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自動運転では何一つ解決しない地方が抱える課題を深刻化させる”移動”の問題|気仙沼市を歩いて考える

気仙沼市を散策し、記事を作り始めて早いもので3年が過ぎた。

以降、様々な地域を歩いては記事にした。また、昨年末からイベント等へ参加する機会も増やしており、その記録も残している。結果、気仙沼市に関する記事の数は50を超えた。もっともその多くが直近9ヶ月程度で作られたものである。

あちこちを歩き、あちこちに顔を出し、その記録を残す日々を送っているが、ある程度まとまった量になったため、この辺りでそうした日々によって得た気付きを記しておきたいと思い、キーボードを取った。いわゆる「地域視考」である。記録と思考は異なるものであるため、本記事それ自体は思考であるが、思考の記録という形で進めたいと思う。


地方の抱える課題の本質は”調達”である

いわゆる”地方の抱える課題”は、突き詰めれば”調達”である。とりわけ”金の調達”と”人の調達”が深刻な課題と言える。と言っても、”人の調達”は”金の調達”によって解決できる面が多分にあり、また”金の調達”によって解決できない部分は、そもそも物理的に解決が困難な面がある。だから結局のところは”金の調達”に尽きると言える。

地域の持続可能性を失わせる”地産地消”という失敗

この”金の調達”だが、必要なのは”外部からの金の調達”である。地方の活性化策として、よく”地産地消”を取り上げる向きがあるが、”地産地消”はその地域の先細りを生むだけにしかならない。農業を例に考えると分かりやすいが。いわゆる”地産地消”では、地元で作った農作物を地元で消費するのが良いとされる。

『地元で作った農作物を地元で消費すれば、金が地域外に流出せず、地域内で金が循環する』というのが、”地産地消”のお題目である。だが、その目論見は始まりから破綻している。理由は単純である。農作物を作るための器具機械・肥料を地元で調達できないためである。

器具機械を動かすための燃料も調達は不可能である。また、販売に際して電子決済が用いられれば、電子決済サービスも地元で調達できない。そもそも生産から販売、そして収益獲得に至るまでの過程で、必ず租税による金の流出が起こる。

加えて地元の消費者の多くは裕福でない。誰も彼も低賃金で働き、わずかな収入で生計を立てている。そのため、農作物を高く売ろうにも売れない。結果として”地産地消”は資金の流出と流入が釣り合わず、ただただ事業者を弱らせ、地域全体を先細りさせる。持続可能性が皆無な方策なのだ。

もしも農業によって地域の持続可能性を高めたいのであれば、どうにかして農作物を高く売る必要がある。たとえば少なくとも地方に比べれば高賃金を得ている東京都などの大都市圏で働く人々、あるいは海外の人々が対象となる。

昨今は円安が著しく進んでいるため、海外の人々を相手に商売するのが理想と言える。だからインバウンドが持て囃されるのである。このように、”地方の抱える課題”の根幹をなす”外部からの金の調達”を解決するには、売る相手を選ぶ重要性が高い。

工場誘致のもたらす大きな価値とふるさと納税の大きな落とし穴

早い話が、『いかにして地元の人々以外の人々から金を調達できるか』である。方法としてオーソドックスなのは、それこそいわゆるインバウンド。旅行者、とりわけ海外からの旅行者相手の商売である。また、ふるさと納税や企業誘致も方法としてはオーソドックスである。

とくに莫大な投資が注ぎ込まれる工場誘致は、地域の経済状況を一変させるだけの力がある。よく地方活性化の専門家を語る人々が工場誘致を否定する傾向があるが、悲しいかな彼等は工場誘致を超える地域経済の活性化を成功させられていない。

言ってしまえば、自分たち可愛さ、自分たちを正当化するための工場誘致否定でしかない。あまり真に受けない方が良い。工場誘致のもたらす莫大な経済効果は、昨今だと熊本県が顕著である。近場だと岩手県の北上市がそれにあたる。

比較的高賃金で人を雇ってくれる工場が地場経済に与える影響は、とても大きい。また、工場は多くの人々の移住を実現させるため、単純に地域で行われる消費が増える。人材育成も担ってくれるため、地方の中小企業では育てられない高度専門的な知見を持った人材が地域に増えるメリットもある。

一方で、工場に依存してしまった場合、工場の撤退による経済損失が計り知れないものになってしまう。だから、誘致した工場を中心に二次産業や新規産業を生み出し、また地場中小企業の技術力・事業開発力を高め、工場撤退後も地場経済を潤せるまちづくり・産業づくりが必要となる。

それができずに工場に依存してしまうと地域の未来は暗いままである。たとえば太平洋セメントを擁する大船渡市が、まさにそれを行えていないケースとなる。太平洋セメントの縮小・撤退によってもたらされる未来はあまりにも暗く、あってはならないものとなっている(もう20年以上言われている気がするが)。

ふるさと納税は、多くの自治体が力を入れているまさに”外部からの金の調達”であるが、多くの関係者が大きな欠陥を見落としている。ふるさと納税で行われていることは、地場の産品を納税のオマケにしてディスカウントして提供していることだ。つまり、地場産品の品格を著しく下げている。

ふるさと納税によってブランディングと称する活動を行っている自治体も存在するが、あまりに浅慮と言わざるを得ない。ふるさと納税はEC(通信販売)ではない。納税のオマケとして無償提供している形である(支払われている金は納税額であり、商品購入額ではない)。

納税のオマケとして安く手に入った物を本来の売値で買う気になる人間はどれだけいるだろうか。10,000円のふるさと納税によって所得税額の低下と併せて手に入る物を10,000円で買い、所得税額の低下を得られない。そんな損を許容できる人間は、あまり居ないのが現実だろう。

『ふるさと納税の返礼品は、物品ではなく体験の方が良い』といった話がされるが、物品を叩き売りするよりも現地を訪れてもらい本来の売値で買ってもらう方が好ましく、ブランディングにもなるためである。多くの自治体は、ふるさと納税について適切にリスクを見極める必要がある。

地方の抱える課題”金の調達”に立ちはだかる壁

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