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岡本かの子『金魚撩乱』読書感想

この話は、美しく成長した幼なじみの真佐子に挑発され、華やかで目を引く金魚を作りだそうと、一心不乱に努力をする青年の話です。

小説の短編集を図書館で借りてきたんですが、その中にあった岡本かの子さんの『金魚撩乱(きんぎょりょうらん)』について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。

この小説は、もともと金魚を売り生計を立てている家に生まれた青年が主人公であり、幼なじみの女性にあおられ、金魚の交配に人生を賭けるほどにのめりこんでいく話です。

青年には、真佐子という幼なじみの女性がいました。金魚屋を営む青年の父親は、うつむきがちな真佐子を見ながら、「大きな声ではいえないが、まるでランチュウ(ずんぐりとした金魚)だ」と笑いました。

彼は幼いながらも真佐子に興味を持ち、ときには大人ぶって真佐子をいびったりしていました。

中学校にあがり、別々の友達を持つようになった二人はめったに顔を合わすことはなくなりましたが、映画館などで出くわすことがありました。そのたびに青年の心は真佐子の美しさに嫉妬を感じ、甘い悲しみで満たされていくのでした。

金魚の生育を学校で学んだ青年は、六、七年ぶりに実家に戻り、家業である金魚屋を継ぐことになります。真佐子は結婚していましたが、青年の真佐子への思いは「装飾品のような美しい金魚を作り出すことへの情熱」に移り変わり、金魚の交配に心をいれこんでいくようになります。

金魚には江戸錦、ランチュウ、丹頂など様々な種類があり、異なる種類の金魚を交配すると、遺伝子が混ざり合い美しい金魚ができたりすることがあるんですね。違う金魚同士から、子供の金魚を作るイメージです。小説の中で言っている「金魚を作ること」は、そういった交配を指しているのだと考えられます。

真佐子とは手紙のやり取りと、少し会ったりする時間をもうけながら、金魚を作っていきます。青年は金魚の生育に十数年の月日を費やしましたが、納得いく金魚はできあがりませんでした。

そんな中、豪雨が発生し、青年が持つ金魚の水槽も大きな被害を受けてしまいます。水槽の水や金魚が流され落胆する青年でしたが、父親が残した古い池の中に、青年は長年待ち望んだような影を見つけることができるのでした。

年代が少し前の小説ということもあり、「何か大きな力に操られながら、その傀儡(操り人形)であることを知らないで無心で働いている童女のようにも真佐子が感ぜられる」といった人物描写に重さを感じますが、それがまた金魚の美しい描写を際立たせている印象も受けました。

作者の岡本かの子は、じつは芸術家である岡本太郎の母親です。どこか創作物の中に情熱を感じさせるのは、親子で共通するところかもしれません。

また図書館で別の本も借りて読みたいと思います、ありがとうございました。

#読書の秋2022 #百年文庫 15 庭

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