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詩/散文

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この感情のない文字ばかりが溢れる半透明の世界に自分の言葉をぽつりと置くのに違和感を感じたので、投稿を辞めた。ただ詩作自体は今も変わらず続けている。 私は矜持や虚栄心のためではなく…
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#散文

【詩】 扉 2024年2月7日作

【詩】 扉 2024年2月7日作



私は歩いている。
ものすごい速度で歩いている。

どうやって抜けてきたかもわからない道が
後ろに続いている
暗闇の中に何があったか、
どうやってそれらを通り過ぎていったのか、
私は最早覚えていない

「さらに奥に、さらに高く」

私は歩いている。
疲れる気配もなく歩いている。

すべての虚構と欺瞞と悪夢を
ゆっくりと閉ざされていく扉の向こうに残したまま、
私は迷いなく鍵をかける。

「さらに

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【詩】曙光 2024年1月8日作

【詩】曙光 2024年1月8日作

曙光

薄雪の覆いかぶさる木々がつくる窓から覗く
どこまでも続く雪原と
どこまでも続く樹々と
どこまでも続く山々と
どこまでも続く世界の果てに見える純白の光
いつか夢見た黎明の仄明かり

私はまだ歩き続ける。
私はこの旅を続けなければならない。
あの陽光の満ち溢れる世界に
足を踏み入れるまで。

【詩】無題 2024年1月2日作

【詩】無題 2024年1月2日作

私はあなたの名前も顔も知らないけれど
覚えている、私たちがアンドロギュヌスだったこと
私達は引き裂かれた半身をずっと探していること
異なる躰に入っている同一の魂だということ
だから、どんなに過去に押し潰されそうでも、
生きて、生き延びて、私に会って。
貴方が教えてくれたように私達は独りではないから
眩しい貴方の光に届くように
私はこの暗闇から起き上がる
丁度16時間前私が送った時間ではなく
私の過

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【詩】雲 2023年11月20日作

【詩】雲 2023年11月20日作



私はこの世に生を享けて
あたたかな春の日差しの中を駆け回った
私の顔には影の入り込む隙間もなく
屈託のない日々が続いた
草原に寝転がって、ただ青い空を眺めた
雲が流れていく

私は世界の複雑さを知り
木陰で一人本を読み
青い空を見ていた
雲が流れていく

暗闇の中に投げ込まれた私は
必死に光を探した
私は長い長い放浪の末
自分に戻ってきた
私は夜空に光る一番星になった
朝が来た
雲が流れてい

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【詩】朝のバス停 2023年11月20日作

【詩】朝のバス停 2023年11月20日作

朝のバス停

冬の朝、バスを待っていた
冷たい風が頬に吹き付けてくる
朝日が私の顔に降り注ぐ
冬の空気を吸って本を読んでいる
この瞬間にもバスが近づいてきている
永遠にこのままで、バスが来なければいいと思う。

【散文】散歩 2023年11月16日作

【散文】散歩 2023年11月16日作

散歩

まるで四月のようにやわらかくうららかな陽光の中を歩きながら考えた。大人になることについて。「いらない」と捨てた、今では愛おしく大切な一瞬一瞬について。いつの間にか過ぎていった幼年の日々について。

あゝ、終わったのだ。人生の春が終わってから気づいた。過ぎ去ることをあんなに強く望んだ過去が、届かなくなってからこんなにも大切で尊くなったのだ。今更になって気づいた。戻らない季節に手を伸ばしながら

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【散文】【短編】踏切にて 2023年9月26日作

【散文】【短編】踏切にて 2023年9月26日作

人里離れた地の、緑の茂る家路を一人辿っていた。空の綺麗な日だった。ぼんやり歩いていると、踏切を過ぎてすぐ、背後から無機質な音が断続的に聞こえ始め、頭の中に涼やかな音が一つ、鳴った。自傷を初めてしたあの夏の日のように、これに自分は救われる筈だという直感がし、また直後にそれは確信に変わった。縋りつくように振り返る。踏切の電灯が血の色に点滅していた。光っては消え、光っては消え……。私は磁石に引かれる鉄片

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