明石わかな | 本

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本を読み感想を書いたりします。読書が好きなぼんやりめの人間です。前デメンバーです。本はトータルで二千冊くらい読んでます。たぶん twitter→https://twitter.com/Fm2N02cETRpzVDc

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梶井基次郎『檸檬』読書感想

この小説は、青年の傷みやすい心を鮮やかな色彩とともに描いた作品です。 この本について、ネタバレしつつ感想を書いてみたいと思います。 著者の梶井は、1900年代初期に作品を発表した、関西を中心に活動した作家です。現在この作品は高校の教科書などにも載っているらしく、読んだことがある人も多いかもしれません。 この話は、青年である主人公が、理由も不明な焦燥感に駆られ、立ち寄った本屋で積まれた本の上に檸檬(れもん)を置いて立ち去るというストーリーです。 ストーリーとしては上記の

    • 筧裕介さん作『認知症世界の歩き方』

      この本は、認知症の方がどう周りを見ているのか、場面場面でどういった感情を抱きやすいか、通常の旅行に出かける感覚に置き換えながら考えさせてくれる本です。 今回は、小説の解説ではなく、番外編ということで、認知症になっている方の「行動の理由」を解説しているこの本について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。 認知症の方に直接インタビューした内容をもとに研究された内容が、直感的にわかりやすいイラストと文章で描かれています。 熱湯や冷水になる、入浴するたび変わるお湯「七変化温

      • 砥上裕將さん『線は、僕を描く』読書感想

        この小説は、大学生の青年が水墨画を通し、過去を受け容れながら自分の心と向き合っていく話です。 図書館でこの『線は、僕を描く』を見つけたので、ネタバレ含みつつ書いてみたいと思います。 大学生の霜介(そうすけ)はある日、絵画の展示のアルバイトに行き、水墨画の先生と出会うところから話が始まります。 霜介はつらい過去を抱え、人と上手く話せませんでしたが、黒と白の濃淡のみで表現された水墨画を見ながら、会場にいた老人と感想を交わすことは、なぜだかスムーズにできました。 モノクロの

        • 島木健作『煙』読書感想 古本と生活

          この小説は、古本の競りに出かけた青年が、人が持つ生活への執着心に驚きながら、働くことについて考えを深めていく話です。 主人公の青年である耕吉は、古本屋を営む叔父と生活していましたが、自分でお金を稼いでいないことに負い目を感じていました。ただ本は好きで、他の人とは一風違った本の良さが分かることに対し自信がありました。あるとき古本の競り市が開かれることを知り、耕吉が出かけていくシーンから話が始まります。 競りというのは、ある商品を出品者が出し、その商品を買いたい人が落としたい

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        梶井基次郎『檸檬』読書感想

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          岡本かの子『金魚撩乱』読書感想

          この話は、美しく成長した幼なじみの真佐子に挑発され、華やかで目を引く金魚を作りだそうと、一心不乱に努力をする青年の話です。 小説の短編集を図書館で借りてきたんですが、その中にあった岡本かの子さんの『金魚撩乱(きんぎょりょうらん)』について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。 この小説は、もともと金魚を売り生計を立てている家に生まれた青年が主人公であり、幼なじみの女性にあおられ、金魚の交配に人生を賭けるほどにのめりこんでいく話です。 青年には、真佐子という幼なじみの

          岡本かの子『金魚撩乱』読書感想

          梶井基次郎『冬の蠅』読書感想

          この作品は、冬の蠅と自分を重ね合わせながら、透明感のある文章で倦怠感を描いた話です。 梶井基次郎は『檸檬』という小説が有名ですが、今回は『冬の蠅(はえ)』という檸檬にも通じる小説について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。 この小説は、患っていた病気と、将来への不安からくる倦怠感や焦りを、部屋にいた冬の蠅に自分を投影し描いた作品です。 作者の梶井基次郎は、昭和時代には治らない病気とされていた、肺結核を患っていました。そのさなか、静岡の温泉宿に療養したことがあり、そ

          梶井基次郎『冬の蠅』読書感想

          『月まで三キロ』伊与原新さん 読書感想

          この話は、家族も仕事も失った五十代の男性と、たまたま乗り合わせたタクシー運転手と話す中で生まれた、理系の要素と情緒的な感傷を織り込んだストーリーです。 この本は短編集なのですが、本のタイトルにもなっている『月まで三キロ』という話について、ネタバレ含みつつ考えたいと思います。 この話は、五十代の男性が、自分の半生を振り返り暗い気持ちのまま自殺を考え、自殺の名所といわれる富士山麓に出ようとタクシーを走らせるところから始まっていきます。タクシーに乗っていると、運転手に違う方面に

          『月まで三キロ』伊与原新さん 読書感想

          太宰治『水仙』読書感想 

          この本は、芸術家志望の資産家の行く末を描いた短編小説です。 資産や資産家に対する、太宰治の考えが分かる作品だと思います。ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。 導入として、太宰が昔読んだ小説の内容が書かれます。ある剣術が得意な殿様が、家来たちと試合をして片っ端から打ち破っていました。 あるとき殿様が庭園を散歩していたところ、変なささやきが庭の暗闇の奥から聞こえたそうです。 「殿様もこのごろは、なかなかの御上達だ。負けてあげるほうも楽になった。」 「あははは。」 家来た

          太宰治『水仙』読書感想 

          絲山秋子さん『ベル・エポック』読書感想

          この話は、荷造りの間で交わされる友達どうしのやり取りの中で、心理の微妙な揺れ動きを描いた作品です。 ネタバレ含みつつこの『ベル・エポック』について考えてみます。 絲山さんは、微妙な友情の心理を描くのがうまい作家さんのひとりで、この本もセリフから細かな心情がうかがえる作品です。 主人公の女性とみちかは、東京の英会話スクールで出会い仲良くなった友達どうしで、この小説では、みちかが引っ越すため主人公が荷造りを手伝う場面を描いていっています。みちかは半年ほど前に婚約者を病気で亡

          絲山秋子さん『ベル・エポック』読書感想

          森博嗣さん「少し変わった子あります」読書感想

          この本は、大学教師の主人公が、後輩から勧められた変わった料理店に通いながら、物事について深く思考していく小説です。 その料理屋はだいぶ変わった店で、場所は行くたびに変わるのと、客はたった一人で訪れる決まりがあり、毎回違う若い女性が食事に相伴します。困惑しつつも女性たちと会話を続ける主人公の小山は、その料理屋をだんだんと気に入っていきます。 著者の森さんはミステリー作家として活躍されていた方で、今も多くのファンがいる作家のひとりですね。森さんは昔、小説を書きながら大学の教授

          森博嗣さん「少し変わった子あります」読書感想

          小林キユウさん『箱庭センチメンタル』読書感想

          この本は、7年半の新聞記者生活を経て写真家となった小林さんが、事件があった場所に再度訪れ、写真を撮りながら感じたことを文章に起こした本です。 今回は小説ではなく、ノンフィクションの本について、ネタバレ含みつつ感想を書いてみたいと思います。 この本では、佐賀市少年バスジャック事件や、JR新大久保駅転落死亡事故など、10件ほどの事件を取り扱っています。事件現場にあとから足を運び撮った写真が、この本には多数載せられており、一見普通の写真が特別な意味を持ちながら立ち上がってくる印

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          田中慎弥さん『実験』読書感想

          この本は、小説家の主人公が幼なじみの男性を不快に思いつつも憎めずにつきあいを続け、小説の題材にしていく話です。 この作家さんは、的確な例えと重く質感のある生々しい描き方が特徴的で、今回は『実験』という本について考えてみたいと思います。 あらすじを書いていくと、三十代半ばの売れない小説家の満が、小学校からの幼なじみである春男に対し、友情と憎しみの入り混じった感情を抱きながら交流を続けつつ、春男を題材にした小説を完成させる話です。 春男は満より歳が二つ下で、小学生時代の二人

          田中慎弥さん『実験』読書感想

          西川美和さん『きのうの神様』読書感想

          この本は、うっすら毒のあるユーモアを入れながら、医療をテーマに家族の感情を描いた小説の短編集です。 この短編の中の『ディア・ドクター』について、あらすじを書きながら考えてみます。 この話は、長く外科医を務めていた父親に対する、息子の感情の揺れ動きを書いた作品です。主人公はカメラメーカーの開発研究室に勤めており、主人公の父親と兄の微妙な距離感のある関係性を、主人公の目線から書いていっています。 ある日主人公は、父親がゴルフ場の休憩室でけいれんを起こし、そのまま倒れてしまい

          西川美和さん『きのうの神様』読書感想

          中村文則さん『掏摸(スリ)』読書感想

          この本は、軽い気持ちでスリをやっていた青年が、スリの腕を見込まれ大きな仕事を手伝うようになり、悪に飲み込まれていく話です。 スリというのは、街中で人にぶつかったりした隙をつき財布をとる、盗みの一種ですね。 中村文則さんは人間の「悪の部分」を描くのが上手い作家のひとりであり、この話も読む側が暗い世界に入り込めるよう、多くの工夫がなされた小説だと思います。 あらすじを書いていくと、スリの腕が抜群にいい青年が街中で財布を盗りながら、自堕落に暮らしていましたが、青年のスリの腕を

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          太宰治『富嶽百景』読書感想

          この本は、富士山の近くで過ごした日々の一部を切り取った小説です。 太宰治は『人間失格』など、自意識を前面に出した暗い思考を書いた作品が多いですが、どちらかというと明るい雰囲気の小説です。 浮世絵に描かれる富士や、他の山から見た鈍い富士の印象を書きながら、茶屋の娘さんや青年たちとの交流を描きつつ、話は進んでいきます。この小説は、太宰治がじっさいに山梨県に滞在していたときのことを元にして書いたと言われています。山梨にいたとき、太宰は二度目の縁談を控えており、その上向いた気持ち

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          今村夏子さん『こちらあみ子』読書感想

          この本は、周囲と少し変わっているため、いじめられがちなあみ子を、どこかあたたかな目線で描いている小説です。 また図書館で本を借りたため、ネタバレを含めた本のあらすじを書きつつ、感想も書いてみたいと思います。 あみ子は、幼い頃から変わった子でした。あみ子の母親は、習字教室を営んでいましたが、あみ子の弟を妊娠したのをきっかけに、習字教室はいったん中断していました。弟を流産したとき、習字教室再開のお祝いにと、あみ子は庭の金魚のお墓がある隣に、弟のお墓を作ります。母親はそれを見た

          今村夏子さん『こちらあみ子』読書感想