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ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

息子は幼稚園のころ亀が好きだった。孫バカの父は、息子と私が帰省するたび、亀グッズをくれたものだ。

息子が小学校に入ってから父がくれたのが、クリスタルガラスの亀だった。

カット面は一様ではなく、手足を接着剤で貼った雑な作り。それでも数千円はするだろう。子どものおもちゃにしては高すぎる。もったいない、と私は思った。それに、息子の亀ブームは既に下火になっている。案の定、その亀は大した興味も示されぬまま、彼の部屋の隅で忘れ去られた。

時は過ぎ、息子が中学生の頃。

洗濯物をしまいに息子の部屋に入ると、壁に小さな7色の光が差している。どこから来ているのだろう。光を手で受けながらたどると、どうやら窓辺に放置されたガラスの亀だった。ああこれか、と私は何の気なく亀をくるんと回した。

すると突然、部屋中にたくさんの虹の粒が回った。まるでミラーボールだ! 7色の光は1つだけでなく、実は部屋中にいくつも散っていて、回転させて初めていっぱいあると気づいたのだ。あんまりキレイで息をのんだ。父は……これを知っていたのだろうか。光があたると魔法がかかることを。

そういえば、父はプリズムが好きだった。建築士の父はガラスの三角柱のような道具を持っていて、それを転がしては7色の光を作った。そして、まだ幼い私に「プリズムだよ」と何度も教えてくれた。

水晶を見つけるのも得意で、近くの山に散歩に行くと、透明でゴロンとした六角柱をよく拾ってきたものだ。

そんなことを思い出しているうち、私ははたと思い至った。

ガラスの亀は、息子にではなく私にくれたのではなかったか。孫バカではなく娘バカではなかったか、と。次の帰省の折、亀を持ち帰って父に問いただしたが、曖昧に笑っただけで何も答えてくれなかった。

父はこの世にもういないが、あの頃から虹色の光は私のラッキーアイテムだ。父のゆるぎない愛情を思い出させてくれるものだから。どこかで7色の光彩を見かけると、良いことの前触れだと思う。

虹色の向こうで、父が穏やかに笑っている気がする。

ここまで読んでくださったあなたにも良いことが起こりますように!


(カットガラスの置物やグラスをお持ちなら、強い日差しの当たる窓辺に、下に白い紙を敷いて置いてみてください。サンキャッチャーとなって、魔法がかかるかもしれません。特に夏がお勧めです♡)

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