時野あおい

子育てを終了した主婦。週1介護職員です。実家で母を在宅介護しており、関東に3週間、関西…

時野あおい

子育てを終了した主婦。週1介護職員です。実家で母を在宅介護しており、関東に3週間、関西の自宅に1週間のペースで暮らしています。元会社員、元契約ライター、元英会話講師。くらしの中で感じたことを書きます。読書感想文も追々に。Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

記事一覧

気になる水分摂取量 〜百均グッズで目盛り付きコップを作ろう~

 在宅介護していると、ケアマネや訪問看護師さんからしつこく(失礼!)聞かれるのが水分摂取量。かかりつけ医からもよく脱水を心配されます。咳で受診し、「乾燥でしょう…

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中央西線の彼はもしかして

満員電車で開かずのトイレ 自宅と実家の行き来の途中、木曽路をクネクネ行く中央西線を使う。数年前の夏、そこで一人の青年に会った。 そのとき、私は名古屋に向かって特…

時野あおい
2週間前
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「できる男」はできるフリをしない

お盆前に新幹線に乗った。乗った時には空席があったが、すぐに満席になった。 2人がけの窓際に座る私の横にも、30歳前後の男性がやってきた。無言で座る人もたまにいるけ…

時野あおい
3週間前
10

母は飯炊き魔

母はご飯が無いことを異常に恐れる。 認知症で何も記憶できない母にとっては、目の前にあることだけが真実だ。 残りご飯が冷蔵庫にあっても、炊飯器に無いと「無い」ことに…

時野あおい
1か月前
13

かゆくて、かきむしりたくなる話

(※ 重症の集合体恐怖症の方は読まないでください) メガネ拭きの布にツブツブがくっついているのに気づいた。 ミント色の2mmの粒が4つ、「※」のバツ印を無くした形に並…

時野あおい
1か月前
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私はパラレルワールドに住んでいる

1カ月のうち、だいたい3週間は関東、1週間は関西、という生活をしている。 頻繁に行き来するものだから、私の頭の中では、両方の世界が並行して絶え間なく進んでいる。…

時野あおい
1か月前
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最良の別れのため、毎日努力する

認知症の母を1年余り介護してきた。 訪問ヘルパーとして細々働いてもいるが、仕事としての介護と自宅での家族の介護は全く違う。自宅で求められるのは、介護技術より精神…

時野あおい
2か月前
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親の介護は自己満足

母は認知症だ。 瞬間的な会話は成り立つが、記憶力ゼロ。夏の今でも、毎朝起きてくると1月で、お茶会に行く日になっている。その日が、母の頭に残っている最も新しい記憶…

時野あおい
2か月前
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手をつないだ記憶③『亡き父――今も未来も支えてくれる手』

父は無口だが人懐こかった。黙ってそこに居るだけで子どもや犬が寄ってくる、そんな人だった。 亡くなる前の1年間は入院していて、遠方に住む私は、1カ月半に一度帰省し父…

時野あおい
3か月前
10

手をつないだ記憶②『義母――つながる運命をたどった手』

新婚のころ、義母が夫の出身中学校を案内してくれたことがある。 校内を歩きながら「あれが新しくできた武道館」と指さした義母は、自ら良く見ようと高さ80㎝くらいの花壇…

時野あおい
3か月前
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手をつないだ記憶①『見知らぬ老婦人――心を一瞬で溶かしてしまう手』

大人になってから、だれかと手をつないだことはあるだろうか。 日本には握手の習慣がないから、恋人や子どもとでもない限り、人の手を握る機会はあまりない。だからこそ、…

時野あおい
4か月前
10

介護の仕事は恋愛に似ている

サービス付き高齢者向け住宅で、訪問ヘルパーとして働いている。勤務の日、私の心は忙しい。ドキドキ、ホッコリ、ガッカリ、キュンキュン。介護は私にとってまるで恋愛だ。…

時野あおい
5か月前
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ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

息子は幼稚園のころ亀が好きだった。孫バカの父は、息子と私が帰省するたび、亀グッズをくれたものだ。 息子が小学校に入ってから父がくれたのが、クリスタルガラスの亀だ…

時野あおい
7か月前
10

ドンケラリー ~世界を席巻した日本の花~

実家の庭に見慣れぬ椿が咲いた。キャンディーピンクに白い斑入りの八重咲、大輪。庭木の隙間にすっくと立った80㎝に満たない若木だ。前から椿は数本あったが、単調な赤の古…

時野あおい
7か月前
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パパの豪快スキップ

コロナ禍で世の中が欝々としていたころのこと。買い物帰り、通りの向こうの父子に気づいた。 幼稚園服の女児が、父親の右手にぶらさがりケンケンしている。片足飛びだから…

時野あおい
8か月前
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気になる水分摂取量 〜百均グッズで目盛り付きコップを作ろう~

気になる水分摂取量 〜百均グッズで目盛り付きコップを作ろう~

 在宅介護していると、ケアマネや訪問看護師さんからしつこく(失礼!)聞かれるのが水分摂取量。かかりつけ医からもよく脱水を心配されます。咳で受診し、「乾燥でしょう。しっかり飲ませてください」で終わったことが何度もあります。

 どのくらい飲んでいるか聞かれ、「えーっと、1日にコップ○杯くらいかな?」。普通は、そんな感覚ですよね。でも、コップ1杯だから200ccとは限りません。食堂でよく使われている小

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中央西線の彼はもしかして

中央西線の彼はもしかして

満員電車で開かずのトイレ

自宅と実家の行き来の途中、木曽路をクネクネ行く中央西線を使う。数年前の夏、そこで一人の青年に会った。

そのとき、私は名古屋に向かって特急「しなの」に乗っていた。お盆前後で満員。デッキにもたくさんの人がおり、私もトイレ近くに立っていた。

木曽福島駅を過ぎてから、トイレがずっと「使用中」で開かないことに気づいた。何人かノックしても、ノックが返ってきて、一向に空かない。

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「できる男」はできるフリをしない

「できる男」はできるフリをしない

お盆前に新幹線に乗った。乗った時には空席があったが、すぐに満席になった。

2人がけの窓際に座る私の横にも、30歳前後の男性がやってきた。無言で座る人もたまにいるけれど、「ここいいですか」とちゃんと礼儀正しい。

腰かけた彼はテーブルを下ろし、ノートパソコンを広げ、その横にスマホを立てた。そして、オープンイヤーイヤホンを装着。スマホでビジネス系のYouTubeを見ながら、パソコンでメールを打ち始め

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母は飯炊き魔

母は飯炊き魔

母はご飯が無いことを異常に恐れる。

認知症で何も記憶できない母にとっては、目の前にあることだけが真実だ。
残りご飯が冷蔵庫にあっても、炊飯器に無いと「無い」ことになり、ご飯を炊いてしまう。
残りご飯を自分で茶碗に盛り、電子レンジにスタンバイさせても、目の前からご飯が消えるから、ご飯を炊いてしまう。

仕方なく、内釜を隠した。

母は「内釜をどこへやった」と大騒ぎ。「1食分ずつ冷凍したご飯をレンジ

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かゆくて、かきむしりたくなる話

かゆくて、かきむしりたくなる話

(※ 重症の集合体恐怖症の方は読まないでください)

メガネ拭きの布にツブツブがくっついているのに気づいた。
ミント色の2mmの粒が4つ、「※」のバツ印を無くした形に並んでいる。洗濯したから虫の卵が付いたのだろう。
虫は苦手だけど、卵だし、きれいな色だし、なんとかガマンできるレベルだ。外へ持っていってツブをこそげ落し、メガネ拭きは洗濯カゴに入れて処理終了。

――でも、何の卵だったんだろ。
気にな

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私はパラレルワールドに住んでいる

私はパラレルワールドに住んでいる

1カ月のうち、だいたい3週間は関東、1週間は関西、という生活をしている。
頻繁に行き来するものだから、私の頭の中では、両方の世界が並行して絶え間なく進んでいる。単身赴任の方たちはこんな感覚を味わっていたのかと新鮮な気持ちだ。

ところでわが家は認知症家系。私もそろそろお年頃だから、だいぶ忘れっぽくなった自覚がある。
人の名前が思い出せないのは序の口。「気になることがあった気がするんだけど気のせいだ

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最良の別れのため、毎日努力する

最良の別れのため、毎日努力する

認知症の母を1年余り介護してきた。

訪問ヘルパーとして細々働いてもいるが、仕事としての介護と自宅での家族の介護は全く違う。自宅で求められるのは、介護技術より精神面のサポートだ。

常に母を受け入れ、もてなし、おだて、ときには祭り上げる。太鼓持ちか、慈悲深い下僕になった気分だ。母が何度同じ行動を繰り返そうが、何度同じ質問をしようが、グッとこらえる。思うように動いて欲しいときは、感情に訴え、嬉しい、

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親の介護は自己満足

親の介護は自己満足

母は認知症だ。

瞬間的な会話は成り立つが、記憶力ゼロ。夏の今でも、毎朝起きてくると1月で、お茶会に行く日になっている。その日が、母の頭に残っている最も新しい記憶なのだろう。見たこと、聞いたこと、体験したことが、今の母の中には何一つ積み重ならない。だから、母にとって母の人生は完結している。

ならば、母が生きる意味はどこにあるのだろう。

心臓弁膜症で重篤だった1年前、手術を受けてほしいと願ったの

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手をつないだ記憶③『亡き父――今も未来も支えてくれる手』

手をつないだ記憶③『亡き父――今も未来も支えてくれる手』

父は無口だが人懐こかった。黙ってそこに居るだけで子どもや犬が寄ってくる、そんな人だった。

亡くなる前の1年間は入院していて、遠方に住む私は、1カ月半に一度帰省し父を見舞った。

久しぶりの面会は緊張する。――どれだけ病状が進んだだろう。痛々しい姿になっていないだろうか。私のことがわからなくなっていたらどうしよう――不安で病院へ向かう足取りが重くなる。

何度目かに見舞ったとき、父は車いすに座り談

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手をつないだ記憶②『義母――つながる運命をたどった手』

手をつないだ記憶②『義母――つながる運命をたどった手』

新婚のころ、義母が夫の出身中学校を案内してくれたことがある。

校内を歩きながら「あれが新しくできた武道館」と指さした義母は、自ら良く見ようと高さ80㎝くらいの花壇に上った。ツツジのような低木が植えられていたと思う。当時の義母は60代。若くはない。
――花壇に入っちゃダメでしょ。第一危ないじゃないの。

ハラハラする私をよそに、彼女はずかずか植え込みをかき分けて武道館を見に行き、帰ってきた。そして

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手をつないだ記憶①『見知らぬ老婦人――心を一瞬で溶かしてしまう手』

手をつないだ記憶①『見知らぬ老婦人――心を一瞬で溶かしてしまう手』

大人になってから、だれかと手をつないだことはあるだろうか。

日本には握手の習慣がないから、恋人や子どもとでもない限り、人の手を握る機会はあまりない。だからこそ、成り行きでだれかの手に触れた瞬間は、鮮明に心に残っていたりする。

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冬のある日、体調不良を押して仕事の打ち合わせに出かけた帰り道。疲れを感じながら電車のホームを歩いていると、ツトツトと前を行く高齢女性が見えた。

その人はベ

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介護の仕事は恋愛に似ている

介護の仕事は恋愛に似ている

サービス付き高齢者向け住宅で、訪問ヘルパーとして働いている。勤務の日、私の心は忙しい。ドキドキ、ホッコリ、ガッカリ、キュンキュン。介護は私にとってまるで恋愛だ。

気分の浮き沈みがあるタマエさんは、抱きしめたくなるほど可愛くなったり、不穏なムッツリになったり。訪問するときは、(今日はどうかな)と緊張する。「お食事お持ちしました~♪」と強引な笑顔で踏み込み、人懐こい目線を返してもらえると、(やった!

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ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

息子は幼稚園のころ亀が好きだった。孫バカの父は、息子と私が帰省するたび、亀グッズをくれたものだ。

息子が小学校に入ってから父がくれたのが、クリスタルガラスの亀だった。

カット面は一様ではなく、手足を接着剤で貼った雑な作り。それでも数千円はするだろう。子どものおもちゃにしては高すぎる。もったいない、と私は思った。それに、息子の亀ブームは既に下火になっている。案の定、その亀は大した興味も示されぬま

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ドンケラリー ~世界を席巻した日本の花~

ドンケラリー ~世界を席巻した日本の花~

実家の庭に見慣れぬ椿が咲いた。キャンディーピンクに白い斑入りの八重咲、大輪。庭木の隙間にすっくと立った80㎝に満たない若木だ。前から椿は数本あったが、単調な赤の古風な花で、気にも留めていなかった。

でも、これはドレスアップした乙女のような華やかさ。俄然興味がわいた。いったい何という品種だろう。母にきいてみたが、高齢のため、この花がいつどうやってこの庭に来たかさえわからない。

インターネットで花

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パパの豪快スキップ

パパの豪快スキップ

コロナ禍で世の中が欝々としていたころのこと。買い物帰り、通りの向こうの父子に気づいた。

幼稚園服の女児が、父親の右手にぶらさがりケンケンしている。片足飛びだからノロノロしか進めず、しがみつかれた父親も歩きにくそうだ。

しばらくして父親が何か耳打ちしたかと思うと、2人はつないだ手を大きく振って、いきなりスキップを始めた。

若いパパのスキップは威勢のいい大股で、タッタラッタとリズミカル。女の

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