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ま っ さ ら な 風 に の っ て


いつもと同じ時間に起きて
いつもと変わらない朝ごはんを食べて
ちょっとしっかりめにメイクをして
まだ涼しい空気の中を
いつも通りに出勤する。

今日は、最終出勤日。


胸の中の、
どことなくフワフワした感覚だけが
いつもと違っている。
結婚、退職、転居。
自分で決めたことなのに
今日でこの職場に来ることが最後なんて、
なんだか嘘みたいな気がする。


残業中に先輩がくれたカフェラテのあったかさ。
総力戦で乗り越えた3、4月の繁忙期。
メモを書き込んだオレンジ色のノート。
ひとりで勝手に思い詰めすぎて
心が真っ黒になった2年目の冬。
休職明けの私を
やさしく迎え入れてくれた係のみんな。


落ち込んだ日、たくさん笑った日、
悔しくて泣いた日、嬉しかった日。
それまでの毎日が
目の前に、次々と浮かんでくる。

( みんなと一緒に愚痴をこぼすことも、
どうでもいいことで笑うことも
もう、出来ないんだな )


そう思うと
胸がきゅっと小さくなった。
その反動みたいにして
目にじわっと涙が滲んでくる。

(  今日一日が終わるまでは、
笑っていなくちゃ。 )


ロッカーのちいさな鏡を覗きながら
そう心に言い聞かせて、
私は制服の袖に腕を通した。



4:45 p.m.

同じ課の人たちが部屋に集まってくれて
最後の挨拶の場を設けてくれた。


ガーベラにカーネーション、
ミニ薔薇の揺れる花束を先輩が手渡してくれる。
私には勿体ないような鮮やかな色々の花束を
そっと胸に受け取ると、
ふんわりあまい香りがした。
その瞬間、必死に堪えていた気持ちが
一気に溢れて
私はボロボロ泣いてしまった。


心を病むほど嫌いだったはずの仕事が
いつの間にか、
離れたくないと寂しくなるくらい
好きになっていた。

それは紛れもなく
周りの人たちのおかげで。

みんなと働くことができたから
私はこの場所が好きだったんだと
改めてきづいた。


伝えよう、ちゃんと、
最後だから、ちゃんと、、



本当に、、、、、

伝えたいのに
昨日から考えていた言葉が、
いま頭に浮かんでいるその言葉が、
喉に詰まって、声にならなかった。
それでも
涙だけは勝手に溢れてくる。
私はちらりと先輩の方を見た。
そしたら先輩は、やさしく微笑んで
大丈夫、と言っているみたいに
ゆっくりうなづいてくれた。

本当に、、色んなことがあった、
3年半でしたが

頑張ることができたのは
優しい皆さんが
支えてくださったおかげだと思っています。

皆さんと一緒に
お仕事させて頂く事が出来て

本当にしあわせでした。

ありがとうございました。


たぶんもう、
みんなと会うことは出来ないけれど
その分、
これから出逢う人たちに
恩返しをしよう

そして、
この場所を離れたことを
ぜったいに後悔しないように
胸を張って進もう

そう思った。

***

風は世界から吹き寄せ
しばしその空を駆け
またいずこかへと吹きすぎて行く

ひとの人生も風に似て
しばしこの地上にとどまり
いくらかの時間を経て
いずこかへと去って行く
風の港  村山早紀



あらたな景色に出逢うため
私も、勇気をもって、
まっさらな風にのってゆこう。

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