マガジンのカバー画像

エッセイはとつぜんに

212
つれづれなるままに、ひぐらし、ではないが、ときたまPCにむかひて。役には立ちませんが、何の変哲もない日常を楽しめるようにはなるかもね。
運営しているクリエイター

#生き方

旅人になった日と、それから。

旅人になった日と、それから。

初めてパンパンに荷物が詰まったバックパックを背負ったとき、「ああ、旅に出るんだな」と思った。

リュックは手に持った状態からパッと担ぐもの、というイメージで生きてきた自分にとって、座った状態で背負ってからよいしょ、と慎重に立ち上がらなければいけないそれは、特別感を高めるのに十分なものだった。胸と腰のベルトをカッチリ閉めることで、体全体に重さが分散して楽になる。リュックについている腰ベルトの機能性な

もっとみる
ふと思い出すFさんのこと。

ふと思い出すFさんのこと。

特別親しいと呼べるわけではない間柄のだれかについて、ふと思い出すことがある。ほんとうに何の前触れもなく、ふと。

ここ最近、よくFさんのことを思い出す。今朝も娘を保育園まで送ったあと、街を歩いていてふと、Fさんのことを思い出した。

* 

Fさんはわたしが新卒1年目のときに、途中から入ってきた派遣社員さんだった。基本的には週3回、9時から17時までの間、出社されていた。

当時わたしは右も左もわ

もっとみる
みかん農家になった友人のこと

みかん農家になった友人のこと

サラリーマンを辞め、突如みかん農家になった20代の友人から、「初めてのみかん」が届いた。

家族3人でダンボール箱を囲んでいそいそとあけてみると、箱いっぱいのみかんがずらりとあらわれた。

みかん好きの1歳娘は思わず、その上におおいかぶさる。次々とみかんを取り出し、横にいる夫に手渡してゆく。「うれしいねえ。ごはん終わったら食べようね」。そう声をかけると、ちっちゃな手を口に運んでパクパクと食べるまね

もっとみる
もやもやするのもわるくない

もやもやするのもわるくない

最近、気持ち的にちょっと打ちのめされたような感覚を味わう機会があって、さあどうしたもんか、と自分の身のふりみたいなものをうじうじ考えている。

ちなみに、だれかになにか嫌なことを言われたわけじゃない。むしろその逆で、ものすごくシンプルにいえば「すごいひとたち」に囲まれて、その前からわかっちゃいたけど、自分の「何もできていない感」をいやというほど思い知ったというだけの話である。

でもそれが「落ち込

もっとみる
どこかのだれかに宿る、ストーリー。

どこかのだれかに宿る、ストーリー。

昨日、とある取材で素敵なご夫婦の自宅に伺ってお話を聞く機会があった。

取材内容としても、人生の転機や生き方に触れるものだったので、おふたりの想いにふれてなんだかこちらまでわくわく、幸せな気分になった。

ああやっぱり、ひとの生き方に触れるストーリーを伺うのは、とても魅力的だなあ。それにまつわるインタビューは、やっていて幸せな仕事だと思う。

これまで何度も思ってきたことだけれど、何度でもまた、思

もっとみる
スーパーでアイスをむさぼるロックな貴婦人

スーパーでアイスをむさぼるロックな貴婦人

炎天下、自転車をこぐ。冷蔵庫の食材が切れたから、今日は買い出しに行かなければならない。

店の脇に自転車をとめる。汗だくでスーパーに入ったら、入ってすぐのあたりで、おばあさんがゆるゆる歩きながらアイスクリームをなめていた。

よくある、ソフトクリーム型のバラ売りアイス。パッケージの上半分がカパッとフタになっていて取りはずせる、あの形。もちろん、そのスーパーで買ったものだろう。

“あ、店内でアイス

もっとみる
母であり妻であり私である自分のこと

母であり妻であり私である自分のこと

昨夜、2年以上ぶりに、ひとりで缶ビールを開けた。

「プシュッッッ!」

その音と感触が、予想していたよりもさらになつかしくて、ああほんとうに、長らくここから遠ざかっていたんだな、と気づく。

妊娠、授乳期間はアルコールを断っていたから、お酒を飲むようになったこと自体、ここ2、3ヵ月の話だ。ひとりでプシュッ、なんていつぶりか。

あえてグラスには注がず、冷たい缶に直接口をつけた。

ごく、ごく、ご

もっとみる
もくじのようなページ【随時更新】

もくじのようなページ【随時更新】

はじめての方にもわたしのnoteアカウントの全体像が見渡せるよう、固定用にもくじのようなものを置いておくことにしました。

※「簡潔なプロフィール」+「スキを最も多くいただいているnote5選」は■こちらのページ(別note)■をどうぞ。この「もくじのようなページ」は盛り込み過ぎで長いので、興味のある部分を“つまみ読み”ください〜。

※反響の大きかった記事はこちら↓にストックしています。

* 

もっとみる
目的なんて、なくっても。

目的なんて、なくっても。

20代なかばのころ、「会社をやめて海外へ行く」というと、だいたい聞かれることは決まっていた。

そのひとつが、「目的は?」という質問。

会社をやめるなんて、それで海外へいくなんて、そんな大きな決断をするからには、きっと何かその先に、成し遂げたい大きな目的があるのでしょう?MBAとかとるの? 将来どうするの?

そう言いたげな視線をいくつも受けとめてきた。ダイレクトにそう言われたこともある。

もっとみる
見える日常、見えない日常

見える日常、見えない日常

ふだん制服姿を見慣れているひとの私服姿に偶然でくわして、どきっ!としたことはないだろうか?

昨日の夕方、いつもお世話になっている病児デイケアに娘を迎えに行った。

特に症状に変化がなければわりとスムーズに帰れるのだが、その日はいろいろと先生から説明があり、帰りが遅くなった。

スタッフ用の出口を案内され、薬局で薬をうけとり、階段をおりる。

私服姿の彼女を見かけたのは、そのときだった。

* *

もっとみる
「身近なおとな」が多様になったら

「身近なおとな」が多様になったら

ちょっとした夢がある。

夢というか、時折ふと妄想してしまう、憧れのイメージみたいなものだ。

簡単にいうとそれは「気ままスタイルの週末カフェ」である。

家族と一軒家に暮らして、自宅の一角をカフェスペースとして区切って独立させ、週末だけ、そのスペースをカフェとして開放する。

カフェといってもお客さんは来たり来なかったりだろうから、売上がなくても成り立つくらいのゆるすぎるカフェだ。飲み食いをする

もっとみる
気候と思考の深度はやっぱり関係している気がする【南の島で暮らして感じたこと】

気候と思考の深度はやっぱり関係している気がする【南の島で暮らして感じたこと】

ここのところ12月にしてはずいぶんと暖かい、というかむしろ日向では暑いくらいの日々が続いていた。今日は久しぶりに気温が下がり、冬らしい空気になったと感じる。

夜になってさらに冷え込んだ空気のなか、帰路につく。しん、と冷たく澄んだ静かな空気の中を歩いていると、自然と脳内にいろんな考えごとが生まれて、ぱらぱらと言葉たちがあらわれては、余韻をもって消えてゆく。

私の場合、たいていそうやって思考が深ま

もっとみる