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喫茶店の小さな思い出
好きな喫茶店が、少し前に閉店していたらしい。長く愛された店だが、マスターらしい人は見たことがなかった。厨房の方から、談笑するお姉さま方の声がいつも聞こえた。初めてあの店へ行ったとき、アイスコーヒーに指した脆いストローが折れて、そこから飛び出してきたコーヒーで本に染みを作った。風情のある染みだ、とうれしく思った。それからはよく学校の帰りに(わざわざ途中下車をしてまで)立ち寄るようになって、やた
もっとみるサンタクロースを信じますか?
あの頃の私は素直な子供で、かなり長い間サンタクロースが実在すると思っていた。私の住む日本があるのと同じ地球の、実在するどこかの地点にはいつもサンタクロースがいるのだと。そう思わなくなったのは、小学五年生の冬、何かの間違いかもしくは出来心で、親のLINE画面を見てしまった時だった。その日私はサンタクロースを信じるのをやめた。
そして20歳の今、再びサンタクロースを信じている。信じると
第6話「もう冬になるのに」
ひとりが好きだ。
最近は、家族ですら一日中一緒にいられない。
人が誰かと一緒にいたがるのは、ほんとうには皆孤独だからだ。家族や友達や恋人がいても抹消できない深い深い孤独がすべての人間にあって、それを誤魔化したり忘れたりするために、暖を取るように集まるのだろう。でも私は、その孤独がうれしい。寒々と孤独でいられることが喜びで、誤魔化さずに噛みしめたい。
もちろん、
シューマンの指を語らせて(ネタバレ有)
「シューマンの指」はつい先日、神保町で友人とデートした際に買った本だ。著者は奥泉光先生。買う前に一応口コミを調べ、とりあえずとんでもない低評価は付けられていないことを確認、次に値段とスピンの艶やかな黒を確認し、私は購入を決意した。口コミなど気にせずただ直感で買えばいいのだろう。例え評価が芳しくなくとも、ただの人を選ぶ本だという可能性もある。常々そう思ってはいるのだが、やはりどうしてもあらす
もっとみるもしコラは一回お休み
すこぶる体調が悪い。体調が悪い上に今日はバイトに出なければならない。こんな日は、好きなひとに愛されたくなる。
最早私の好きなひとがこれを読む可能性は0に限りなく近いので書くが、私の知る範囲で彼はとても控えめな人間だった。コミュ障で、リセットくんだ。リセットくんというのは、一度仲良くなったにも関わらず数ヶ月後に会ったらまたぎこちなくなってしまうという意味で。そしておそらく、素晴らし