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沢田研二『勝手にしやがれ』が映し出す未練がましい男のかっこ悪さ

先日、カフェで知り合った友人たちとカラオケに行った。カラオケは最初に歌う曲が1番緊張する。1曲目さえ乗り越えれば、問題は解決するのだが、何を歌えばいいかいつも悩む。最初は「りれき」から歌う曲を選曲しているのだけれど、今回は自分が歌える曲がほとんどなかった。結局、何を歌ったのかは緊張しすぎて、よく覚えていない。

社会人になりたての頃、社内の先輩とカラオケに行く機会が多かった。自身が生まれる前から存在する曲を歌われてもわからないし、楽しくないってのが本音だ。どの年代の方とカラオケに行っても楽しめるように、昭和の曲や最新の曲を、Apple Musicで何度も聴いて勉強した。その甲斐あって、いまは最新の曲はもちろん、昭和の曲も歌えるようになり、どの年代の方と行ってもある程度楽しめるようになった。

かつて昭和の曲を知らなかった僕でも知っていた曲がある。沢田研二さんの『勝手にしやがれ』だ。「あんたまだ生まれてないでしょ」と高確率で言われるのだが、B'zの稲葉さんがカバーしていることをご存知だろうか。

B'zの稲葉さんの『勝手にしやがれ』は、坂元裕二さんが脚本を書いたドラマ『あなたの隣に誰かいる』の挿入歌として抜擢されたカバー曲だ。ドラマの中盤以降にかかる『勝手にしやがれ』があまりにもかっこよすぎて、ずっと胸に残っている。ある日『勝手にしやがれ』の歌詞をちゃんと知りたくなって、ネットで調べたときに、沢田研二さんの曲だと知ったのだ。

ちなみに『あなたの隣に誰かいる』は、胸糞作品で僕が小学生のときに放送されていた。蟲男役の北村一輝さんがはまり役でかっこ良かったけれど、物語のオチが小学生が観るレベルではないレベルで衝撃的だった。坂本裕二といえば『東京ラブストーリー』や『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』『花束みたいな恋をした』を連想するが、1番衝撃を受けた作品はやはり『あなたの隣に誰かいる』だ。坂本裕二さんにはせひとも『あなたの隣に誰かいる』のような胸が抉られる脚本をまた書いてほしい。

おっと、話を戻そう。

『勝手にしやがれ』で、映し出されるジュリーのダンスが好きだ。歌いたいというよりも映像を見るために、選曲しているのかもしれない。「アアア〜」のフレーズのジュリーは色気に塗れている。未練がましい男のめいいっぱいの強がりなのかもしれないが、彼のダンスを観るたびに、どんな人生を送ってきたのだろうとつい聞きたくなるほどだ。

『勝手にしやがれ』は、タイトルの割に女々しい歌詞だ。勝手にしろと言っているくせに「戻る気になりゃいつでもおいでよ」と未練がましい歌詞が印象的である。本気で好きになった女性ほどすぐに忘れたい。でも、本気で好きになったからこそ離れ難いものだ。カッコつけたいけれど、未練がましさが残るダサい男を見事に描いているからカッコいい。

本気の恋は忘れたいけれど、忘れたくない。そう感じてしまうほどの魅力があったのかもしれないけれど、それは全部時間が美化していると信じていたい。前に進むためには時間が必要だけれど、時間をかけてゆっくり思い出が美化されるのも事実だ。それでもいつか綺麗になった思い出を、大きな鞄に詰め込んでしまうかもしれない。その一連の行為は、前に進むための準備だと信じたい自分がいる。

恋も友情もぜんぶ勝手にしやがれの精神で生きていたいのだけれど、ときには女々しさも必要なんだと思う。泣きたくなる夜は、夜というのに派手なレコードをかけて、自分といた頃よりも綺麗になったお前を見て見ぬ振りする。これまでもずっと弱さを認めて、確固たる強さを手に入れてきた。そうやって生きていけば、ジュリーのようなカッコいい男になれるのかもしれない。

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