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詩集

43
私の紡いだ言葉たち。 全部のせ。
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#スキしてみて

【詩】ピアノの木

【詩】ピアノの木

白鍵と
黒鍵と
それらがずらりと並ぶ八十八の玉座

そして
沈んだ鍵(けん)の窪みから
人の姿に似た木が芽吹く

ピアノから生まれた木は
母なるピアノに還るべく
八十八の玉座を尋ねる

その軌跡を律とし
隠されたパターンを解き明かした時
かの扉が開くのだ

そして
浮かんだ鍵(けん)の頂から
人の姿に似た木が還っていく

私の耳に残った響きは
その生命の旅路
私の心に残った響きは
その生命の循環

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【詩】アドレナリン

【詩】アドレナリン

滾る衝動
行き場を失った紅い濁流が
出口を求めのたうち回る

動脈に蹄を食い込ませ
赤兎馬の如く
地響きのような鼓動

前途洋々駆け巡る
苛烈な神経系
逆立つ感性

灼ける渇きは直線的な軌道
境界が自我を失い
衝迫が徘徊する

昂り
呑まれ
求めよ

赤熱の臓物を抉ると
内なる声が雄叫びをあげ
高々と掲げる

成すべきこと
沸き立つ血潮
脈打つ理想

滾る衝動
出口を見つけた紅い濁流が
一目散に吹

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【詩】鍵のない錠前

【詩】鍵のない錠前

僕を縛る苦い記憶
引き止める優しさに
「No」というナイフを突き立てた日

不思議な自信に溢れていた10代の終わり
僕の甘い言葉で引き寄せた人を
自ら辛い言葉で傷つけた日

10年以上も前 今でも思い出してしまう僕の罪
その罪悪感が鎖のように伸びて絡みつき
脳の深い場所でずっと外れないでいる

その鎖に下ろされた錠前の鍵が
いつまで経っても見つからない
仕事もし 結婚もし 子どもも生まれ
親という

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【詩】名札

【詩】名札

あそこを見てみなさい
言葉を覚えたばかりの人間が
こちらを仰いで
君たちをなんと呼べばいいものか
困っている
だから
ほら
名札をつけなさい
君は「月」
あなたたちは「星」
そこの大柄なのは「夜」
と神さまは用意した名札を渡しました

しばらくすると

聞いてください
わたし
「星」なのに
人間は
「ベテルギウス」って呼ぶんです
わきのしたって意味らしいです

報告する者が現れました

それを聞

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【詩】サンタクロース/継承

【詩】サンタクロース/継承

サンタクロースを信じている

幼い日の記憶
クリスマスが近づくと
庭の木に紙を吊るした
欲しいものが書かれた
Wish List

叶うこともあれば
叶わないこともあった

暖炉も煙突もないから
寝室のある二階の窓から
侵入の痕跡がないか探った
すると
だいたい一階のどこかに
神秘のベールに包まれた
サンタの痕跡を発見する

逸る気持ちに従って
願いの結果を確認した

サンタクロースを演じている

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【詩】砂遊び

【詩】砂遊び

僕の手は
ちいさいから
足元の砂を
掬っては
家やら
山やら
団子やら
作っては
はしゃぎ
作っては
こわし
作っては
ひけらかし

黄昏がうんと
背伸びをする

みるみるうちに僕の姿は
大人と呼ばれる形になっ

次第におおきくなっていく手は
たくさん掴めるようになったから

ついめいっぱい広げるものだから
掬いたくないものまで握りしめ

山も森も川も町も人も営みも
節操なく根こそぎ掴み取

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【詩】ダム

【詩】ダム

堰き止められなかったものが
言葉になってこぼれて
滝のように
勢いよく放水されていく

お日様の機嫌が良ければ
虹がかかるかもしれない
放物線は嬉しそう

その華やかさとは反対に
しずかで
ふかくて
おおきくて
言葉にできなかった
今は何者でもないものたちが

まだかまだかと
外の世界を待って
このダムの裏側で
たっぷりと
ためられていく

ぼくのすみか
だったばしょは
とうのむかしに
そいつらの

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【詩】“祈り”

【詩】“祈り”

かつて“祈り”は生き物だった
苦難に藻掻く人々の前に現れては
奇跡を振り撒き
邪気を退け
傷を癒やした

しかしある時
人びとは
“祈り”の
力を求め
締め上げ
血を抜き
身を洗い
毛を炙り
皮を剥ぎ
腹を裂き
腸を啜り
斧で断ち
肉を切り
鍋で茹で
喰らった

“祈り”の力を得たと言う人達は崇められ
大病が流行ると呆気なく死んでしまった

奇跡は
この苦しみは
私たちの命は
残された人々は血眼で

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【詩】うらおもて

【詩】うらおもて

あの地平線をひっくり返せば
空は海になるのかな

音の波に乗れば
色の波に飛び移れるのかな

影を捲れば
そこに光はあるのかな

“嫌い”をなぞっていけば
いつか“好き”に辿り着けるのかな

表を捲れば裏があり
裏を返せば表があり
元々2つは1つだったのかもしれないね

そうして僕は
粗雑に捨てられた“嫌い”という感情を
指の腹でそっと撫でた

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【詩】花言葉

【詩】花言葉

あなたを待っています
私を思い出して
また会う日を楽しみに
あなたを忘れない

あなたたちは色んな言葉を囁くけれど
どれも意味はわからない

佇む私たちを見て
時には笑って
時には泣いて
なぜそのような表情を向けるのかわからない

たゆたう私たちの首根っこを
嬉しそうに引き千切り
知らない場所に引き出され
誰かもわからない人へ引き渡され
そのときに唱えていた
おめでとうがわからない

君がいつも囁

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【歌詞】燈火(ともしび)【詩】

【歌詞】燈火(ともしび)【詩】

僕の世界の裏側で
見えない恐怖と闘っている君の
言葉の端から滲んだ不安
大丈夫だよって言う口元が
見えない涙で濡れていた

当たり前のように訪れる未来も
静かに過ぎ去る季節も
悲しみと混ざって
色褪せてしまうのなら
僕と一緒に
鮮やかな炎で燃やしてしまおう

愛してるの言葉なんかじゃ
すぐに無くなってしまうでしょ
他愛のない会話も
肩を寄せ合った沈黙も
二人過ごした時間の全部を焚べて
消えない炎に

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【三行詩】カヌレ

【三行詩】カヌレ

君はいつもカリカリしているけど

僕しか知らないいくつものギャップは

2人だけの甘い秘密

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カヌレってフランス語で「溝のついた」って意味なんですって。

【詩】休みたいのよ

【詩】休みたいのよ

呼吸が邪魔をするの
心臓が休みたいのに

鼓動がやかましいの
心音に休符をうてたら

脈が止まらないの
心房の血が我慢できない

これでいいの
心が怖がってしまうから

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