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『BUMP OF CHICKEN』“とっておきの唄”〜とっておきになれなかった2人へ〜

『BUMP OF CHICKEN』の“とっておきの唄”を聴くたびに、思い出す2人の男女がいる。

学生時代の同期だ。僕は両方と仲が良かった。僕たちは別の友人含む4人で頻繁に遊んでいたため、2人がお別れしたあとは「どっちを誘えばいいかな」と困惑していた。

学校の遅刻は当たり前、勉強は全然できないけど、ルックスが抜群にいいお調子者だった男。男とはまるで正反対。遅刻欠席なし、皆勤賞をいつも獲得していた真面目な女。正反対の2人がどうやって惹かれあったのかは知らないけれど、2人が一緒にいるところは。温かい日差しを浴びている感覚みたいで好きだった。

ちなみに僕が『BUMP OF CHICKEN』と出会ったのは中学2年生の時である。当時はBUMPのCDを持っているだけでクラスで人気者になれるほど。学校内で空前のBUMPブームが起きていた。

“FLAME VEIN”THE LIVING DEAD”、“jupiter” 、”ユグドラシル”などあらゆるアルバムを聴くために、TSUTAYAで片っ端しからアルバムをレンタルした。中でも”ユグドラシル”は圧倒的な人気を誇り、「どの曲が一番良かった?」と絶対に結論が導き出せない議論で熱くなったものだ。また『BUMP OF CHICKEN』はアルバムの中に隠しトラックを収録していて、「誰が一番最初に隠しトラックを見つけるか」で競争したことも今では懐かしい思い出だ。

ゆっくりでいいから君が本当に笑って泣けるような2人になろう

当時お付き合いをしていた2人がよく一緒に聴いていた楽曲が。『BUMP OF CHICKEN』の“とっておきの唄”だ。歌詞に現れる2人の関係性に憧れた彼女は、「2人が本当に笑って泣けるような関係性になれたらいい」みたいな発言を、よく口にしていたらしい。

「歌詞に2人を重ねるなんて、かわいいじゃないか」と友人に伝えると、「こういう女性が、別れたときに歌詞をポエムみたいにSNSにつぶやくんだぜ」と鼻で笑っていた。なんて言いながら彼女をずっと愛していたのが彼で、彼を捨ててしまったのが彼女である。

よくあるlove songでも2人の前だけでトクベツであればいい

2人の別れの経緯はもう忘れた。でも、2人はお別れし、2人がよく聞いていた“とっておきの唄”は勝手に2人の特別になってしまった。彼女がいなくなってしまったあとも、“とっておきの唄”を聴くたびに、彼は彼女の顔を思い出してしまうそうだ。

川端康成が『掌の小説』の中に「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」と記した。これは僕の友人から聞いた話だけれど、桜やひまわり、コスモスなど、道端で毎年目にする花の名前を教えておくと、どうやら効果を発揮しやすいらしい。

そう考えると、音楽だって花と同じだ。頼んでもいないのに、その楽曲と巡り合った瞬間、記憶の底に勝手に根付いてしまう。そして、ふとしたタイミングでラブソングのようにはなれなかった2人の過去を一緒に引き連れて蘇る。だから好きな人には花の名前じゃなくて、好きな楽曲やアーティストを教えてやればいい。

魔法のアルバムに続きを

2人がゆっくりと本当に笑って泣けるような関係になるために、手を繋いで歩み寄ったのは事実なんだろう。なんでもない日も記念日にして、地図にもない場所へ向かおうとした。そして、理想の関係になるために、歩み寄った結果、すれ違いを繰り返し、その結果が別れになった。

別れてからなんでもない日にも小さなドラマがあることに男性が気づいた。だから彼は彼女の好きだった“とっておきの唄”を聴くたびに、2人が本当に笑って泣けるような2人になれなかった後悔を思い出して、人知れず泣いてしまうのだろう。


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