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2023年12月の記事一覧

「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

 吉田修一の『元職員』の読書感想文です。小説の書き方という点でとてもスリリングな作品です。

「 」「・」「 」
 たとえば、私が持っている新潮文庫の古井由吉の『杳子・妻隠』(1979年刊)に見える「・」ですが、河出書房新社の単行本では『杳子 妻隠』(1971年刊)らしいのです。

 らしいと書いたのは、現物を見たことがないからです。ネットで検索して写真で見ただけです。

 私は「・」がなかったり

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一人でいるべき場所

一人でいるべき場所

 このところ、夜になるとやって来る女性がいます。枕元に立つのです。顔はよく見えません。というのは、半分冗談です。神仏のたぐいは信じていませんし、超常現象とか神秘体験みたいなこととは、ほとんど無縁で生きてきました。でも、半分冗談ですから、半分は本当なのです。

 夜な夜なやって来るのは、書きかけで放置してある小説の登場人物です。長いあいだ温めているにもかかわらず、なかなか完成できない小説がいくつかあ

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「移す」代わりに「映す・写す」

「移す」代わりに「映す・写す」

 今回の記事は、近いうちに始める予定の連載の下書きとして書いています。私は頻繁に脱線する癖があり連載が苦手なので、書くべきことをあらかじめ決めておいてから連載に入るためです。

 連載のタイトルは、「する/される」、または「人に動物を感じるとき」にするつもりで、「ヒトは動物園にいない」で触れたものです。

 今回のこの記事では話がかなり飛びますので、下の目次をご覧になったうえで、お読みください。

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【レトリック詞】であって、でない

【レトリック詞】であって、でない

 私が勝手にレトリック詞と呼んでいる形式の散文を紹介いたします。戯れ言ですので、文字どおりに取ったり、真に受けないでください。今回は「であって、でない」というタイトルで、テーマは「文字を文字どおりに取る」です。

であって、でない
 であって、でない。

 Aであって、Aでない。
 Aという文字であって、Aというものではない。
 つまり、Aであって、Bでない。

     *

 であって、であ

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でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

「好きな文章」という連載を始めます。たぶん、同じ書き手の同じような文章ばかりをあつかいそうな予感があります。それでもかまわないので、好きな文章を引用して好きなことを書くつもりです。

 今回のタイトルは「でありながら、ではなくなってしまう」ですが、これまでに投稿した「【レトリック詞】であって、でない」や「であって、ではない(反復とずれ・03)」と似ています。「宙吊りにする、着地させない」とも似てい

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見る「古井由吉」、聞く「古井由吉」(その2)

見る「古井由吉」、聞く「古井由吉」(その2)


Ⅰ 一目瞭然、見てぱっと分かる
 前回の「見る「古井由吉」、聞く「古井由吉」(その1)」では、以下の図式的な分け方をしてみました。

*聞く「古井由吉」:ぞくぞく、わくわく。声と音が身体に入ってくる。自分が溶けていく。聞いている対象と自分が重なる。対象が染みこんで自分の一部と化す。世界と合体する。

*見る「古井由吉」:ごつごつ、ぎくしゃく。事物の姿と形がそのままはっきりと見えるままで異物に変貌

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小説は絵に似ている(小説の鑑賞・08)

小説は絵に似ている(小説の鑑賞・08)

 今回は、小説は絵に似ていて、1)書かれるというよりも「描かれている」のではないか、2)読まれているというよりも「見られている」のではないか、という話をします。四部構成です。お読みになるまえに、目次をご覧ください。

 以下の動画は、今回お話しする小説(書物)のイメージです。杉浦康平さんのブックデザインです。

◆執筆中の小説は絵に似ている*小説は絵に似ている

 小説は絵に似ています。

 いま

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小説が書かれる時間、小説が読まれる時間(小説の鑑賞・06)

小説が書かれる時間、小説が読まれる時間(小説の鑑賞・06)

「小説が書かれる時間」と「小説が読まれる時間」には「ずれ」があります。さらには「小説に書かれている時間」とのあいだにも、「ずれ」があります。

 時間は一直線に進行していると感じられますが、そのなかに生きる人間にとって、時間は「ずれ」だらけ。人は時間の「ずれ」のパッチワークのなかで生きているのではないでしょうか。

小説は料理に似ている
 小説は料理に似ています。つくるのには時間も労力もかかるのに

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くり返すというよりも、くり返してしまう

くり返すというよりも、くり返してしまう

 創作と読書と夢に耽っているとき、人は似た場所にいる。自分以外の何かに身をまかせている、または身をゆだねているという点が似ている。

 そこ(創作、読書、夢)で、人は自分にとって気持ちのいいことをくり返す。気持ちがいいからくり返す。というより、くり返してしまう。

 創作であれば、その「くり返してしまう」が作家のスタイルになり、読書であれば、そのこだわりが読み手の癖になる。夢はその人の生き方と重な

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意味を絵で見せる漢字、意味を音で奏でる仮名(好きな文章・05)

意味を絵で見せる漢字、意味を音で奏でる仮名(好きな文章・05)

 今回の記事は、「痛みをつたえる名文(好きな文章・04)」のつづきです。「好きな文章」という連載の番外編です。

漢字、感字
 漢字には感字の側面があるように思います。いっぽう、ひらがなやカタカナを見ると、それが形であることを忘れて、音に直して自分の中に入れている気がするときがあります。

 漢字は意味をともなった形がダイレクトに目に入ります。有無を言わせずに入ってくるのです。

 痛い、いたい、

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