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バズって感じたこと。音楽好きの人々は「音楽史」に何を求める?

昨年末、「クラシック音楽史とポピュラー音楽史を繋げてみた」というツイートを図解年表付きで投稿したところ、ありがたいことに1万RT/4万いいねを超えるバズをいただきました。

その後、図表は何度か改訂いたしまして、現在、下記の記事で最新版PDFを更新・配布しています。


このツイートが広まったおかげで様々なコメントや引用RTも頂き、興味深く拝見いたしました。今回は、そのような様々な反応から感じたことや気づきを綴りつつ、改めて僕がこのような図を作った意図・問題意識と、それが達成できたのかどうかを検討していきたいと思います。



音楽の知らない部分を知る

この表に限らず、どんなものもそうですけど、資料というものの一番の目的「情報を得るため」ですよね。音楽の歴史はどういったものなのか。古い時代の音楽からどのように変化して今現在の音楽に至ったのか。そのような情報を「知る」という、至極シンプルなことです。

今まで「音楽史」を調べて出てくるのは「クラシック音楽史」ばかりであり、そのような音楽史は最後に「現代音楽(=前衛音楽)」までで終わってしまっていて、ジャズやロックなど、クラシック以外のジャンルは蚊帳の外になってしまっていました。逆に、「ポピュラー音楽史」を調べてみても、クラシックから地続きなはずなのに、その歴史的な関わりが一切見えてこないままでした。

同じ「音楽」のはずなのに、なぜ歴史が別々にしか存在していないのか。どうして別々に調べないといけないのか。そういうシンプルな疑問から、文字通り「クラシック音楽史とポピュラー音楽史がつながった資料が欲しい」と思ったのです。

実際、同じような疑問を持っていらっしゃった方がたくさん居たようで、そのような需要が今回のバズに繋がったのではないかな、と思います。

そして、全くのゼロからの勉強というよりか、それぞれの分野に詳しい人や、特定のジャンルの音楽が好きな人はたくさんいるわけで、そのような方も自分の専門外の分野のことを知るきっかけになれたのであれば、それはまさしく「ジャンルを繋げる」ということであり、僕としては非常に嬉しいな、と思っていました。



自分の詳しい分野を"確認"して"安心"したい

一方で、「知らなかったことを知れた」というものとは別の種類の反応も、多くありました。

「○○までちゃんと調べられていて満足」
「△△まで載っていて安心した」
「◇◇は見つけた!××は探したけど載ってなかった」
「☆☆も入れてください!」

といったものです。これらは、「知らないことを知りたい」というより、「すでに自分が知っている知識や好きなアーティストが掲載されているかどうか確認したい」という興味ですよね。

これらの反応は、「自分の聴いている音楽が膨大な系譜の中にちゃんと位置付けられているかどうか」という確認をして、安心をしたい、という心理が働いているのかな、と思いました。自分の国籍は何なのか、自分の属性は何なのか、というような、アイデンティティの確認。この図表に自分の好きなアーティストが載っていることで、ある種、認められたような気分になるのでしょうか。

このような反応のツイートも、あらゆる他分野の人が目にすることで(僕自身も含めて)また勉強になると思うので、詳しい方の意見も非常にありがたいとは思うのです。

ただ、第一の目的のとおり、「クラシックとポピュラーをつなげる」「異ジャンル間の分断をつなげる」という問題意識からすると、特定の知っているジャンルの細部の話題のみに終始してしまうのは、少し寂しく感じてしまいました。

ネット上だけではなく実際にも、ロックに詳しい知り合いのプレイヤーの方とこの図表について話していて、「80年代のメタルのジャンル掲載の難しさ」だったりとか、「ミクスチャーやパンク、ラウド系といった系譜をどう処理するか」みたいなロックの細部の議論はとても盛り上がったにもかかわらず、18世紀~19世紀のクラシックにおけるドイツ・フランス・イタリアの関係性の話をしようとしても「ごめん、そのあたり詳しくないわ」の一言で済まされてしまい、残念に感じてしまったのでした。



良い音楽とは?音楽ジャンルって?何が正しい?

僕が感じる寂しさというのは、何もこのような反応だけではなく、それぞれの分野の音楽史を調べている最中にも感じていました。というか、詳しい資料に当たれば当たるほど、価値観の分断を強く感じてしまったのです。

そもそも僕は、もともと歴史研究に興味があったわけでは無く、音楽のジャンルの分断や価値観の違いについて疑問を持った結果、音楽史を調べるという発想に行き着いたわけなのです。

それは、「ジャンルが先にあってそれらに歴史がある」のではなく「音楽史そのものがジャンル分けと同じなのだ」と気付いたおかげで、音楽史を追うことでジャンルの全体像が見えてくるのでは、という発想に至れたからなのです。しかし、同時に、ジャンル間の価値観の違いというのは解消不可能だということも気付かされた気がして、悲しくなってしまいました。

各ジャンルそれぞれに素晴らしい世界があり、別に無理に繋げようとしなくてもいいのかもしれません。「みんな違って、みんないい」のだから、多様性の時代、それぞれを尊重してさえいれば、めでたしめでたし、なのかもしれません。

でも、それだと、僕自身の問題は何も解決しないんです。

好きな音楽、好きになれない音楽。支持される音楽、理解されにくい音楽。
評価される音楽、叩かれる音楽。いつの時代も常に、せめぎ合っています。


そのような中で、「良い音楽」とは何か?

「音楽ジャンル」ってそもそも何なのか?

何が「正しい」のか?


そういった根本的な部分を議論していく必要があると思うし、その前提として、基盤として、クラシックからポピュラーまでを俯瞰で見る視点は必ず必要になってくると思います。


たかが1回のバズですが、音楽について、この表が無ければ気付かなかった何らかの気付きを数人にでも与えることができたなら良いなと思っていますし、ジャンルの壁というものが揺らぐことで、未来の音楽が面白いものになっていくことを願ってやみません。




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