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TABLO連載【加筆修正】

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ニュースサイト「TABLO」に連載をした過去記事に加筆修正をしてまとめています。
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記事一覧

あなたのエンターテイメントは人を傷つけてもいいものなのか?

あなたのエンターテイメントは人を傷つけてもいいものなのか?

「文句を言う人ってだいたい当事者じゃないよね」って、歌舞伎町を歩きまわり、いちごミルクの缶ジュースを探していたのは、どんよりした気持ち甘いものでごまかせるかなと思ったからでした。

お昼ご飯を食べるついでに散歩をすることが多い裏通りで、わたしには見向きもしないキャッチの男性が「無料案内所」の看板をテーブル代わりにしていちごミルクの缶を灰皿代わりに使っているのを見かけてから、「そういえばいちごミルク

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勝手に他人をかわいそうな人にしてしまう癖

勝手に他人をかわいそうな人にしてしまう癖

勝手にかわいそうなストーリーを他人にあてはめてしまう
 寒くなる時期に思い出すのは、大きな鍋で煮込まれたおしょうゆの匂い。

 まだ幼いころのお話しです。

 お母さんに連れられていったスーパーの駐車場に、玉こんにゃくの屋台が出ていました。冬が近づくとやってくるその屋台は、家では見たことがないような大きな両手鍋からグツグツと白いゆげを立ち上らせていて、子どもながらにおいしそうだなと思ったものです。

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釜ヶ崎のおっちゃんとわたしが終わらせないでいる日常

釜ヶ崎のおっちゃんとわたしが終わらせないでいる日常

ドヤ街で初めて手に入れたあだ名 これは数年前の終戦記念日翌日の出来事です。

 わたしはとある"おっちゃん"がどうしても行きたいと言っていた土地のことを何年も探していました。(そのおっちゃんは「あおさん」と名乗っていて、わたしも「あおさん」と呼んでいるので、今後は表記を「あおさん」とします)

 あおさんは、大阪の西成・釜ヶ崎で出会った友人です。

 初めて会ったときに、「成宮アイコ」というわたし

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自分は処方箋をもらう権利なんてないし、人一倍に性格がだらしないだけかも…という不安の先

自分は処方箋をもらう権利なんてないし、人一倍に性格がだらしないだけかも…という不安の先

再び、通院前回の「いつも意識散漫、頭がとっちらかっている、頭の中に教授がいる」といった内容を書いたのですが、あまりにも生活と仕事に支障が出てしまったので、再度、通院を始めました。

そもそもは機能不全家庭がバックボーンにある抑うつと、それにともなった社会不安障害に長年悩まされていたのですが、その治療が数年前にやっとひと段落して突出してつらかった部分が落ち着いたことで、今度は、ふと根本にあった自分自

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人の話がちゃんと聞けない。何度姿勢を正しても、気づくと違うことを考えて壁のシミを見ている

人の話がちゃんと聞けない。何度姿勢を正しても、気づくと違うことを考えて壁のシミを見ている

いつも意識散漫、頭がとっちらかっている片手でドライヤーをかけながら、「やっぱり今日のメールの文章はやなやつに見えたかもしれない、無理にでも絵文字とか入れればよかったな」と思いながら、テーブルに置いたスマホで好きなアイドルの週末のライブ情報をスクロール、目はテレビの『アメトーーク!』を見て、ドアのむこうで「あとでアイス食べるー?」と聴いてくる家族に「食べる」と大声で返事をしました。メールチェックをし

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電気が切れても電気が選べない。取るに足らないようなことで世界から拒絶された気持ちになる

電気が切れても電気が選べない。取るに足らないようなことで世界から拒絶された気持ちになる

文字は読めるのに、わけのわからない呪文に見えるずいぶん前から部屋の電気がひとつ切れています。

天井に取り付ける形の、よくある円形の電気です。蛍光灯が二重になっていて、どちらか片方が切れたからといっても生活ができるので、ずっとそのままにしていました。

もちろん、買いに行こうとは思っていたのですが、電気屋さんの前まで行っては躊躇して帰ってきてしまいます。「また買わずに帰ってきてしまった(=だから自

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黙っているのはなにも考えていないわけじゃないことをわざわざ説明するなんてうんざりする

黙っているのはなにも考えていないわけじゃないことをわざわざ説明するなんてうんざりする

なにも思わなかったの? の裏側に見えるもの日々の報告をするような日常会話がどうもうまくできないので、自分の気持ちや考えていることを、瞬発的に言葉にすることが苦手です。だからこうして文章を書いているのですが、瞬発力を良しとする文化もあるようで、ときどきこんなことを言われます。

「なにも思わなかったの?」

戦後最大級と言われた殺人事件のニュースのときも同じでした。わたしが人生の糧にしている「アイド

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DVが生むのは反撃じゃなく自己肯定感のなさ 祖父に暴力されたわたしは他人に暴力をふるわない

DVが生むのは反撃じゃなく自己肯定感のなさ 祖父に暴力されたわたしは他人に暴力をふるわない

怒りよりも先にあるもの港区南青山に、児童相談所と母子シェルターなどの施設が入る「子ども家庭総合支援センター(仮称)」の建設が予定され、さまざまな声があがっています。

テレビでは影響力のあるタレントさんが、「親に暴行されて『キーッ』となってる子が外にボーンと飛び出して、暴力をふるったりカツアゲしたりするかもしれない」といった発言をされました。



その発言を知ったときには、正直、「はあ? まじ

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一生イヤホンは絡まるし、充電器は見つからない。散らかった部屋で自分を雑に扱ってしまう夜中

一生イヤホンは絡まるし、充電器は見つからない。散らかった部屋で自分を雑に扱ってしまう夜中

部屋が散らかるのは調子が悪い証拠早く寝なくちゃ、と焦るほどに眠れない夜。

わたしは、真っ暗な部屋のなか、イライラしながらベットの足もとで探しものをしていました。朝刊を配るバイクの音が聞こえて、「ああ、早く寝なくちゃ」とますます焦ります。バイクの音はすぐに通り過ぎていきましたが、探しものは見つかりません。

部屋を明るくして探せばいいのですが、ここで蛍光灯をつけたらますます目が覚めてしまう…という

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嫌な記憶に癒されてしまうから幸せになれない。

嫌な記憶に癒されてしまうから幸せになれない。

懐かしいと聞いて思い出す世界には、だれもいない「なつかしさって、やっぱり感情というだけでは片付けられないものかもしれないよね」

インドカレー屋さんでナンをちぎりながら、机をはさんだ向こう側に座っていた彼はポツンと言いました。

Rooftopというニュースサイトで書いている連載 「『なつかしい』という感情はもう少し手加減してくれないと困る」 を読んで、「おもしろかった」と言ってくれたことから、か

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「死んだら負け」に救われる人と、救われなかったわたしが受け取った肉まんの皮のにおいのような優しさ

「死んだら負け」に救われる人と、救われなかったわたしが受け取った肉まんの皮のにおいのような優しさ

その前に、できること「あのコインロッカー、いつの間に使えるようになったんだろう」

少し大きな荷物がはいる一番下の段。その右はしのボックスは少し前まで、使用不可の張り紙がされていたはずです。隣のボックスは使っていいんだ…と少しギョっとしたのでよく覚えていました。

あらゆる情報が雑に配色されている繁華街で、道のはじにさりげなく設置されていた灰色のコインロッカーは、よっぽど注意をしていないと風景に埋

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ふっと意識が自分だけになる「自分スイッチ」

ふっと意識が自分だけになる「自分スイッチ」

ふっと意識が自分だけになる「自分スイッチ」思えば、小学校のころからそうでした。

「2組の転校生、なまってるけどかっこいいよね」「音楽の先生、すぐ怒るし、むかつかない?」「新しい文房具屋さん見つけたんだよ」

近所の女の子たちと、集団登校で盛り上がっている途中、なにげないことをきっかけに、たとえば道が日陰から日向になるとき、アスファルトがふっと明るくなったあの瞬間に、「自分スイッチ」のようなものが

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コンビニでなにを買えばいいかわからない日、自己否定でズタズタにする前に

コンビニでなにを買えばいいかわからない日、自己否定でズタズタにする前に

空腹でも、コンビニでなにを買えばいいかわからない日ファミリーマートの自動ドアが鳴らすメロディーを聞きながら、おにぎりの棚の前で動けなくなってしまいました。

おなかは空いているのですが、食べたいものがなにも思いつきません。

しかたなく、となりのサンドイッチの棚をながめて、デザートの棚でプリンを手にとり、無意識に裏面のカロリー表示を見ていることに気づき、「だからなんだって言うんだろうな」と棚に戻し

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教務室のテレビと地下鉄サリン事件。神さまは人間だったから、わたし、ギャルになる。

教務室のテレビと地下鉄サリン事件。神さまは人間だったから、わたし、ギャルになる。

先生たちが来なかった朝の地獄あの日、わたしはまだ子どもでした。

常々、神さまなんていない、と思っていたのでおなかが痛くなっても、「神さま、もう悪いことしませんからおなかの痛みをなおしてください」なんてトイレの中で祈ったことはありませんし、ティーン誌の後ろのページの星座占いなんて気にしたこともありませんでした。当時、クラスメイトがつけてたプロミスリング(手首につける紐のブレスレット、切れたら願いが

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