#フィクションとノンフィクションの間
探せない過去最高に埋もれている日々へ
自作において、過去最高の作品というものに出会った人達は、一体どれくらいいるのだろうか。
私には、ハッキリとした過去最高の作品というものが存在する。厳密に言うと、その作品の記憶が無くなりかけていて文体や形も説明出来ない。だが、あの日の自分の頭の中で物語が勝手に浮かんだ感覚と、何を書いていても上手く行き着くという絶対的な自信と、それに準じた快感に襲われたのは、生まれて初めてのことであり、あれ以来味わ
シガーに委ねた深層に開高健との邂逅の真相を辿る《本厚木Sun faceの後編》
前編↓↓↓
待ち合わせ場所は本厚木駅の改札前。集合したヨシクラ夫妻とちひろと私の四人は、ヨシクラさんが予約してくれたお店を徒歩で目指す。
年末の暴挙を詫び、楽しみにしていたことを伝えた。最初の一杯を交わすまでに何を話すか逡巡しながら歩いていたが、久しぶりの本厚木の街並みに思考を委ねることにした。
人通りが多く賑やかだった街の通りは、商店や歓楽街が減り、ビルやマンションが建ち並び、街の方向性を
シガーに委ねた深層に開高健との邂逅の真相を辿る《待ち合わせた前編》
釣りの話をするときは両手を縛っておけ
ロシアの諺で、釣り師はよく魚の大きさを両手で誇張する。だから気をつけろという意味だ。開高健の遺した言葉としても有名だ。
「特に好きなことを書くときは誇張するな、見栄を張るな、本当のことを書け」
と私は解釈していて、開高健も使用する度に自分を戒めていたのではないのかと空想したりする。
JR相模線は、茅ヶ崎駅から橋本駅を結ぶ神奈川では珍しい単線の電車だ。私
四十二歳の戯れ言を、いつか真実にすることが楽しい道。
息子が干支にちなんだ龍を、樹脂粘土で作ると言った。
「お父さん。隣で見ていて欲しい。誕生日だからあげるよ」
と言いながら、新聞紙の上に材料を広げている。私は促されるように向かい合う形でテーブルに座り、小さな手で黄色の絵の具を粘土に混ぜ込む姿を、薄ぼんやりと見ながら思量することにした。
息子は自分の軀の中に外見上では全く判断出来ない「あるもの」を抱えている。それを「病」だとか「疾患」と表現した
書き残すは夏の思い出。取り戻すは仮初めか~青春の真打ち編~
前回までの噺。
私役の『私』が訪ねた友人に、突然聞かされた青春の真相を解き明かすために街に出た。
そんな私役の『私』は、馴染みの中華料理店で酔いに任せて青春の真相を友人とマスターとで追うことになる。
そして、真打ちの登場である。
彼女は私達を待たせることもなく、何の躊躇いもなくお店に入って来た。流行を意識したのか、1日のすべてを終えた夜の時間がそうさせるのか、黒いサロペットに白色のシャツ。
書き残すは夏の思い出。取り戻すは仮初めか~中華料理の中座編~
前回までの噺。
私役の『私』が訪ねた友人に、突然聞かされた青春の真相を解き明かすために街に出た。
馴染みの中華料理店のカウンターは、それがカウンターであった面影しかなく、現在はランチ時に使うスープ鍋や食器、炊飯器などが置かれお店はテーブル席をメインに使うようになっている。
お店は、マスターの人柄か長い時間をかけて地元に馴染んできた時間の証明なのか、1人で食事に来ても気兼ねなく自由に過ごせる空気
書き残すは夏の思い出。取り戻すは仮初めか~晩夏の前座編~
マナティとジュゴンについてそれほど知りたかった人生ではなかった。
1人実家に向かう車の中で、それがオリジナルソングなのか、そうではないのか。どちらかわからないまま、どこか呪文のように吹き込まれた歌を歌う、息子のメロディーを自然と口ずさんでいることに気付いた。
マナティとジュゴン。どっちが人魚のモデルだったのだろうか。リビングで歌う息子を思い出しながら口ずさみ、いつもそういう些細なことが気になっ
「夜の海」と「女は海」を考えた思春期の湘南ボーイ達
先日、中学の仲間と地元で酒席を共にした。歳を重ねるとお酒の席の話題は、過去の同じ思い出話を思い出す作業に変化してくる。その日の思い出話は、友人の携帯のSNS検索画面が可愛い水着の女子でいっぱいだったことから導き出された「女は海」の思い出話だった。
「湘南」と呼ばれる地域に住んでいながら僕達は海に面した街に住んでいない。
そこを「湘南」と呼ぶことは本当は間違いなのではないかと住んでいる誰もが感じ
東京ドームの野球観戦にはレモンサワー。人生模様の裏表は僕の変化へ続く次の25年へ。
「なるほど。では、君の新しい名前をお祝いしに一緒にベースボールへ繰り出そうではないか」
彼は東京ドームへ向かう車の中で運転しながら僕にそう言った。
僕は、今後僕を名前で呼ぶ時は「コニシ」と呼んで欲しいと彼にお願いしていた。僕にも40年近く慣れ親しんだ名前が存在していたのは確かである。だが僕の本名は、あだ名すらもその呼びやすい名字のために「ちゃん」を付けただけの簡易的なものだった。名字で呼ばれ続
毎回新しい話を持ってくる彼は、今回も美しい女性と出会う。
長い連休には、友人の仕事を手伝っている。積もる話は特にないのだが毎年の恒例だ。彼は去年代替わりで社長になり、日々を精進している。同級生がそれぞれ社会に何かしらの貢献をし始めている気がするが、気がするだけで留めておこうと私は生きている。
社長になった彼とは高校の時からの付き合いで四半世紀になるが、未だに奇跡を呼ぶ男だ。
その日、私は彼の仕事を手伝いながら彼の近況を聞いていた。聞いていたといっても
【Whiskey Lovers】Glenfarclas(グレンファークラス)シングルモルト12年、25年編
世の中には、一言で終われない事だって存在する。丁寧な無駄にこそ遊び心を込めたい。
「入り口のウイスキーがあるんです」
マスター・オブ・ウイスキーを目指す青年は、カウンター越しに聞き返さずには居られない呟きをした。
青年は、自分のウイスキーへの熱量と勉学のアウトプットのために動画配信を考えているとのことだった。一見、朴訥とした雰囲気からは伝わらない、真っ直ぐな芯を持っているのがその青年だった。
【Whiskey Lovers】ジェムソン カスクメイツ IPAエディション ハイボール編
世の中には、一言で終われない事だって存在する。丁寧な無駄にこそ遊び心を込めたい。
「ウイスキー始めませんか?」
お気に入りのお店でカウンター越しに、確かにそう誘われた。
「好んで飲んだこと無いけど。よくわからないんだ。体質的に合わない気がするし。ハイボールを飲んだら、次の日頭痛が残る」
僕は、財布と相談して体よく断るつもりで軽く流した。
日に日にそのお店にウイスキーが増えていたのは知っ
【Whiskey Lovers】はなしの前段には、相応の繋がりが存在する🥃
何事にも始まりには前段が存在する。きっかけや物語の誕生には、それぞれの関係が熟成する時間が存在するからだ。
僕が珍しく女性以外で、連絡先を聞いたその青年と出会ったのは、いつだったか振り返ることにした。
それは、去年の夏の終わりがまだまだ見えない、夜だけが早く訪れる9月に、たまたま居酒屋で席を共にしたことから始まる。それぞれ別の知人と来店していたが、知人同士が酔っ払ったために、僕がその青年の隣
僕達の矜持は翻弄される推し活。~中年の楽しみ方編~
お正月が明けると決まって僕達は、昨年めでたく社長になったばかりの男、ポップの仕事を手伝う。それは、顔見せだったり近況報告だったり、お互いのプライドをかけた推しの女子の話しだったりする。
高校時代からの同級生である僕達は、もう、40を越えた中年の集まりである。それを踏まえてこれから紡ぐ話しを心して聞いて欲しい。
毎年行われるその儀式は、どれだけ歳を重ねようとも全く実りのない話しなのだが、誰がどう