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【虹の彼方に】

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2020年9月25日 最愛の妻が空へ旅立ちました。 出逢って4年弱、入籍して1年と3ヶ月、結婚式を挙げて10ヶ月目のことでした。 一緒に過ごせた時間はとても短いものだったけ…
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#家族の物語

#最終話. 虹の彼方に 【虹の彼方に】

#最終話. 虹の彼方に 【虹の彼方に】

 妻の告別式の日、彼女の親友でありジャズヴォーカリストの吉田真理子さんからLINEで1本の動画が送られてきた。

話は少し遡ることになる・・・

妻の病気が発覚するずっと前、真理子さんがヴォーカルレッスンの教室を開いてすぐ、2019年の夏頃に彼女は彼女の親友のひろぽんと一緒に生徒として入門した。

その話はボクも聞いていて、妻がレッスンに行った日は、よく家で歌の練習していた。

 きっかけはレッス

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#14. 旅立ち 【虹の彼方に】

#14. 旅立ち 【虹の彼方に】

2020年 9月25日 金曜日

早朝、病院から連絡が入った。

「すぐに病院に来てください!」

妻の状態が良くないことをすぐに察した。

ボクは慌ただしく病院に向かった。

病室に着くとすでに彼女の意識はなく、横になったまま「はぁー、はぁー」とゆっくりだが大きな呼吸音が響いていた。

明らかに昨日までの様子とは異なっていて、これはきっとヤバい状態なのだと直感した。

ボクはそんな彼女の手を握っ

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#13. 九月 【虹の彼方に】

#13. 九月 【虹の彼方に】

9月1日 「抗がん剤治療」の2クール目に突入した。

1クール目の抗がん剤が効いていたのか、3〜4倍のスピードで成長していた腫瘍の成長をどうにか食い止めることができていたように思う。

腫瘍自体の大きさは現状維持か、ほんの気持ちだけ小さくなっていたようにも見えた。

2クール目の抗がん剤は1クール目よりも内容がより強力になったため、副作用が強く、身の置き所がないようなしんどさが続いた。

あまりに

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#12. 闘病 【虹の彼方に】

#12. 闘病 【虹の彼方に】

8月13日 通院の日だった。

しかし何日か前から妻のお腹は妊婦さんのようにみるみる大きくなってしまい、下半身はパンパンに浮腫んで、1分と同じ体勢をキープできないほど身の置き所がないしんどさに襲われていた。

結局自宅には戻れず、その日は急遽緊急入院となってしまった。

お腹の張りは腹水が溜まっているとのことで、針を通して水を抜くことを試した。

しかし結果的にうまくいかず、利尿剤を使って水分をと

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#11. 入院 【虹の彼方に】

#11. 入院 【虹の彼方に】

 ついに妻が倒れてしまった。

肝臓に転移した4.5cmの腫瘍が、最愛の妻の生命を直ちに脅かしていた。

すぐにでも抗がん剤治療をしなければいけない状態だったのだが、横行結腸にある10cmの腫瘍が腸壁をほとんど塞いでしまい、食事ができないので栄養も摂れず、妻の体力は日に日に衰えていった。

この時点でボク達夫婦には、選択肢がほとんど残されていなかった。

とにかく食事を摂って体力を回復するようにし

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#10. 発覚 【虹の彼方に】

#10. 発覚 【虹の彼方に】

 彼女の体調が日に日に悪くなっていった。

タイミングが悪く、首にできた帯状疱疹の激痛によって、お腹の痛みはかき消されていた。

しかし夜になると高熱が出たり、妊婦さんのようにお腹が張ったりして、あきらかに異常だった。

それでも仕事を休まず、持ち前の根性でマッサージの仕事を続ける彼女が、ボクは心配でならなかった。

やがて1人のマッサージのお客さんの施術に対し、施術後は2〜3時間ぶっ倒れた状態で

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#9. 日常 【虹の彼方に】

#9. 日常 【虹の彼方に】

 入籍、結婚式を経て、ボク達は「家族」になった。

結婚したことによって、ボクが他の人に妻の事を話したり紹介したりするときに、「うちの嫁が」とか「うちの嫁はんが」という言葉を絶対に使わないでほしいと最初にお願いされた。

なのでボクは「うちの妻が」とか「うちの奥さんが」という風な言い方をしていた。

それは今も変わらず守っている。

どうしても「嫁」という言葉に良い印象持てないというのが理由だった

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#8. 結婚 【虹の彼方に】

#8. 結婚 【虹の彼方に】

 指輪を買ったボクは、彼女と初めて出逢った1月29日の記念日に、改めてプロポーズをしようと心に決めていた。

彼女の仕事が終わるのが遅い時間帯なのと、高級で雰囲気のあるレストランとか全然知らなかったボクは、今まで一緒に行った中で彼女のテンションが一番高かった『ワニ料理』が食べれるお店を予約して、「2人が出逢って2年目の記念日」のお祝いをしようと、あらかじめ彼女を誘っておいた。

花束とケーキを買い

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#7. 葛藤 【虹の彼方に】

#7. 葛藤 【虹の彼方に】

 出逢ってから一年目の春が過ぎて梅雨にさしかかった頃、ボクたちはいつものように旅行の計画を立てていた。

行く時期は夏のお盆過ぎなので、避暑地に行ってみようということになった。

彼女はワンキチも連れて、長野県の白馬に行きたいと言う。

いろいろと調べてみたものの、ペットと一緒に泊まれる宿はどこも早々に予約が埋まってしまっていた。

ボクは何となく避暑地の代名詞でもある軽井沢に行ってみようと提案し

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#6. 旅行 【虹の彼方に】

#6. 旅行 【虹の彼方に】

 ボクたちが交際を始めて数ヶ月たった頃、彼女が突然「旅行に行こう!」と言い出した。

それまでのボクの価値観では、旅行って仕事を休んで、計画を練らないといけないものだと思っていた。

本当に恥ずかしいことに、この年齢まで旅行なんて職場の慰安旅行くらいでしか行ったことがなかった。

時間的にも金銭的にもほとんど余裕がなかったからだ。

「私は何ヶ月かに一回、旅行に行かないとストレスがすごく溜まっちゃ

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#5. 驚愕 【虹の彼方に】

#5. 驚愕 【虹の彼方に】

 彼女は「食べる」のが何よりも誰よりも好きなひとだった。

冬に出逢ってからすぐに春がやってきて、初めて二人で花見に行った時のこと・・・

昔ボクが通っていた専門学校の近くにある大きな川沿いの公園に、桜の木がずっと並んでいる有名な花見のスポットがあって、そこはボクの好きな場所でもあった。

そんな桜並木が綺麗な公園を、手を繋ぎながら二人で散歩していたのだが、彼女は桜よりもたくさん出ている露店に夢中

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#4. 仕事 【虹の彼方に】

#4. 仕事 【虹の彼方に】

 ボクと彼女は、出逢ってしばらくしてから付き合いはじめた。

よく食べ、よく笑い、よく仕事をするひとだった。

彼女はハワイアン式『ロミロミマッサージ』のサロンを経営していた。

それ以外にも、彼女からもらった名刺には、株式会社の代表取締役であり、その他にもたくさんの肩書きがズラリと並んでいた。

コンサル業や人材育成関連、過去には飲食業界にも携わっていたようで、仕事に関してはいくつも顔を持ってい

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#3. 転落 【虹の彼方に】

#3. 転落 【虹の彼方に】

 彼女との「出逢い」そして後にやってくる「別れ」も、それはボクの人生を大きく左右するものだった。

所謂世間でいう「底辺」と呼ばれるような生活を送っていたボクにとって彼女は、一筋の「希望」の光であり、汚れたボクを優しく導いてくれた大切なひとだ。

彼女がいかにボクを掬い上げてくれたかを語る上で、ほとんど人に語った事のないボクの闇の部分、「クズ人間」たる過去にも触れなくてはいけないと思っている。

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#2. 出逢い 【虹の彼方に】

#2. 出逢い 【虹の彼方に】

 彼女と初めて出逢った当時、ボクは43歳で建築関係の中間管理職をしていた。

当時の職務内容は、中間管理職と言いつつも、元請や職人との折衝に加え、慢性的な職人不足を補うため、そして現場の工期に間に合わせるために、自ら現場にも出て肉体労働をしながら事務作業もしつつ、受け持ちの現場のトラブルシュートに走り回ったりといった、とてもハードで何でも屋のような要領の悪い生活を続けていた。

若い頃にそれなりに

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