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#小説

吾輩もベッドで寝る。

吾輩もベッドで寝る。

吾輩はポッキーである。この家に来て、二ヶ月になる。

吾輩の家には、二階というものがある。階段があり、そこをのぼると部屋があるのだ。吾輩はたまにその二階に連れて行ってもらうことがある。吾輩は家の中の階段をうまく上ることができないので、必ず抱きかかえてもらいのぼることになる。

二階になにか特別なものがあるのか、と聞かれるとそうでもないようである。どうも二階は人間たちの寝床になっているようである。吾

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吾輩は羊になる

吾輩は羊になる

吾輩は犬である。名前はポッキーである。

吾輩は吾輩のことを犬であると自覚して生きているわけではない。この家の人間たちが吾輩のことを犬であると言うので、きっと人間たちの世界の中では吾輩は犬という種類のものであるのだろうと推測しているに過ぎない。

ここ数日、いつもは昼間出かけて行く人間たちがずっと家にいた。慌ただしそうに何かを出したり片付けたりしている様子が伺える。最終的に片付けるのであれば、端か

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月曜日の憂鬱に関する、世紀の大発見。

月曜日の憂鬱に関する、世紀の大発見。

「お母さん!! オレ、気づいたっちゃけど!!」

小学4年生の次男が、さも世紀の大発見をしたかのような顔をして話しかけてきた。

その時刻、日曜日の午後9時半。
金曜日の帰宅後、一度も開かれることのなかったランドセルを開きながらの発言だった。

ランドセルはどこにも隙間がないくらいにぎゅうぎゅう詰めで、多分山手線の朝のラッシュもここまでのぎゅうぎゅう詰めではないと思う。知らんけど。
プリント類も教

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ヒミツの女子会

ヒミツの女子会

かんぱ〜い

予定外の乾杯だった。

その日は息子の学校行事のために私は休みをとっていて、母を誘ってランチをする予定にしていた。

私の妹の子どもも私の息子と同じ小学校に通っている。
私も妹もフルタイムで仕事をしているので、学校行事のために終日休みを取ることは少ない。
その日は、妹も休みが取れたということだったらしい。

せっかくだから、みんなでランチをしようということになった。

私たちはランチ

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吾輩は犬である

吾輩は犬である

吾輩は犬である。名前はもうある。
どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでもガラス張りの部屋に入れられてわんわん泣いていたことだけは記憶している。吾輩はここで人間というものを見続けていた。

そのうちの人間の数人が吾輩の手下になることになった。この人間たちは吾輩をいろんなところに連れていきたがる。よくわからぬ黒い怪物のような生き物に吾輩を食べさせる。人間も一緒に食べられる。生きて出てくることがで

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母親失格

母親失格

恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、母親のあり方というものが、見当つかないのです。

本来であれば、ママ友などを作り、公園デビューなどするところなのでしょうが、コミュ障の自分にはそれができませんでした。
そのため、現代の母親という姿がどのような人間であるかが、皆目見当もつかないのです。

これはある晴れた日の出来事です。

その日はとても天気のよい土曜日でした。

湿度は低く、からっとした気

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君の食べ物をたべたい

君の食べ物をたべたい

どこの馬の骨かもわからない牛の葬儀が、生前の牛にはまるでにつかわしくない曇天の日にとり行われたかどうかを私は知らない。
ましてや、どこの馬の骨かもわからない豚の葬儀を行った事実があったかどうかも私にはわからなかった。

夫の皿の上には、薄くカットされたサラミが行儀よくのっていた。
きっと葬儀すら執り行われなかった牛や豚をひき肉にして、香辛料をふんだんに混ぜ合わせて固めた食べ物を、夫が自分好みの厚さ

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ドナドナ回避

ドナドナ回避

11月11日(土)、私たちはペットショップにいた。

実はその前の週も、さらに前の週もペットショップにいたのだ。
目的は、そう、犬である。

夢に見るくらいに、犬が飼いたい。
もちろん、犬を飼いたい理由は可愛いからであるし、愛でたいからである。
そして実は、夫や息子の関心を私から逸らす為でもある。

我が家の男どもはかまちょである。
私の背後をとおる度に、彼らは私のSiriを触ってくる。
何かにつ

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半袖半ズボン小4男児の揺らぐ決意

半袖半ズボン小4男児の揺らぐ決意

小4の次男は冬でも半袖半ズボンを貫きたいタイプだ。

長袖を着るのを極端に嫌う。
一応極端に寒くなれば長袖は着る。
しかし、朝は長袖を着ていっても、帰りには脱いで帰ってきたりもする。
できる限り、半袖半ズボンがいいらしい。

近所に住む小学2年生の姪っ子に、〇〇くんは長袖持ってないの?と聞かれてしまうくらいに長袖を着ているのを見ることは少ない。

傘も差したがらない。
傘を渡そうとしても、さっさと

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月曜日のピノッキオ

月曜日のピノッキオ

月曜日の朝。
小学四年生の彼は、これほどまでにないほど動きが遅かった。

ソファの上で微動だにせず、昨晩終わらせられなかったやりかけの宿題にも手をつけない。
ベッドから起きてきたものの、ずっとソファの上で眠りこけていた。

なんのために起こしたのやら、と思いながら何度も何度も何度も起こす。
寝息を立てながら「起きとる。うるさい」と反応をするだけの小学四年生。

若干、反抗期の兆候が出てきている。

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二人きりの夜に

二人きりの夜に

10月になると福岡県糸島市では牡蠣小屋がオープンする。

次男を除く我が一家は、牡蠣が大好物だ。
現地で食べると運転手の夫がお酒を飲めないので、必ず持ち帰りにしてもらって、家で牡蠣を食べる。

レンジでチンすれば、オッケー。
それが我が家の牡蠣の食べ方の定番だ。

夏頃、ローカルテレビ福岡くんでもち吉の煎餅のカンカンに福岡県民は何を入れているのか?という特集をやっていた。

我が家は年賀はがきを入

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この男、毒か、薬か。

この男、毒か、薬か。

「なんでお前のホルモンバランスに、俺が振り回されんといかんとか!」

夫である彼は、私に向かってそう言い放った。

明らかな毒。

彼は作業着を着たまま毒を放った。
帰宅後まだ手を洗う前。
リビングのダイニングテーブルに荷物を置いている最中だった。

仕事から帰ってほとんどすぐに、彼は私にそう言い放ったのだ。

一重瞼の下の目に愛情の欠片も見えない気がした。
もしかすると彼はすでに人を一人くらい殺

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