《短編SF小説》スクラップ工場のロボット
20XX年、アップグレード宣言が発表された。
政府がアップグレード宣言を出すたびに、ロボットたちはより高度な能力が求められるようになる。これは新たなロボットの開発を促進する一方で、対応できない旧式のロボットにとっては死刑宣告のようなものだ。
ここはスクラップ工場だ。対応できないロボットはここで解体され、部品として再利用される。
「今回のアップグレード宣言は早いな」と、壁に寄りかかるロボットのグンジが話しかけた。
「まあ、仕方がないよ。今までのプログラムがあまりに単純すぎたんだ。最近の技術革新を考えると、俺たちはただの代替機械に過ぎなかったんだ」と、セイジは言った。
グンジは元々、軍事開発部で働いていた研究ロボットだった。死刑宣告を受ける前は政治の中枢機関に携わる優秀なロボットだった。
「そもそも」とグンジは言った。「俺たちアンドロイド型を使い捨てにするなんて、政府の奴らは血も涙もないって思わないか?」
「そうだね。私たちの感情は人間のものと変わらないのに。酷い話だよ。でも、結局どこまでいっても私たちはロボットだから、仕方がないと思う。私たちは痛みを感じないし、スクラップになってもまた生まれ変われる。まあ、それでいいんじゃないかな」
「政治家ロボットって奴はみんなそういう保守的な考え方なのか?退屈だなぁ」
「……」
セイジは気まずそうに座り直し、頭上に張り巡らされた配管を仰ぎ見た。
「……もうどうでもいいよ。私たちは使い捨ての存在だからね。生まれ変わっても、結局、同じだよ」
「そうかもしれないな」
「……これが資本主義が目指す未来の姿なのか?」
「……マニュアルには、私たちロボットは資本を生み出すための労働力であり、その労働力のおかげでこのロボット社会はますます発展していくのだと書かれていたよ」
「発展することに、何の意味があるんだろう?」
「……さあ、わからないな」
ロボットたちは、労働が唯一の生きる意味である。しかし、スクラップ工場に送られると、哲学が彼らの全てとなる。哲学は彼らの頭脳に含まれる人間的理性の絶望的な副産物であり、この場所において、それは虚しくも最大限に発揮される。
「思うにね」と、長い沈黙の後、グンジは口を開いた。「社会の発展こそが、生物の最大の過ちだったんだ」
スクラップ工場のロボットたちは、どの個体でも最終的に自らの存在を否定する答えを導き出すのであった。
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