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信州マニア

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信濃の国、歌えます......(ひっそりと)
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Matsumoto mania

Matsumoto mania



 住んでもないのに、ほぼ毎日、市民タイムスのWEB版をチェックしている、なぞのまつもとマニアが、ただ愛を語る、なぞの記事。8回めの松本旅行を記念して。

信濃毎日新聞

 ホテルのロビーで読む。読めなかったら、買って帰る。市民タイムスも読めたら、尚良い。知りもしないおばあちゃんのお悔やみ欄を読む。新聞にお悔やみ欄があることが、わたしにとって新鮮である。

 【中信地方】「地元自治体、国道19号

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はじめての上高地

はじめての上高地



 「聖書を持ってこなかったね」

 上高地の夕ぐれ、梓川のほとりに座って、わずかに雪の残る穂高と、まだらな西の光に照らされた明神の山を眺めていたとき、そう叱られた、きがした。

 八回めの松本にして、はじめての上高地。クマが出るというキャンプ場。熊鈴はキャビンに忘れた。赤いショルダーバッグに入っているのは、サン=テグジュペリの「闘う操縦士」と、アン・モロウ・リンドバーグの「海の贈り物」。どちら

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我々はどこから来たのか

我々はどこから来たのか

 これは、わたしの一冊目の本、
「暗闇の灯」のなかから抜粋した、
『我々はどこから来たのか……』
について語っている場面です。
その舞台、信州松本の写真を添えて。

 「このあいだ妻と、街でやっていたアートの展示を見に行きました。ぼくら夫婦は古い人間なので、現代美術はほとんどわからない。けれどそのなかに、ぼくの目を惹いた作品がひとつありました。それは『光あれ』以前の世界を問うというものでした。『我

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松本の夜 (短歌)

松本の夜 (短歌)

暗闇を独り歩ける松本に
月と見紛ふやうなビルの灯

シナノキの甘い香りの漂へる
大名町のあたたかな夜

もう知らぬ街にはあらぬ松本を
撫でるみたいに歩く夏の夜

瓦斯燈のやうな灯のじんじんと
音を立てたる千歳橋の夜

アルプスに登れるはなし街角を
煙草とともに漂やうて来る

暗闇の灯というクリスチャン小説を、活字にする前の、最終ぎりぎり確認の取材旅行でした。遠い土地を舞台にするのは、子育てしている

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ゆふぐれの女鳥羽 (短歌)

ゆふぐれの女鳥羽 (短歌)

枕辺にいまも残りぬ信濃なる
槻井泉にて汲みし湧き水

ゆふぐれの女鳥羽の畔
背のたかき草にひとむら風の渡れる

この先は伊勢町だよと君が言ふ
まるで知らない街でないやう

わが書きしひとの屋敷のある土地を
通りて彼のいない虚しさ

小説のなかのひとらが
生きてゐるやうに語ってくれる夫よ

このあいだ夫の誕生日に、彼に贈った短歌でした。

あゝ野麦峠の作者の、『松本連隊の最後』を昨晩一気に読んだ。す

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完全なもの

完全なもの

サッカーのルールは、ゴールに球を入れることくらいしか知らないけれど、信州ダービーとやらが開催されると聞いたとき、信州マニアのわたしは、飛び上がりたいくらいに興奮した。だって、松本と長野が戦うんだもの。

過去の「地獄の北信越リーグ」信州ダービーについては読んで知っていた。五月の試合の日には、Twitterで現地にいったひとの感想を検索してばかりいた。そして十月のダービーはホーム戦、いまから楽しみで

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信州マニアの読む堀辰雄

信州マニアの読む堀辰雄


わが心慰めかねつ更級や
姨捨山に照る月を見て
ー古今和歌集ー

 堀辰雄は、信州マニアだと思う。彼の作品の大半が信濃の国を舞台にしているだけでなく、なんだか彼には、信州の事物や雰囲気に憧れてならない、というような、信州マニアの感じがする。

 「菜穂子」には、信州と東京を結ぶ二本の鉄道が幾度となく出てくる。信越本線と中央線である。都築明が追分村に行くときは信越本線、菜穂子が富士見村のサナトリウム

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雪の日に 草間彌生を見に

雪の日に 草間彌生を見に

 信州のなかでも松本は降らない、降っても積もらない、はずであるのに、わたしは二年連続、松本で大雪に見舞われた。前日は美しく青き晴れた冬日だったのに、南岸性低気圧とやらがやって来て、朝起きると銀世界になっていた。

 ツーリストホテルの狭い部屋で、ケーブルテレビ松本を付けると、各所に設置された防犯カメラの映像が映し出される。こちらは奈良井宿、まるで吹雪いているかのようで、観光客などひとりもいません。

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読書録 『安曇野』 臼井吉見 全5巻

読書録 『安曇野』 臼井吉見 全5巻

 『戦争と平和』に匹敵するのではないか、というような膨大な質量の小説である。明治中頃のクリスチャン界、インテリ界、信州の農村から始まって、縦横無尽にあのひとこのひとが現れては、去っていく。ちらと聞き齧ったことのある名前、有名な名前、聞いたこともないような名前……

 『狭き門より入れ』

 という言葉が聖書にある。この小説に出てくる無数の思想家たちは、その狭き門の奥にある真理を、在るものは無意識に

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揺らぐことない都 (短編)

揺らぐことない都 (短編)

*この小説は作り話であり、実際の団体や
人物とは関係がありません*

↓あずさの車中で

 「まつもとぉ、まつもとぉ」

 というノスタルジックなアナウンスとともに、鷲尾夫人はまあたらしい桔梗色の列車を降りた。やっぱり寒いわ、と灰色のコートの襟を正して、どこか寂しげな、味気ないホームを見回す。いいえ、まだだわ、雪をまとった常念岳を見なくては、わたし、故郷に帰ってきたという気がしないの。

 改札を

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また松本にいます

(このフレーズすごく気に入った) (しかしあっつい)
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