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◇ ふたりのチーズトースト日和

窓ガラスにやわらかく
水滴がつくような、寒い朝。

彼とふたり、台所に並んで
チーズトーストをつくる。

今日は『のび〜るチーズ選手権』。

昨日の夜、スーパーで
めいめいに「これぞ」と思うチーズを選出。

彼は森永製菓のモッツァレラチーズで
私は雪印メグミルクのとろけるスライス7枚入。

「チーズを長くのばせた方の勝ち」
たった一つの簡単ルール。

彼は食パン2枚に
スライスしたモッツァレラチーズを贅沢に挟み
ホットサンドメーカーで。
私は食パン1枚に
とろけるチーズを2枚重ねて
オーブントースターで。

台所にたちまち広がる
焼けた小麦の香ばしい、いい香り。

出来上がったチーズトースト
大きな平皿にふたつ並べて

せーのでふたり、大きな口あけ
ひとくち食べる。
よく焼け食パンのかどっこは
サクッと言うよりザクッとした触感で
あつとろチーズがたまらなく魅惑的なおいしさ。

そこから、チーズをそおっと
引き伸ばしてみる。


私のチーズが
ものの5センチで切れる中、

彼のモッツァレラはあれよあれよと
びっくりするほど伸びる。

伸びすぎて困惑ぎみに笑う彼が面白くて
私まで笑ってしまう。


チーズがながーく伸びるって
ただそれだけなのに

ちょっと嬉しく、ちょっと楽しい。


彼が牛乳を取りに
テーブルを立った隙をみて
こっそり私も、彼のパンをひと齧り。

チーズをびよ〜んと伸ばしながら食べた。
フフン、と得意げな顔をしながら。

寒い季節の、のび〜るチーズ選手権。
ほのぼの爽やかな、とある日曜の朝のこと。

ベッドに寝転んで
原田マハさんの『あなたは、誰かの大切な人』を
開いている。

月夜のアボカドという章、
66〜67ページ。

ねえ、マナミ。人生って、悪いもんじゃないわよ。
 神様にはちゃんと、ひとりにひとつずつ、幸福を割り当ててくださっている。
 誰かにとっては、それはお金かもしれない。別の誰かにとっては、仕事で成功することかもしれない。
 でもね、いちばんの幸福は、家族でも、恋人でも、友だちでも、自分が好きな人と一緒に過ごす、ってことなんじゃないかしら。
大好きな人と、食卓で向かい合って、おいしい食事をともにする。
 笑ってしまうほど単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが、ほんとうは、何にも勝る幸福なんだって思わない?

互いに好意を寄せながら、
長年一緒になることができず
60歳にしてようやく
その想いを実らせた女性の言葉。

このページを読みながら
彼とふたりで
チーズトーストを食べた朝のことを思い出した。


大切な人が隣にいてくれることが
当たり前になることは

嬉しいことだけれど

当たり前すぎると
その尊さを感じづらくなってしまう。

だから、時々立ち返るようにしよう。

このページの言葉を思い出して。

その「当たり前」を
愛おしむ心を忘れないように。


そう思いながら
ゆっくりとページをめくった。

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