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「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」田中さくら監督DAYをみる。


『マルセル 靴をはいた小さな貝』以来のシネ・リーブル梅田であります。

「みる専」として臨む映画祭というのも大阪アジアン映画祭振りということになります。パゾリーニに無茶苦茶泣かされたあの日、鮮明に覚えとるわ。今日は同志社大学の自主映画サークルF.B.IのOG、田中さくら監督が卒業制作として残した話題の逸品『夢見るペトロ』と撮り下ろし新作『いつもうしろに』の豪華二本立てでお送りします。大好物の16mmフィルムでもある。

https://www.instagram.com/doshisha_fbi/

『くすぐったい雲』(2019)

『星屑の影』(2019)

共に2019年の作品ですが、YouTubeから短編と中編が1本ずつ観られますよ。

「窓ガラス事件」を契機に17歳の主人公といじめられっ子な転校生との苦い恋模様が交錯する『くすぐったい雲』、7年振りに行方不明の恋相手を探す『星屑の影』に至るまで。実に耽美的で喪失感に満ちていて、素晴らしい。本当に素晴らしい。主宰のような性格にはこういう作風、絶対出せなかっただろうな。彼女の新作に心から触れてみたい、そう感じた瞬間でした。

上映後には、田中さくら監督の舞台挨拶も予定されていましたから遅い時間からでも迷いなく駆け付けた。メタ考察でちょろまかしてばっかりじゃダメですよね、やっぱり作り手の「生の声」に耳を傾けてこその映画レビュー。ひとえにそれは「作り手が語り得ぬ部分」を窺い知るための時間でもあり。生み出した作品の魅力は勿論、生み出す苦しみや葛藤まで共有したいから。

『夢見るペトロ』

弁セレでの上映に併せて、2種類の予告編がYouTubeで公開されていました。桜の花びらが優雅に儚げに舞い散る通常再生と逆再生の映像美。チラシ配りのアルバイトをしながら暮らすさっちゃんことさゆり(紗葉)の元へ、飼っていたインコのペトロを失くした兄りつ(千田丈博)が訪ねてくる。りつは近く結婚するようだ、さゆりはそんな現実から逃れようと過去や幻想に浸る。

鍵が掛かったままの鳥籠と、僅かに開いた部屋の窓。ペルジーノの名画でも知られるシモン・ペトロは神の言葉を分かつ大きな権限の象徴として、天国の鍵を与えられる程の存在でした。キリスト教主義教育を徳育の基本とする同志社大出身生ならではの視点、非常に良いスパイスとなっていましたね。りつが手首に抱える傷跡、マリモ、ランドセル、ガチャガチャのカプセル。

(唐突ですがここで、主宰を探せ‼️のコーナー‼️)

舞台挨拶でも語られていた角のない「丸みを帯びた美術」の数々がさゆりの抱える心の迷い、あるいは兄への偏愛や先天性ゆえの葛藤さえ優しく温かく包み込み全肯定してくれる。そんなウォームな質感が魅力的で。16mm映像の煌めきに心奪われた一方、ほのかに香り続けた「死生観」。いなくなってなんかないよ。朝は鳥になってあなたを目覚めさせる、そんな歌もあった。

ひょんなきっかけから、空を見上げるシーンで本作は締め括られる。離れて暮らす兄を思ってのことだったのか、ペトロが静かに舞い戻ってきてくれたためか。あるいは天国を見つめていたのか。とみちゃん(雪乃)とりつを挟み「こっちにおいで」と促されるシークエンスにはどこか、あの世とこの世の狭間、つまり仏教における中陰あるいは中有の世界観すら漂っていた。

『いつもうしろに』

同時上映された撮り下ろし新作『いつもうしろに』では一転、思い出の品々をポンポン捨ててしまうショウタ(大下ヒロト)が主人公。別れた彼女由香子(佐藤京)は、日本の裏側ブラジルまで飛び立つらしい。そんなある可燃ごみの日、怪しげなパンダの着ぐるみを纏った謎の女性に出会う。どこからどう見ても由香子だ。地球儀の反対側にいるはずなのに、なぜ。

例えば海外作品におけるポピュラーな手法として、世界地図を見た時、欧州とアメリカ大陸のちょうど中間点に位置する日本を「心の距離」「孤独感」になぞらえて描かれることがある。Air「Alone in Kyoto」、Lianne La Havas「Tokyo」などがそれにあたるでしょうか。溝が生まれてしまうのには何か大きな理由があるはず、手掛かりは「ショウタの就職が決まった」ことか。

たっちゃん(在原貴生)や先輩(二村仁弥)との再会を果たす過程で、浮き彫りとなってきた事実。「物を捨てる」という行為には「その物に係る思い出をも消し去ってしまいかねない」という危険性が潜んでいるもの。自分を変えるために、より良い自分像で上塗りするため。あるいは、辛く悲しい過去なら忘れてしまいたいと感じたために。キレッキレの感性に思わず軽く眩暈。

過去の亡霊になっちゃったねと肩を落とす人もいた、高校時代からなんにも変わってねえなと諭す人もいた。乱暴に突き放すだけでなくどこか温かい。「"大丈夫"は魔法の言葉だ」と昔、モノの本で読んで以降主宰も折に触れてつい口を突いて出てしまうのですよね。でもきっと、それでも大丈夫です。根拠のない自信ほど頼もしい存在ってそうなかなか他にないものですから。

"いつもとなりで"ではなく『いつもうしろに』としたところに光るセンス。背中越しには相手が喜怒哀楽どんな表情でいるか窺い知ることはできない。ただ姿勢や立ち姿からその一端を垣間見ることができたり、「寂しかったらいつでも振り向いてくれて良いんだよ」と寄り添ったり背中を押したりすることはできるかも。逆光シルエットが多用されていた理由もそこだったか。

「単館上映から全国へ」敢えて挑発的に煽り立てるならこうでしょうか、つまり今回両作共にクラウドファンディングの下支えによって紡がれた側面は非常に大きい。そういえば、友人親戚筋がようさん来おったわ。同じく自主映画ながら遮二無二コンペに出展し続けてきた身として、どこかシンパシーを感じてしまって。受賞経験が、確実にプレゼンスを高める。

なればこそとことん名前と顔を売って、表舞台へとのし上がって行けばいい。テアトル新宿だって3日間満席を勝ち取れた、それこそが答えです。良い監督に出会ったからこそ一人でも多くの目に触れるチャンスを得て欲しい。初めて短編を観た瞬間からすっかりファンボになったわ、これからも活動を応援していきますよ。ホンマあざした。どデカい刺激をもらえました。


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