マガジンのカバー画像

読書感想

30
本の感想や書評を書いた記事です。主に小説について書いています。一部のノウハウや個人的な話は有料にさせていただいています
運営しているクリエイター

#推薦図書

中村文則さん『掏摸(スリ)』読書感想

中村文則さん『掏摸(スリ)』読書感想

この本は、軽い気持ちでスリをやっていた青年が、スリの腕を見込まれ大きな仕事を手伝うようになり、悪に飲み込まれていく話です。

スリというのは、街中で人にぶつかったりした隙をつき財布をとる、盗みの一種ですね。

中村文則さんは人間の「悪の部分」を描くのが上手い作家のひとりであり、この話も読む側が暗い世界に入り込めるよう、多くの工夫がなされた小説だと思います。

あらすじを書いていくと、スリの腕が抜群

もっとみる
道尾秀介さん『月と蟹』読書感想

道尾秀介さん『月と蟹』読書感想

夏になっているので、夏っぽい話の感想を書いてみます。道尾秀介の『月と蟹』です。ネタバレ含みます。

この話は、海辺の町で過ごす小学生の慎一と、その友達である春也が中心となって進んでいく、ミステリー要素も加えた、子供から大人になる時のもの悲しさが感じられる話です。

この話は神奈川の鎌倉を舞台とし、鎌倉の自然や祭りも絡め描かれます。話のはじめの方で、慎一と春也、そして慎一の祖父、三人で鎌倉の祭りに

もっとみる
今村夏子さん『星の子』宗教と日常

今村夏子さん『星の子』宗教と日常

この作品は宗教にはまっている親の下で生まれたちひろという子供が、日常生活を送りながら成長していく話です。

宗教には暗いイメージや、宗教団体に入っている人からお金を巻き上げるイメージが連想されることもありますが、この話は少しだけ人とは違う日常を送りながらも、親の愛情受け育っていく主人公の暖かな物語が描かれています。

私は別の作家さんのエッセイ内で、この小説『星の子』について書かれた文章を読み、そ

もっとみる
ヘッセ作『車輪の下』 読書感想

ヘッセ作『車輪の下』 読書感想

この本は、過度な教育という車輪の下じきになった、ひとりの少年を描いた話です。

ヘッセが書いた別の小説は、わたしが小学校の頃の教科書に載っており読んだ覚えがありますが、今回は『車輪の下』についてネタバレしつつ考えてみます。

作者の故郷であるドイツを舞台に、自然豊かな情景描写を絡めつつ、主人公ハンス少年の半生を描いています。主人公ハンスは田舎町で育ち、幼い頃から成績が優秀でした。1890年代の頭の

もっとみる
今村夏子さん『木になった亜沙』読書感想

今村夏子さん『木になった亜沙』読書感想

この本は、ファンタジーの要素を入れつつ、生と死、生物や自然界の循環をテーマにした小説です。

少し不気味なイメージの表紙に沿った、不思議な世界が早い時間軸で展開されます。この作品について、ネタバレ含みつつ考えてみます。

主人公の亜沙は、子供のころから「自分が料理したり、手に取ったりした食べ物を他人に受け取ってもらえない」という悩みがありました。給食当番の亜沙が器に盛ったスープを誰も手に取らなかっ

もっとみる
綿矢りささん『夢を与える』読書感想

綿矢りささん『夢を与える』読書感想

この本は、若い人が大人の消費世界に飲み込まれていく成功転落物語で、芸能界を中心とした華やかな世界と、主人公の喪失感を描いています。

ネットフリックスかどこかで映像化されたことを最近知り、原作の小説を思い出したため、感想を書いてみます。

あらすじとしては、チーズのCM出演をきっかけに幼い頃からチャイルドモデルをしていた夕子が、母親の助けも借り大手芸能事務所に所属しブレイクを果たします。ドラマやバ

もっとみる
江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織の良さはいくつもありますが、漢字で書きそうな箇所をひらがなにする審美眼が独特なので、それについて書いてみます。江國さんは、絵本作家というキャリアもあるからか、ひらがなに対するこだわりというのか、独特の目線を持っています。

江國さんの小説である『すいかの匂い』の解説には、「江國さんは漢字とひらがなにも独特の選択眼を持っている。(中略) 文章の中での、言葉の力の入れ方を決めるために、江國さん

もっとみる
遠野遥さん『改良』 読書感想

遠野遥さん『改良』 読書感想

図書館で遠野遥さんの『改良』を借りて読んだので、感想を描きたいと思います。ネタバレ含みます。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028460/

容姿を気にする心理や、暴力などのシーンも出てきますが、この小説は差別について描いている小説という印象を受けました。

まず、遠野さんの語りの独特な良さがあって、何かというと、あらゆる可能性をいったん考えている

もっとみる
中村文則さん『銃』読書感想

中村文則さん『銃』読書感想

この小説は人間の暗い部分をひきずりだして書いている作品ですね。もともと本屋でたまたま見つけて読んだ中村さんのエッセイ集『自由思考』を読み、その本が面白く、著作も読んでみようと思い、『銃』を読んでみました。この作品は中村さんのデビュー作だそうです。

感想というよりは、どういうテクニックを使って小説世界にひきずりこんでいるのかということを、著者のエッセイをもとに、考えてみたいと思います。ネタバレ含み

もっとみる
遠野遥さん『破局』読書感想

遠野遥さん『破局』読書感想

この本は、どこかで読んだ書評の中の「肉食なのに、乾いている」という表現がしっくりくる内容の、不気味でありつつ、どこかからっとしている本です。この前、遠野さんの『改良』を読み、他の本も読んでみようと思い、『破局』を図書館で借りてきました。すごく整理されたきれいさなので、たぶん本名ではないのだと思いますが、遠野遥という名前もなんだか好みです。何がなのかは不明ですが、遠く遥かに、ってことでしょうか。わた

もっとみる