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映画と音楽

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「好きなものを好きなだけ」 映画と音楽に纏わるエッセイやコラムを集めたマガジン。」
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#コラム

『コール・ジェーン』から考える女性の生きづらさ

『コール・ジェーン』から考える女性の生きづらさ

『コール・ジェーン』という映画を試写会で観た。会場にはたくさんの女性がいて、男性はほとんどいなかった。中絶が禁止されていた1960年代のアメリカでバレないように女性たちに闇中絶を実施する地下組織「ジェーン」が中絶の権利を勝ち取る実話に基づいた話だ。ほんの数十年前に中絶に対する運動があったことを知らなかった。どれだけ温床育ちなのだろうと自分の無知さを恥じた。

女性にとっては勇気をもらえる作品だった

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『だが、情熱はある』は、自分の中に眠る情熱を再び思い出させる物語だ

『だが、情熱はある』は、自分の中に眠る情熱を再び思い出させる物語だ

「たりないふたり」がドラマ化されるとニュースを見たときに、本当に大丈夫なのか?と不安もあった。それも束の間、銀杏BOYZのオープニングが流れ、二人がステージに立った瞬間にそれが杞憂だったと知る。

毎回、ドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)に魅了されている。「たりないふたり」とは、オードリーの若林と南海キャンディーズの山里の二人が組んだユニット。最近、よくお笑いを舞台にしたものが映像化されて

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『マイ・ブロークン・マリコ』は残酷な現実に放たれた一縷の希望の物語だった

『マイ・ブロークン・マリコ』は残酷な現実に放たれた一縷の希望の物語だった

人生とは奇妙なほどに残酷で、時折美しさを見せるものだ。幸か不幸か、どこに生まれるかは自分で選べない。一切の苦労をせずに平凡な幸せを営む人もいれば、生まれてくる場所を間違えたと思うほどに残酷な仕打ちが待ち受けている人もいる。幸いにも『マイ・ブロークン・マリコ』を観終えた瞬間の空は明るかった。もしも夜に本作を観ていたらと考えるだけで、居た堪れない気持ちになる。

痛みが心を支配する瞬間と出会った覚えは

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silent:想が綴った「言葉は何のためにあるのか」を再考する

silent:想が綴った「言葉は何のためにあるのか」を再考する

silent(フジテレビ系)の第8話で紬(川口春奈)が想(目黒蓮)に映画を観ようと提案した。どうやら失聴者でも鑑賞できるバリアフリー付きの映画があるらしい。スマホで自分が観たい映画を決めている紬を見て、想は「本当に観たい映画あるの?」と聞く。紬は失聴者の自分に合わせているだけと感じたのだ。

その矢先に、紬のアルバイト先の友人が偶然やって来る。想の病状を知らない友人は、戸惑いを隠せない。想には聞こ

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言わせてみてぇもんだ

言わせてみてぇもんだ

お昼頃からくだらぬテレビをつけっぱなしにして、気がついたら日が沈んでいた。書いても書いても終わらない原稿にどんどんプログラムが消化されていくテレビ番組。うまくいっていたはずの原稿を気に入らないからという理由ですべて白紙に戻す。

テレビの音声だけを聴きながら、原稿と向き合っていた。ニュース番組には連日、日本代表の話題ばかりが取り上げられている。下馬評を見事に覆し、ドイツに逆転勝ち。スペインとドイツ

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又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

「ここが一番安全な場所だよ」

「いつまでもつのか」

街の画廊を覗いている売れない劇作家である永田と俳優を夢見て上京した沙希が出会うシーンで、又吉直樹原作の『劇場』は動き出す。これはずっと安全な場所にいられると信じていたい女とそれがいつまでもつか不安になる男の物語だ。

最初はそれぞれの生活を過ごしていたが、売れない劇作家が女性の家に転がり込んだところで、物語は一変する。「ここが一番安全な場所だ

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『silent』湊斗の「元に戻りたい」という発言について難病の当事者が感じたこと

『silent』湊斗の「元に戻りたい」という発言について難病の当事者が感じたこと

湊斗の「元に戻りたい」という発言を無責任だと思った。元に戻れるわけがない。そもそも病気のあるなしにかかわらず、それぞれにそれぞれの8年があって、8年という月日は人の価値観や環境を大きく変えるものだ。

仮に昔の関係に戻れたとしても、完全に元通りになれるわけなんてない。加えて、湊斗が元に戻ったと感じたとしても、想の耳は聴こえるようにはならないし、想自身が元通りになったとは思わないだろう。

湊斗は高

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沢田研二『勝手にしやがれ』が映し出す未練がましい男のかっこ悪さ

沢田研二『勝手にしやがれ』が映し出す未練がましい男のかっこ悪さ

先日、カフェで知り合った友人たちとカラオケに行った。カラオケは最初に歌う曲が1番緊張する。1曲目さえ乗り越えれば、問題は解決するのだが、何を歌えばいいかいつも悩む。最初は「りれき」から歌う曲を選曲しているのだけれど、今回は自分が歌える曲がほとんどなかった。結局、何を歌ったのかは緊張しすぎて、よく覚えていない。

社会人になりたての頃、社内の先輩とカラオケに行く機会が多かった。自身が生まれる前から存

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29歳、12月24日、クリスマスイブ、志村正彦

29歳、12月24日、クリスマスイブ、志村正彦

クリスマスイブに思い出してしまう1人の男がいる。それはフジファブリックの志村正彦だ。2009年12月24日、クリスマスイブにフジファブリックのボーカルである志村正彦が29歳でこの世を去った。死因は不明。未だに死の謎が解明されていないあたりが、なんとも志村らしいとも思う。

フジファブリックは志村が亡くなったあともメンバーの入れ替わりはあるけれど、いまでもずっと続いている。志村の意思がそこにあるよう

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Creepy Nuts“かつて天才だった俺たちへ”はすべての主人公になれなかった神童に捧げる応援歌だった

Creepy Nuts“かつて天才だった俺たちへ”はすべての主人公になれなかった神童に捧げる応援歌だった

小さい頃はなんにだってなれると思っていた。それが時間と経験とともに、自身の至らなさに気づいて、「所詮自分はこんなものか」と掲げていた夢を諦めるようになる。でも、中には自身の可能性を諦めず、天才になれない事実に抗い続ける者もいる。天才になれなかったと嘆くか。天才になる努力を続けるか。人生の分岐点はおそらくこの辺りなんだろう。

苦手だとか 怖いとか 気づかなければ
俺だってボールと友達になれた

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11月が消えた

11月が消えた

11月が消えた。

2021年11月、20代最後の11月が跡形もなく消えた。11月が消えた瞬間に、人生の難しさを思い知らされた。それと同時に消えたことにも意味があると自分に言い聞かせる自分がいた。

11月の大半を病床で過ごしている。ありきたりな日常は奪われ、病床での日常がありきたりな日常と化した。悔やまれると言えばそれは紛れもなく事実だけれど、「うまくいかない日があることも人生だよ」と頭の中で囁

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My Hair is Bad:“裸”どれだけ過ちを繰り返そうと、どうせ人は裸に辿り着く

My Hair is Bad:“裸”どれだけ過ちを繰り返そうと、どうせ人は裸に辿り着く

My Hair is Badとの出会いは社会人になってからだ。“恋人ができたんだ”をどこかで耳にし、こんなに真っ直ぐな感情を歌詞に載せる歌手がいたのかと感心したものだ。一言で言えば共感。もっと言うならば、世の男性の恋愛の代弁者。それからいろんな曲を聴いたけれど、印象は「なんだこの女々しい歌詞は」だった。

女性の女々しさよりも男性の女々しさの方が厄介である。男性の女々しさはしつこさがずっと付き纏う

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マカロニえんぴつ“恋人ごっこ”|もう一度やり直したいと願ったあの日々へ

マカロニえんぴつ“恋人ごっこ”|もう一度やり直したいと願ったあの日々へ

終わった恋をもう一度だけやり直したい。そう願った経験は誰もがお持ちなんだろう。失恋したときは後悔に苛まれるくせに、終わってしまうまでその過ちに気付かない。それでもやっぱり人は何度も恋に落ちる。性懲りもなく何度でもまた恋に落ちていくのだ。

2020年2月7日にDigital Singleとしてリリースされた“恋人ごっこ”。2ndフルアルバム“hope”に収録され、MVの再生回数は2000万回を超え

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中島美嘉:“GLAMOROUS SKY”はモラトリアム期を綴った歌だった

中島美嘉:“GLAMOROUS SKY”はモラトリアム期を綴った歌だった

中学生の頃に、『中島美嘉』の“GLAMOROUS SKY”と出会った。とはいえ、当時はテレビで『中島美嘉』がこの楽曲を歌っているぐらいの印象だった。この楽曲の思い出よりも、ドイツW杯の思い出の方が正直強い。ジダンが決勝戦でマテラッツィに頭突きをして、退場になったあの衝撃はいまでも鮮明に覚えている。

“GLAMOROUS SKY”は映画『NANA』の主題歌だ。主人公大崎ナナ(中島美嘉)が劇中で歌っ

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