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【超短編小説】一筆の救い
芸術に一筋の男だった。彼は亡くなる前、このようなことを私に言った。
「真の芸術とは可視化できない抽象的なものの意味を読み解き、それを人間が表現することで完成するのだ」と。彼の作品は抽象画が多く、その中でも特に地獄を連想させるおどろおどろしい色合いが使われることが多かった。しかし、彼の代表的な作品はシンプルなもので、「くもの糸」というタイトルがつけられていた。
この作品は、高さ1メートル、横2メ
《短編小説》ドットスペース
「実にたいした部屋でしてね」
調査員にむかって得意げな表情をした社長が言った。そしてとっくにおなじみのはずのそれを、あらためて感嘆の面持ちでしげしげと見つめた。まもなく、調査員がこの中に入り安全性を検査することになる。今回は珍しい事業のということもあり、いつもなら調査員が一名しかこないところが特別に二名来ることになったのである。社長としてはそのことがさも満足だったのであろう、表情を見れば一目瞭然