んで、まあ夜の街ぶらつくと逆ナンされて。お姉さんの世話になっとけば、色々ね?ラッキーだし。」
「最っ低!とは、言い切れませんけど。あのワンちゃんは?先輩、飼ってましたよね。」
「ああ、うん。母親がべったりで、餌やりたくても怒鳴られるから。」
彼は溜め息を吐いてこちらを見つめた。


ゲームセンター、ファミリーレストラン、ショッピングモール、映画館、漫画喫茶、……恋愛に疎い自分がデートのような感覚に陥り、溺れて、抗えず惹かれる。間も無く手を出されたが舞い上がって幸せを噛み締めた、とはいえ必ず誰かの家に泊まる残酷な南にとっての私が〈何なのか〉は、怖くて聞けなかった。


★これは番外編です。完結済み本編はこちら↓


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