見出し画像

中島美嘉:“GLAMOROUS SKY”はモラトリアム期を綴った歌だった

中学生の頃に、『中島美嘉』の“GLAMOROUS SKY”と出会った。とはいえ、当時はテレビで『中島美嘉』がこの楽曲を歌っているぐらいの印象だった。この楽曲の思い出よりも、ドイツW杯の思い出の方が正直強い。ジダンが決勝戦でマテラッツィに頭突きをして、退場になったあの衝撃はいまでも鮮明に覚えている。

“GLAMOROUS SKY”は映画『NANA』の主題歌だ。主人公大崎ナナ(中島美嘉)が劇中で歌ったことが、大ヒットに繋がった。

“GLAMOROUS SKY”との思い出は、どちらかというと高校時代の方が強い。それは「何者かになりたい」ともがくアルバイトの先輩が、カラオケでよく歌っていたためだ。

先輩は大学を中退し、フリーターとしてアルバイトに勤しんでいた。毎日職場にいるため、新人さんからはよく社員だと間違えられていたことも懐かしい思い出である。

先輩はどちらかとえば、いじられキャラだった。年齢に関係なく、いろんな人にいじられる。僕らは先輩のことを「コーン先輩」と呼んでいた。どんな無茶ぶりに対しても、関西人特有のノリツッコミを披露し、その場にはいつも笑いの渦が起きていた。先輩がいるときはどれだけ忙しくても楽しく乗り切れたし、バイト終わりにみんなでご飯に行くことも恒例行事になっていた。

ある日バイト終わりに、先輩に「なんで大学を辞めたんですか?」と、質問したことがあった。すると先輩は「大学に行って、就職する。それが当たり前の日本っておかしいと思わないか?だって選択肢はもっとあるのに、それが正解だと言われすぎてなんだか疲れたんだよ」と言っていた。

海外では大学を卒業してから2〜3年は就職せずに、旅や経験に時間を費やすらしい。みんなが就職をしていく中で焦りがないわけではないんだけれど、先輩にはやりたいことがない。だから、いつもと変わらない毎日を変えられずにいる。そして、現状を変えたいと思っていたことも事実なんだろう。

繰り返す日々になんの意味があるの?

先輩と一緒にカラオケに行くたびに、必ず中島美嘉の“GLAMOROUS SKY”を先輩は歌っていた。まるで繰り返す日々になんの意味があるの?と叫ぶかのように。あの言葉はきっと自分に言い聞かせていたんだろう。やりたいことがないと嘆く自分自身に。

中島美嘉の高音をうまく歌いこなす先輩はとてもかっこよかった。歌を歌っているときは、悩みがどこかに吹き飛ぶんだろう。体全体を使って、魂を込めて歌を歌うその姿はいきいきとしており、僕らの部屋にはいつも大きな手拍子が起きていた。

僕は“GLAMOROUS SKY”よりも伊藤由奈が歌う“ENDLESS STORY”が好きだった。高校時代は教員になると決めていたため、先輩の気持ちが全然わからなかった。「自分のことを誰かに理解してほしい、でも自分がどんな人間かはわからない」と嘆く姿はかっこ悪いとさえ思っていた。“ENDLESS STORY”は思いの丈をありのまま綴っているイメージ。これぐらい素直な生きた方をした方が、絶対に楽に生きられるとさえ思っていた。

SUNDAY MONDAY 稲妻 TUESDAY WEDNESDAY THURSDAY 雪花… FRIDAY SATURDAY 七色 EVERYDAY 闇雲 消える FULL MOON 応えて 僕の声に

先輩は変えられない毎日に、一体何を期待していたんだろう。自分の声が届かない現状に苛立ちを抱いていたのだろうか。目的地のない道を闇雲に歩いて、七色の毎日を期待し、儚くも消えてしまったその期待に絶望していたのかもしれない。

大学生になって、先輩の気持ちがよく理解できた。きっと大学生特有のモラトリアム期があるんだろう。何者かになりたい。でも、その何者かがわからない。自分探しのために、九州1周やヒッチハイクをしても、そこに自分はいなかった。大学を卒業してから数年が経ったのちに、「自分は自分にしかなれない」とようやく気づくことができた。

この夢を抱えて 一人歩くよ GLORIOUS DAYS

先輩は僕が大学生になって半年ほど経ったあとに、アルバイトを辞めて、地方の中小企業に就職した。きっと先輩もどこかで折り合いを付けたのかもしれない。繰り返す日々に意味を見出したんだろう。だから、会社員になる選択を選んだ。僕たちはお互いにモラトリアム期を乗り越えた。いまなら先輩の気持ちが十分にわかる。そして、いつかまたどこかでお会いできたそのときには、あのときと同じカラオケボックスで、先輩が魂を込めて熱唱する“GLAMOROUS SKY”で盛り上がりたい。

この記事が参加している募集

思い出の曲

振り返りnote

ありがとうございます٩( 'ω' )و活動資金に充てさせて頂きます!あなたに良いことがありますように!