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ち あ き
2024年4月7日 17:42
小説って、編み物みたいと思います。かぎ針を毛糸の、ちいさな輪っかへ通しひとつひとつ手を動かして糸を列へ、列を面へと仕立てていくように選りすぐった言葉を、重ねて結んで一行ずつ丁寧に文章を紡ぎ、物語へと仕立ててゆく。どちらも本当に時間のかかる作業です。でもそうやって、手間を惜しまず細やかに編み込まれた細工がひとの心を魅了し、そのやわらかい布地が肌をあたたかく包み込
2024年3月10日 17:02
菜の花が風に吹かれてゆうらり、ゆうらり、と波を打ちます。一面の黄色。ビタミンイエロー。花盛りを迎え、彩度に満ち満ちた葉の花のパノラマが目の前に広がっています。黄色い海のように広大な光景も、そのひとつひとつをよく見るとそれは小さな花たちの集合体。すっくと伸びた茎先が枝分かれしてそこにいくつもの十字状の花をほころばせています。今日は、近隣の町で開かれた菜の花まつりにや
2024年2月4日 18:19
深い瑠璃色の空に一、二粒の星が音もなく点る如月の早朝。私は、パジャマにあたたかい上着を羽織ってひとり、キッチンに立ちます。それから携帯電話を片隅に置き、液晶の上の再生ボタンを押して昨晩の続きをリクエストします。ナレーターの方の声がシンとしていた空気の中に、しっとり響きゆくのを聞きながら私は、朝食の支度にとりかかります。流れるのは川端康成作「伊豆の踊子」。ナレー
2023年10月15日 20:30
机の上にはノートと万年筆、カップに淹れた茜色の紅茶。それから、読みさしの本が1冊。そうして、栞を頼りに本を開いたら、私の、好きな時間のはじまりです。万年筆にインクを十分に充填して姿勢をととのえて書かれている文章に目を落として。本の中の、美しい響きの言葉や新鮮に感じる表現、思わず共感する部分だったり、心に触れた台詞を真っ白なノートの上にひとつひとつ、拾い集めてゆ
2023年9月10日 21:14
書店で偶然手にした本を何の気なしにぱらぱらとめくり、ふと目を落としたその先にそんなことが、書かれていました。色鉛筆で描かれたさらりとシンプルな装丁。目を引く黄色い帯には『求めるのは「しあわせ」よりも「安心」』と書かれています。それは、松浦弥太郎さん著書『松浦弥太郎の「いつも」安心をつくる55の習慣』という本でした。書かれている言葉を目で追うごとに、なにか、腑に落ち
2023年6月30日 21:49
第一子の出産を、8月に控え里帰りをした友人へ郵便を出しました。同封した“おすすめ図書のしおり”にはこんな本を載せました。*------------------*○ 愛のエネルギー家事心を健やかに整える「きっかけの言葉」に出会えますように。この本には、やさしい暮らしを送るためのヒントがいっぱい。本田亮さんが描かれている挿絵は、見ているだけでほっこりしてきます。心がすこし疲れた
2022年12月23日 09:20
こちらは、白くて大粒の雪が降っています。そちらはどうですか。私はこのところ、気にかかることが重なってなんとなく心が落ち着きません。どうしようと思いつつ家を出て自然と足が向くのは、書店や図書館。本がある場所です。静かな空間に行儀よく並べられた本の中から気になったものを手に取っているうちに少し心が回復する。あなたにも、そんな経験はありますか。今日は私のとってお
2022年11月26日 17:24
書籍「美しいものを」には、雑誌「暮しの手帖」の初代編集長である花森安治さんの遺した“暮し”を見つめる言葉がおさめられています。モダンな挿絵とともに綴られる花森さんの言葉は、目の前の人にやさしく語りかけているようなあるいは、ひとつひとつのバランスを慎重に考えて編み上げたような特有の語り口が他にない魅了を放っています。なんとなく気忙しく、物事への向き合い方がすこし粗
2022年9月1日 21:34
窓を網戸にすると足先へ、僅かにひんやりした空気が流れてきました。つい先日までのハッキリした夏が少しずつ姿を消して秋の気配が滲みはじめた過ごしやすい夜です。リィン、リィンと遠くの暗がりから聞こえる、鈴虫の声。さざ波のような、透明な音が耳当たりよく吹き抜けていきます。思うようにいかないことばかりで心が埋もれそうになる毎日。足元に扇風機のよわい風をあて、ソファの背もたれ
2022年5月25日 20:34
いつもと同じ時間に起きていつもと変わらない朝ごはんを食べてちょっとしっかりめにメイクをしてまだ涼しい空気の中をいつも通りに出勤する。今日は、最終出勤日。胸の中の、どことなくフワフワした感覚だけがいつもと違っている。結婚、退職、転居。自分で決めたことなのに今日でこの職場に来ることが最後なんて、なんだか嘘みたいな気がする。*残業中に先輩がくれたカフェラテのあったかさ
2022年2月5日 06:43
桜は枝の先にぷっくり蕾を膨らませている。徐々に日脚が伸びていって夕暮れの空を眺めるのが楽しい。青果店の店先には真っ赤な苺が、ちらほらと。春が、ゆっくりと近づいてくる気配がする。*「美しい日本の季語」という本を開いている。ページをめくるたびに現れる季語はどれも新鮮に感じられ表現の巧みさに感動する。昔の人たちは日の光に合わせて生活のリズムをつくったり、雨や風の細や
2022年1月28日 22:06
静かな部屋にひとり、ソファに体育座りして肌なじみの良いブランケットにくるまっている。午前8:20。少し疲れたので、今日はお休みを取った。体調崩壊前の予防的休暇取得である。大切なお休み、なにをしようか。部屋の中を見回すと外から注ぐ、白くて淡い光が窓辺に広がっていた。今日は、天気がいいらしい。*先日お家に迎えたアネモネの苗はあれから次々に新たな蕾をつけ、ぷっく
2021年12月9日 13:10
窓ガラスにやわらかく水滴がつくような、寒い朝。彼とふたり、台所に並んでチーズトーストをつくる。今日は『のび〜るチーズ選手権』。昨日の夜、スーパーでめいめいに「これぞ」と思うチーズを選出。彼は森永製菓のモッツァレラチーズで私は雪印メグミルクのとろけるスライス7枚入。「チーズを長くのばせた方の勝ち」たった一つの簡単ルール。彼は食パン2枚にスライスしたモッツァレラチー
2021年11月3日 20:36
ときめくような本に出逢った時、私には必ず行うことがある。本に記された美しい表現や胸を打つ場面を採集してゆく作業だ。使われている動詞、副詞、名詞、形容詞、オノマトペ、それら言葉どうしの兼ね合いや関係。まずはひとつずつ丁寧に観察する。描かれる場面、情景、登場人物のセリフ、考え方、行動。些細な部分も目で追ってみる。それから真っ白な紙を用意し自分は何を「素敵」と思ったの