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『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代を送りたかった

これほどまでに「こんな高校生活を送りたかった」と思えた作品は、これまでにあっただろうか。ただの青春と言えばそうとも言える。でも、その一言では片付けられないとある高校生の青春物語がそこにはあった。

恋愛、時代劇、SF、高校生、友情など、あらゆるジャンルがミックスされた現代版恋愛SF青春映画。主人公は伊藤万理華が演じるハダシ、謎の高校生・凛太朗を演じる金子大地。ハダシの幼馴染・ビート板を演じる河合優美、ブルーハワイを演じる祷キララと、次世代を担う若手俳優がずらりと並ぶ。きっとこの作品から未来の大スターが出てくると勝手に妄想している。

舞台はとある高校の映画部。主人公ハダシはずっとモヤモヤを抱えていた。同級生の花鈴(甲田まひる)が監督を務める恋愛映画『大好きってしかいえねーじゃん』が部内の人気投票で、高校最後の文化祭で上映されることになったのだ。ハダシが提案した時代劇『武士の青春』は呆気なくなかったことになったけれども、彼女の胸の中の熱いものは溶けてなくならない。

『大好きってしかいえねーじゃん』の撮影風景を見ていると、「自分たちが目立ちたいだけのラブコメ」という印象だった。主役がどれだけ輝けるかに主軸を置いている。ただ自分たちが目立つに重きを置き、主演の魅力を引き立たせる作品。でも、いかにも高校生らしい考え方が、青くていいなと思った。

THE・高校生である花鈴に比べると、ハダシは映画のクオリティに拘っている。もちろん花鈴もクオリティには拘っているけれど、ハダシとはちがう種類のクオリティだ。ハダシはいつも時代劇を観ており、台詞だけでなく、役の演出もきちんと覚えている。自身が手掛ける作品もクオリティに拘るがあまりに、主人公の配役がなかなか決まらない。物語の面白さだけなら絶対にハダシの『武士の青春』の方が面白いと思う。なんて大人の考えである。高校生は自分たちの青春をいかに楽しむかを考える。それが花鈴率いる映画チームとハダシ率いる映画チームのちがいでもあった。

文化祭で時代劇『武士の青春』が放送される可能性はなくなった。それでも「時代劇を撮りたい」と考えたハダシは主人公を探していた。そこで現れたのが、凛太朗である。凛太朗を一目見た瞬間から「主人公は絶対に凛太朗」とハダシは心に決めていて、自身のコレクションをあげる代わりに時代劇に出てと交渉したり、縄で縛って「出てくれるまで帰さない」とその心は本気だった。

映画作りにひと夏のすべて捧げる彼女たちに対して、自身の高校時代は、何かに熱中することがなかった。部活動を辞め、バイトと遊びに明け暮れる日々。バイトも遊びもたしかに楽しかった。その一方で、心の中に空いた穴の正体は卒業してもわからないままだった。でも、『サマーフィルムにのって』を観て、正体不明の穴の正体がやっとわかった。

その正体は本気で何かに熱中していなかったことである。後悔先に立たず、だからこそ、いま自分のやりたいことばかりやっているのかもしれない。きっとそうだ。そうにちがいない。

先日、高校の同級生と会ったときに、「もし、高校生に戻ったら何をする?」という話題で盛り上がった。1人は「もっと必死に勉学に励む」で、もう1人は「好きだった人に告白をする」だった。それぞれに後悔を抱え、後悔を納得に変えるために、人は熱意を持って後悔に立ち向かうのだろう。

『サマーフィルムにのって』を観て、映画撮影ではなく、「演じる」に興味を持った僕は、「演劇部に入るかな」と返した。ところが、僕が通っていた高校には演劇部なんて存在しない。ないなら自分で作ればいいかと考えていたときに、同級生が「いまのあなたの行動力なら演劇部を自分で立ち上げてそうだね」と笑っていた。流石は10年以上付き合いのある友人だ。よくわかっていらっしゃる。

たとえ演劇部がなかったとしても、ハダシが勝手に映画を作ったように、自分で勝手に作ればいい。それだけの可能性が僕たちには残されているのだから、やりたことがあるのであれば、自分の声に素直になってやればいい。

拙いけれど、暑苦しい。それでいて甘酸っぱい恋愛物語。爽やかで、キラキラとした清々しいひと夏の青春。ありきたりと言えばありきたりかもしれない。でも、そこにSFがミックスされたことによって、映画じゃなきゃできない新しい世界を知った。

行動に理屈なんて必要ない。すべてを捧げてでも、やりたいことに全力投球する彼女たちの青春には思わず心を打たれた。当たり前だけれども、忘れかけていた大切なことを教えてくれたのが、『サマーフィルムにのって』だった。

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