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今村夏子さん『こちらあみ子』読書感想

この本は、周囲と少し変わっているため、いじめられがちなあみ子を、どこかあたたかな目線で描いている小説です。

また図書館で本を借りたため、ネタバレを含めた本のあらすじを書きつつ、感想も書いてみたいと思います。

あみ子は、幼い頃から変わった子でした。あみ子の母親は、習字教室を営んでいましたが、あみ子の弟を妊娠したのをきっかけに、習字教室はいったん中断していました。弟を流産したとき、習字教室再開のお祝いにと、あみ子は庭の金魚のお墓がある隣に、弟のお墓を作ります。母親はそれを見た後ふさぎこみ、寝込むようになっていきました。

あみ子は、あみ子だけにしか聞こえない「不思議な音」を家の奥から感じ取り「こちらあみ子」と交信を続けます。父親も朝から晩まで仕事し、不良だった兄も部屋でひきこもり生活を続けており、もしかしたらさみしさによる幻聴なのかもしれませんが、本当に聞こえるのでした。

あみ子はひとと少し違うためか、通っている学校の生徒からはいじめられますが、あみ子にはあみ子のやり方や信念があります。弟のお墓作り同様、あみ子は純粋に、自分の考えややり方を貫いているだけだったのです。

今村さんの小説は、出てくる「もの」が小説の内容をより際立たせている印象があります。あみ子のお母さんが元気なときにやっていた習字教室も、小説ぜんたいの雰囲気作りに作用していると考えられます。

習字というのは、先生のお手本を見ながら真似して書くため、小説の中で「お手本と同じようにするもの」「規範に沿ったもの」の象徴として習字が登場しているのだと思います。「変わっている」あみ子とは逆の特徴を持つ習字を登場させたのは、あみ子を際立たせる意図があるのだと感じます。

また、いじめの描写がある小説は多くの場合「なぜいじめられたのか」「どういった経緯で友達ができにくくなったのか」などの分析が入るものが多い印象があります。例えば説得力を持たせるためか、「中学受験のため、友達の遊びを断っていたら、友達が自分たちを馬鹿にしているように勘違いし、いじめられてしまった」と、理由が書かれます。この本ではそういった考察はせず、ただ淡々とあみ子を観察する描き方をしています。

観察日記のような少し離れた目線から描いていくことで、読む人にあみ子側の視点にも立てるように、想像力をはたらかせることのできる余白のある書き方なのだと思います。

今村夏子さんの本からは、周りと少し違うひとを小説内で書きつつ、人間や動物全体に対するあたたかな愛情がどことなく感じられます。

他の本も図書館にあったので、借りて読んでみたいと思います。芥川賞と直木賞が発表されていたので読みたいですが、図書館にはまだ置いてなかったので、読めたとしてもちょっと先になりそうです。

ありがとうございました。

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