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自分の感受性くらい


窓を網戸にすると
足先へ、僅かにひんやりした空気が
流れてきました。
つい先日までのハッキリした夏が
少しずつ姿を消して
秋の気配が滲みはじめた
過ごしやすい夜です。

リィン、リィンと
遠くの暗がりから聞こえる、鈴虫の声。
さざ波のような、透明な音が
耳当たりよく吹き抜けていきます。



思うようにいかないことばかりで
心が埋もれそうになる毎日。

足元に扇風機のよわい風をあて、
ソファの背もたれに身体を預けて
久しぶりに、本を開きました。

ポストカードほどの小さな詩集です。
アンソロジーであるこの本は、
ページをめくるたびに
それぞれの詩人たちの個性が
色彩豊かに展開されます。


***


それは、
最後の一編でした。


自分の感受性くらい           茨木のり子


ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄



自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ

ポケット詩集


鋭い一本の矢のように、
胸を捉えて離れない言葉。

自身に向けて詠まれたというこの詩が宿す
毅然とした強い光。

「しっかりなさい。」
読んでいるこちら側まで
ピシャリと頬をはたかれたような感覚。


“ 自分はどう生きているか ”
“ どう生きていきたいのか ”

私は
この詩を前に
静かに、
こころに、
問いかけました。



これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿