見出し画像

終着点は、出発点である

高校の卒業式、高橋は語る。
 
「香川…実は、隠してたことがあるんだけど」
「なに?」
「私、彼氏いるんだ」
 
まじかぁ、『ブタゴリラ』があだ名の高橋に彼氏か…結構衝撃だった。
 
「誰?私の知ってる人?」
「あの、ほら。『残響六ロール君』彼」
「まじかぁ」
 
その変な名前の彼は以前昼休みの校内放送にいきがった手紙とハードロックな選曲を送り、放送部内で話題になった年下の根暗少年だった。高橋が後日ナンパして付き合いだしたらしい。
 
「でも、悩んでるんだよね…彼優柔不断だし、暗いし、何考えてるか分からないし」
「そういうところが好きなんじゃないの?」
「将来性よ将来性!男は将来性!」
「ははは」
「それに、私もそんな美人じゃないし、なんか、これからを思うと、このまま付き合ってていいのかなって…」
 
口は軽いが、結構真剣に悩んでいるらしい。さて、どう言葉をかけよう…悩んだ末に閃いた。
 
「やれやれ、完璧な男は存在しない。完璧な女が存在しないようにね。当然、完璧な恋人関係も存在はしないのさ。その不完全さを、少なくとも私は肯定するよ。やれやれ」
「何がやれやれだ」
 
高橋は笑った。大真面目に言ったつもりなのに。まあ、親友が笑ってるから良しとしよう。
 
それから八年。高橋から結婚式の招待状が届いた。お相手は例の年下らしい。八年も同じ人を想い続けるなんて、たいしたもんだ。私は窓を開け、春風を仰いだ。昼間から缶ビールを開け、エリオットの詩集を開く。
 
『始まりと呼ばれるものは、しばしば終末であり、終止符を打つということは、新たな始まりである。終着点は、出発点である』
 
そう思う。私は二本目を開ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?