- 運営しているクリエイター
#殺し屋
明のイントロダクション「カゲロウ」(05)
バーベルを落とすとともに、手を下ろした。上半身には熱気と汗がまとわりついているが、コンプレッションタイプのスポーツウェアはすぐにそれを振り払ってくれる。一仕事終えたのと同じ類の疲労感と達成感を覚えつつ、体を起こす。ベンチプレスの前には腹筋のワークアウトをしたので、体を起こしたとき腹筋に痛みが走った。床のタオルを拾い、顔の汗を拭う。首にタオルを回し、少し顔を下に向けて休んだ。人から疲れた表情を隠す
もっとみる明の3 「ロマンスⅡ」(09)
人を殺害する方法の中でも、絞殺は特に命のぬくもりを感じる殺し方であった。命が消える瞬間を、私ははっきりと認識することが出来るのだ。人の命を三枚におろしてやり、それに舌鼓を打つのが私である。
「遺伝子情報は残ると面倒なんだ」
私は食品工場で使われる作業帽子をかぶる。粘着カーペットクリーナーで自分の毛を丹念に掃除した。普段であればオールバックにしてジェルで固めてあるので、それほどの丹念さが求められ
香山の10 「明」(16)
博多駅の近くに位置する喫茶店にタクシーが着いた。運転手の女性が、料金を告げた。ここから私は、何が起こるのかはおおよそ分かっていた。ほとんどの関係に置かれた二人は、料金を払う役割を到着までに決めず、到着したとたんに、ここは私が、と言い始めるのだ。事実、確実に中崎は財布を取り出すつもりであった。
彼の財布は、灰色の長いルイ・ヴィトンであった。ロレックスにルイ・ヴィトン。彼の靴を外観だけでブランドを