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映画と音楽

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「好きなものを好きなだけ」 映画と音楽に纏わるエッセイやコラムを集めたマガジン。」
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#毎日note

『コール・ジェーン』から考える女性の生きづらさ

『コール・ジェーン』から考える女性の生きづらさ

『コール・ジェーン』という映画を試写会で観た。会場にはたくさんの女性がいて、男性はほとんどいなかった。中絶が禁止されていた1960年代のアメリカでバレないように女性たちに闇中絶を実施する地下組織「ジェーン」が中絶の権利を勝ち取る実話に基づいた話だ。ほんの数十年前に中絶に対する運動があったことを知らなかった。どれだけ温床育ちなのだろうと自分の無知さを恥じた。

女性にとっては勇気をもらえる作品だった

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又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

「ここが一番安全な場所だよ」

「いつまでもつのか」

街の画廊を覗いている売れない劇作家である永田と俳優を夢見て上京した沙希が出会うシーンで、又吉直樹原作の『劇場』は動き出す。これはずっと安全な場所にいられると信じていたい女とそれがいつまでもつか不安になる男の物語だ。

最初はそれぞれの生活を過ごしていたが、売れない劇作家が女性の家に転がり込んだところで、物語は一変する。「ここが一番安全な場所だ

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29歳、12月24日、クリスマスイブ、志村正彦

29歳、12月24日、クリスマスイブ、志村正彦

クリスマスイブに思い出してしまう1人の男がいる。それはフジファブリックの志村正彦だ。2009年12月24日、クリスマスイブにフジファブリックのボーカルである志村正彦が29歳でこの世を去った。死因は不明。未だに死の謎が解明されていないあたりが、なんとも志村らしいとも思う。

フジファブリックは志村が亡くなったあともメンバーの入れ替わりはあるけれど、いまでもずっと続いている。志村の意思がそこにあるよう

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Creepy Nuts“かつて天才だった俺たちへ”はすべての主人公になれなかった神童に捧げる応援歌だった

Creepy Nuts“かつて天才だった俺たちへ”はすべての主人公になれなかった神童に捧げる応援歌だった

小さい頃はなんにだってなれると思っていた。それが時間と経験とともに、自身の至らなさに気づいて、「所詮自分はこんなものか」と掲げていた夢を諦めるようになる。でも、中には自身の可能性を諦めず、天才になれない事実に抗い続ける者もいる。天才になれなかったと嘆くか。天才になる努力を続けるか。人生の分岐点はおそらくこの辺りなんだろう。

苦手だとか 怖いとか 気づかなければ
俺だってボールと友達になれた

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11月が消えた

11月が消えた

11月が消えた。

2021年11月、20代最後の11月が跡形もなく消えた。11月が消えた瞬間に、人生の難しさを思い知らされた。それと同時に消えたことにも意味があると自分に言い聞かせる自分がいた。

11月の大半を病床で過ごしている。ありきたりな日常は奪われ、病床での日常がありきたりな日常と化した。悔やまれると言えばそれは紛れもなく事実だけれど、「うまくいかない日があることも人生だよ」と頭の中で囁

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amazarashi“僕が死のうと思ったのは”は絶望の中に見えた微かな希望だった

amazarashi“僕が死のうと思ったのは”は絶望の中に見えた微かな希望だった

20歳になって生きる意味が見つからなかったらもう死んでしまおう。

淡々と流れる日常に意味を感じなくなった僕は、いつもそんなことばかり考えていた。

19歳といえば、モラトリアム期の渦中にいた。それは誰もが通る道なのかもしれない。

簡単に「死にたい」と口走っていた当時をいま振り返ると、「若い」の一言で片付けられる。でも、それは乗り越えたからに過ぎない。

「何者かになりたい」

では、その何者と

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My Hair is Bad:“裸”どれだけ過ちを繰り返そうと、どうせ人は裸に辿り着く

My Hair is Bad:“裸”どれだけ過ちを繰り返そうと、どうせ人は裸に辿り着く

My Hair is Badとの出会いは社会人になってからだ。“恋人ができたんだ”をどこかで耳にし、こんなに真っ直ぐな感情を歌詞に載せる歌手がいたのかと感心したものだ。一言で言えば共感。もっと言うならば、世の男性の恋愛の代弁者。それからいろんな曲を聴いたけれど、印象は「なんだこの女々しい歌詞は」だった。

女性の女々しさよりも男性の女々しさの方が厄介である。男性の女々しさはしつこさがずっと付き纏う

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マカロニえんぴつ“恋人ごっこ”|もう一度やり直したいと願ったあの日々へ

マカロニえんぴつ“恋人ごっこ”|もう一度やり直したいと願ったあの日々へ

終わった恋をもう一度だけやり直したい。そう願った経験は誰もがお持ちなんだろう。失恋したときは後悔に苛まれるくせに、終わってしまうまでその過ちに気付かない。それでもやっぱり人は何度も恋に落ちる。性懲りもなく何度でもまた恋に落ちていくのだ。

2020年2月7日にDigital Singleとしてリリースされた“恋人ごっこ”。2ndフルアルバム“hope”に収録され、MVの再生回数は2000万回を超え

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中島美嘉:“GLAMOROUS SKY”はモラトリアム期を綴った歌だった

中島美嘉:“GLAMOROUS SKY”はモラトリアム期を綴った歌だった

中学生の頃に、『中島美嘉』の“GLAMOROUS SKY”と出会った。とはいえ、当時はテレビで『中島美嘉』がこの楽曲を歌っているぐらいの印象だった。この楽曲の思い出よりも、ドイツW杯の思い出の方が正直強い。ジダンが決勝戦でマテラッツィに頭突きをして、退場になったあの衝撃はいまでも鮮明に覚えている。

“GLAMOROUS SKY”は映画『NANA』の主題歌だ。主人公大崎ナナ(中島美嘉)が劇中で歌っ

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『BUMP OF CHICKEN』“とっておきの唄”〜とっておきになれなかった2人へ〜

『BUMP OF CHICKEN』“とっておきの唄”〜とっておきになれなかった2人へ〜

『BUMP OF CHICKEN』の“とっておきの唄”を聴くたびに、思い出す2人の男女がいる。

学生時代の同期だ。僕は両方と仲が良かった。僕たちは別の友人含む4人で頻繁に遊んでいたため、2人がお別れしたあとは「どっちを誘えばいいかな」と困惑していた。

学校の遅刻は当たり前、勉強は全然できないけど、ルックスが抜群にいいお調子者だった男。男とはまるで正反対。遅刻欠席なし、皆勤賞をいつも獲得していた

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かけがえのない1日を丁寧に生きることの大切さは全部「アバウトタイム」が教えてくれた

かけがえのない1日を丁寧に生きることの大切さは全部「アバウトタイム」が教えてくれた

いつかの過去を思い出して、あのときああしていれば、もう一度やり直せるならなんてありもしないもしもを考えてしまう人は多いだろう。もう2度と過去には戻れやしないのに、過去にばかり目を向けて、過去の思い出をずっと思い出している。2度と戻らない過去を思い出してしまうあの現象を、誰かが勝手に「後悔」と名付けた。

過去に後悔を馳せるたびに、観たいと思ってしまう映画がある。その映画の名前は「アバウトタイム」だ

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性格の悪い友達とは会わなければいいけど、性格の悪い自分とは別れられない

性格の悪い友達とは会わなければいいけど、性格の悪い自分とは別れられない

これは「大豆田とわ子と三人の元夫」の台詞である。最近いろんな人に勧められて、この作品を観ている。元妻と三人の元夫の関係性を描いた物語。本作はストーリーもいい。それよりもとにかく刺さる台詞が多くて、ついメモを取りながら観たくなる。名台詞を全部紹介したいんところなんだけれど、今回はこの台詞を聞いて感じたことを自分のためにメモとして残しておきたい。

「性格の悪い友達とは会わなければいいけど、性格の悪い

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「the pillows」:“Funny Bunny”|夢が叶ったのは自分が頑張った証拠

「the pillows」:“Funny Bunny”|夢が叶ったのは自分が頑張った証拠

キミの夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ 風の強い日を選んで走ってきた

「the pillows」の“Funny Bunny”に出会ったのは、中学生のときだった。

「BUMP OF CHICKEN」や「ELLEGARDEN」、「RADWIMPS」などあらゆるロックバンドにハマったのも中学時代。当時は新しいロックバンドと出会うために、友人とよくTSUTAYAに行っては、いろんなロックバンドのCD

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『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代を送りたかった

『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代を送りたかった

これほどまでに「こんな高校生活を送りたかった」と思えた作品は、これまでにあっただろうか。ただの青春と言えばそうとも言える。でも、その一言では片付けられないとある高校生の青春物語がそこにはあった。

恋愛、時代劇、SF、高校生、友情など、あらゆるジャンルがミックスされた現代版恋愛SF青春映画。主人公は伊藤万理華が演じるハダシ、謎の高校生・凛太朗を演じる金子大地。ハダシの幼馴染・ビート板を演じる河合優

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