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今村夏子さん『星の子』宗教と日常

この作品は宗教にはまっている親の下で生まれたちひろという子供が、日常生活を送りながら成長していく話です。

宗教には暗いイメージや、宗教団体に入っている人からお金を巻き上げるイメージが連想されることもありますが、この話は少しだけ人とは違う日常を送りながらも、親の愛情受け育っていく主人公の暖かな物語が描かれています。

私は別の作家さんのエッセイ内で、この小説『星の子』について書かれた文章を読み、その頃から気になっていました。ただその時は図書館で貸し出し中だったため借りられず、先日ついに図書館で借りることができました。

あらすじとしては、主人公のちひろは幼い頃から体が弱く、入退院を繰り返していました。お父さんが同僚にちひろのことを相談すると「金星のめぐみ」という水を手渡されます。その水を飲んだり、それで体を洗ったりするうち、ちひろはどんどん元気になっていきます。お父さんはその水や、その水に関連する新興宗教を尊敬するようになっていきます。

人はだんだん大人になっていくと、病気をしにくくなったり体が強くなるため、ただ単に成長したから健康になったという見方もできるかもしれませんが、そういうきっかけもありお父さんとお母さんは宗教にのめり込みます。

ちひろには姉がいたのですが、その姉も高校生に上がる頃には家を出ていってしまいます。姉の指には彼氏からもらった金色の指輪がはめられていました。

姉がもらった指輪など「金色で光っているもの」が、この小説では「暖かな愛情の象徴」となって出てきます。両親が、体を気遣いちひろに渡す「金星のめぐみ」と書かれたラベルが貼られた水もそうですし、姉にとっては、宗教にはまる両親より彼氏といるのが幸せだったという描写なのだと推測されます。

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今村さんの作品には意外性のあるユーモアも多く出てきます。作家の磯崎憲一郎さんの対談本に、この小説について書かれた部分があります。『星の子』で、主人公が「あこがれの学校の先生に不審者と疑われた人は、実は自分の両親なのだ」と泣きながら友達に告白すると「知ってるよ。だって有名じゃん」という一言が返ってくるシーンです。泣きながら友達に相談されたら「そっか、つらかったね」などの言葉を言うのかと思いきや、「有名じゃん」。磯崎さんの対談本には、これを「キラーパス的なユーモア」と書かれています。今村さんの作品には、こういう抜けや意外性のあるユーモアが他の所にもたくさん出てきます。

今村夏子さんは何年か前に芥川賞を取られている方で、この本もどちらかといえば純文学ですが、あまり難解な言葉も使われずユーモアもあり、芥川賞作品の中では読みやすい本だと思います。

先日今村さんの他の作品を読みましたが、その本もこの『星の子』も、宗教など別のテーマを絡めながらも、人間や動物など生きているものに対する愛情が柔らかに感じられる作品だと思いました。

他の本も図書館にあったので読んでみたいと思います。

ありがとうございました。


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